腹部大動脈破裂と私の仕事
私の仕事は、日々「やばいか、やばくないか」を瞬時に判断し、その結果に基づいて行動することです。朝の申し送りでは、夜勤の先生から患者さんの状況を確認し、どのような状況なのかをしっかり把握する必要があります。特に、悪化する瞬間を見逃さないよう、常に意識を研ぎ澄ませています。昨日の症例では、看護師さんが複数集まっているのを見て「やばい状況」と誰もが認識している状況。そして、すでに初療が始まっていたため、私自身が慌てることなく、(慌てたそぶりを見せることなく)状況を確認し、適切な対応を取ることが重要でした。引き継ぎを簡潔に受けながら、診察を進めました。
患者さんは突然お腹の痛みを訴え、血圧が下がり始めていました。痛みと血圧低下に加え、不穏状態という意識障害も見られたため、事態が一刻を争うと判断しました。超音波を当てたところ、大きな瘤(大動脈瘤)があり、明らかにその一部が裂けていることが確認できました。
私が昨日勤務していたのは、地域の総合病院です。このような重篤な症例に対応する際には、診断を下すだけでなく、心臓血管外科の先生との連携やチーム全体での対応が欠かせません。特に、病院間の連携では心臓血管外科同士の信頼関係が非常に重要です。同じ専門的バックグラウンドを持つ医師同士が連絡を取り合うことで、適切な術式の選択や手術準備がスムーズに進みます。また、移動中に必要な麻酔科医や集中治療医、オペスタッフが迅速に対応できる体制も整える必要があります。さらに、手術ベッドの空き状況や緊急手術の準備が整っていることも不可欠です。しかし、時にはタイミングが合わず、緊急手術が難しいケースもあります。
幸いにも、昨日はタイミングが整い、スムーズな連携が取れました。市をまたぐ救急移動が行われましたが、到着時には心臓血管外科の先生やオペスタッフがすでに待機しており、手術がすぐに始められる体制が整っていました。患者さんの血圧は低く、痛みが強く、麻酔が難しい状態でしたが、連携がうまく機能し、転院先で手術室に向かう姿を確認することができました。その後は心の中で患者さんを応援しつつ、ご家族に声をかけました。
こうした現場では、痛みがありながら血圧が低いという微妙な状況で、非常に難しい判断を迫られることがあります。後悔や反省を感じる瞬間も多々ありますが、そのたびに厳しいフィードバックを受けて成長してきました。
私は手術を直接行う医師ではありません。だからこそ、最も重要なのは何をすべきか、誰に相談すべきかを的確に判断することです。教科書に載らない場面での判断や対応は、まさに動物的な感覚や経験に基づく直感が求められます。こうした日々の経験が私を鍛え、現場での即時判断を支えています。
この能力は特殊なものではありませんが、まず、あたりをつけて超音波を使うことが重要です。病態に早くあたりをつけ、説得力を持ちながら、周囲を巻き込み、迅速に病態を判断し、次に何をすべきかをチームで決定します。病院の事情をよく知っている看護師さんのアドバイスに耳を傾けつつ、その場の状況を取り入れ、自分で判断することも必要です。その場所、その時の条件に応じた全体像をイメージしながら仕事を進めることが重要であり、これは偉そうに語るものではありませんが、次世代に伝えるべき大切なスキルです。昨日も研修医の先生たちに、自分の経験や考え方を共有しましたが、押し付けではなく、共に学び、同じ目線で成長していくことを心掛けています。
冒頭の超音波画像は下手くそに見えるかもしれませんが、一刻を争う状況では、お腹に腹水があり、瘤があるというだけで診断は十分です。ここからどのような処置を進めるのか、外科医が動けるだけの証拠を集め、造影CTが撮影可能か、そのタイミングは適切か、そしてこの状況で応援を集めるべき医師は誰か。毎回似たような状況でも、細かい点で違う緊急の状況に、少しでも役立つよう、私が見える視野を共有しました。CTの画像は分かりやすいですが、使用には許可が必要です。超音波については、この説明がないと誰にも分からないため、未来の医師や医療従事者のために少しでも役立てばと思いながら共有します。
腹部大動脈瘤破裂(AAA破裂)で手術にたどり着く割合
腹部大動脈瘤破裂(AAA破裂)で手術までたどり着くことができる患者の割合は非常に低いとされています。具体的には、破裂した大動脈瘤を持つ患者の約50%が病院に到着する前に死亡します。これらの患者は、大量出血によって迅速に失血性ショックに陥り、搬送途中で亡くなることが多いのです。
さらに、病院に到着した後も、手術までたどり着ける患者の割合は40〜70%とされています。破裂後に病院に到着しても、患者の状態が急変し、手術を受ける前に死亡するケースも少なくありません。手術までたどり着き、手術が成功した場合でも、全体の生存率は20〜50%程度です。
手術に成功しても、患者の年齢や全身状態、合併症の有無によって予後が異なりますが、緊急手術ができれば生存の可能性は大幅に向上します。
いかに診断をつけるか、するとどんな選択肢があるのか。
そして未来にどう繋げて行くのかを考えていきたい。
医療情報は、公共のものだと、それが当たり前になる時代がもうすぐくると言われています。何かのお役に立てればと思います。
以上