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飲食店は外国人にどうやって異文化を理解してもらうか?

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今回の「ワイングラスのむこう側」は、最近ますます増えている、外国人観光客について考えます。彼らにどうやって異文化を楽しんでもらえるか、飲食店が抱える悩ましい問題です。

注文の多い飲食店は好かれない

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

以前、友人の飲食店が、あるインフルエンサーさんに絡まれてちょっとした炎上をしてしまったことがありました。そのお店、「携帯電話のご使用はお断りしています」とか「未就学児の入店はお断りしています」とか、そういうのを5項目くらい書いた紙を入り口のところに貼っていたんです。

その紙を、あるインフルエンサーが撮影して、「注文が多い、めんどうくさい店!」みたいなことをコメントしてアップしたところ、すごく拡散されてしまって、いろいろ言われてしまったというわけなんです。

最近、渋谷の飲食店でよく見かけるようになったのが、入り口のところに外国語で「ひとり、ひとつの注文をお願いします」みたいなことが書いてある張り紙です。

大通りの1階ですごく目立つ店舗だったり、ネットで評価が高い店だったりすると、外国の方が複数人で来店して一皿だけ注文し、それを複数人で食べるっていうようなことがよくあるそうなんです。飲食店での振る舞い方は国によって違いますから、そういうこともあるだろうなあとは想像できます。

僕たち日本人も、外国の飲食店で、「日本人ってチップ払わないなあ」とか「日本人って1杯でずっといるなあ」とか「日本人って注文の仕方知らないなあ」とかいろいろと言われているはずです。だから入り口のところに、「こういうルールです」って書くしかないんだなあとは思います。

僕も先日、ある外国の方が、棒に刺した大きいキャンディーを食べながら入ってきたので、「キャンディーはごめんなさい」と伝えると、ひどく言われたことがありました。でも、バーの入り口に、「飲食物の持ち込みはお断りしています」って書くのって、すごくカッコ悪いと思うんですよね。

外国人観光客が抱く誤解

先日、キャリアコンサルタントの山本恵亮さんのnoteで、日本語が話せないお客様はお断りしている、というお店のことを知りました。

詳しくは読んでいただくとして、その飲食店では、店主の方が、どういう食材を使って、どういう意図でその料理を作っているのかを説明しているのだけど、それが伝わらないならお断りしたいということなんです。いやあ、その店主の方の気持ちわかるなあと思いまして。

例えば最近、bar bossaは日本のワインをたくさん出しているのですが、巨峰やデラウェアを使ったワインがあるんですね。一度、外国の方に「これは日本のデラウェアのワインです」って伝えてお出ししたところ、おもいっきり不味そうな表情を見せまして、残されたんです。

そういうことって予想できてまして、日本のお客様にもデラウェアや巨峰のワインを出すときは、「あの巨峰の味がしますよ」って伝えているんですね。日本人の場合は巨峰の味がするワインって言われると、「あ、それはちょっと自分は苦手かも」って予想してもらえるんです。

でも外国の方って、巨峰を知らないじゃないですか。「食べるブドウ」って説明しても、あまり伝わらないです。

そういう行き違いがどうしてもあって、それを「日本での面白い体験」って思っていただけたらいいのですが、「日本のワインって不味いね。やっぱりまだまだワイン後進国だね」みたいに思われたら納得いかないじゃないですか。さらに、それをGoogleなんかに書き込まれたらもっと納得いきません。

あるいは、bar bossaって、ボサノヴァのレコードをかけているバーなんですね。これって日本独自のジャズ喫茶文化と言いますか、こういう風にレコードをかけてそれを聞いて楽しむ飲食店って、日本ならではのスタイルなんです。それ自体は最近は海外でも有名で、韓国や台湾はもちろん、欧米でも、このレコードをかけて楽しむ飲食店のスタイルが流行っているそうです。

でも、「ボサノヴァとワインのバー」って書いてあると、「ライブがあるのが当然」と思う外国人もいれば、「踊れるDJが入ってるクラブ」と思う外国人もいます。それで、たまに海外から電話がかかってきて予約されることもあるのですが、「本当に大丈夫?」って思って、「ライブはないですよ」って先に伝えることもあります。

異文化を本当のところでちゃんと楽しんでもらうって難しいです。でも、僕としてはやっぱり、「お店の中でスマホで音楽をかけないでください」みたいな、それ当然でしょみたいな「注意喚起」ってできればしたくないんですね。カッコ悪いじゃないですか。

今、すごく円安だから日本全国で似たような悩みを持っているお店の人っていると思って、ちょっと書いてみました。あなたはどう思われますか?

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林伸次(はやし しんじ) 1969年生まれ。徳島県出身。1997年創業の渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。本連載の書籍化『ワイングラスのむこう側』『大人の条件』はじめ書籍多数。また『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』など、小説も執筆。

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