穴-2
僕の仕事の主な事は、分厚い鉄板をプレス機に掛けて成型するというものだ。
スーパーハウス程の大きさの金型をクレーンで吊り、プレス機にセットしてから、段取りをする。
掌サイズ程の重く硬いナットをモンキーで締めると、作業が始まる。
基本的に部材を入れて成型された物を取り出す単調な作業が延々と続くだけなのだが、心を無にして取り組む事が出来るので、それ程苦痛でもない。
人付き合いは苦手だし、この動作を決められた時間内続けていれば、お金がもらえるのだから、必要最低限の生活をするだけなら、これで良いのかもしれないと最近思っている。
工場内に掲げられた「5S運動実施中」という幟とは裏腹に、現場は酷く汚れていて、清掃は行き届いていない。
中小企業でまともに整理整頓清掃清潔を実施している所等、どれ程あるのだろうと不思議に思っていた。
格好だけは付けたくて、スローガンを掲げるぐらいなら、僕等の給料に反映して欲しいとよく思う。
作業に慣れていないと、時間の流れは早いが、経験を積み、ある程度作業の流れを掴んでくると、酷くゆったりとしたものである。
油、溶接場から鼻腔に刺さる焦げた臭い、死んだ目をして作業する同僚、薄暗い水銀灯、全てが不快感を誘い、気分を落とそうとしてくる。
そんな時、僕は決まって鼻歌を歌う。
寝ている時、時間はあっという間に過ぎる。
しかし、危険な作業を目の前にして寝る訳にもいかない。
ならば、楽しい事をしているつもりになれば、時間は駆け足になっていく。
楽しい楽しい時間。
無機質な機械音と、ブザー、尋常では無い油圧で床が揺れる。
全ては僕を高めてくれる音楽なのだ。
そして、その楽しい時間も終わりを告げる。
休憩時間のチャイムが鳴り響いた。
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