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【納涼】ATMの怪

 幽霊話を聞くのは大好きだけど、幽霊を見たことはないしできれば出会いたくない。

「幽霊の正体は思い出」
 と誰かが言っていた。私の思い出を綴っているこのnoteも浮遊霊みたいなもので、私が死んでもネットの海をぷかぷかと漂い続けるのだろう。そしてうっかりこのnoteを開いてしまった誰かのスマートフォンに忍び込み、音楽のプレイリストに曲を追加したり、撮った覚えのない写真を残したりしたい。夢ふくらむ。

 あれも、そんな幽霊の仕業だったのだろうか。

 昔、東京に住んでいた頃のこと。外は薄暗かったが夜には早い時間だったと思う。
 私は閉店後の銀行のATMコーナーに入った。大きな店舗だったので十台ほどの機械が並んでいたが、先客はおらず私ひとりだった。正面真ん中のATMの前に立つとセンサーが反応し、

「いらっしゃいませ。ご希望のお取引を押してください」

 と音声が流れた。

 私はタッチパネルの『お引き出し』を押し、キャッシュカードを入れて暗証番号や金額を入力し、現金を受け取った。財布を鞄にしまうとATMを背に、出口の方へ歩き始めた。

 出口のドアが目前まで来たときだった。
 背後のATMが一斉に、


「いらっしゃいませ。ご希望のお取引を押してください」


 と合唱した。

 私は振り返らずにドアを開け、外へ出た。


 十台のATMのセンサーは一体何に反応したんだろう。今はもうATMを利用することはないが、時々ふと思い出す。

 今日は旧盆のお迎えの日。ご先祖様はどこぞで迷わず無事帰宅できますように。


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