【中級者編】モノを紡ぐ人のための世界観の作り方
①世界観は読む(見る=空想する)
プロットを建てる際、必ずと言っていいほど、「世界観」という語がつきまとうと思います。これは商業の場合でもプロットからやりとりする場合は必須ですし、自分が個人で書く場合や、新人賞などを狙う場合のプロット作りでも同様だと思います。
巷には、世界観設定に必要な項目が沢山羅列されています。ただ、項目の羅列は世界観設定とは言えない、というのが、実際の所だと思います。
何故その項目が設定されているのか、その項目の意味や文脈をまず読み取る事が肝要です。同時に、「舞台:異世界」とするならば、「異世界を見る(空想する)」という、想像力に働きかける状態を心がけなければならないでしょう。
また、空をドラゴンが飛んでいる設定だけれど、小説本文にはその光景は一行も出て来ない。これは、設定するだけ無駄、ではなく、世界観を深めるために必要な要素だから、思い浮かんだ事柄だと筆者は思います。(ただし企画用のプロットでは、小説本文に沿うように割愛推奨です)
これが一つの罠で、想像したものを落とし込んでいくと自然と世界の文脈は見えてくるといえますが、項目から設定していくと、ただの文字にしか見えなくなります。矛盾を起こさないための装置としての設定集になりさがります。勿論、それでも小説を書く材料には十分です。小説執筆の材料として適切です。ただし今回は、その範囲を超えて、世界観を設定していくことの意義、何故プロットにおいて世界観を設定するのかという本質について記載したいと思います。
②読む前の下準備(=情報整理)としての項目設定と各項目の大まかな意味
読み取るには、鍵が必要です。それこそが、まさしく項目と言えます。世界をリーディングするために必要な鍵、それこそが項目の本質です。では、最初に、どのような項目を設定するとよいか、一覧で記そうと思います。
・世界の名前
→大陸などであれば大陸名
→国であれば国名
→必要であれば市町村名
※舞台となる場所の名称を設定します。
・モデル/時代
完全なる創作世界の構築、という場合は別ですが、例えば和風ならば江戸、砂漠の国ならばアラブ、異世界なら中近世欧州など、モデルとなる国家と時代がある場合が多いと筆者は考えます。そのため、この土台を設定して、世界の骨組みと指針を決定することを推奨します。
・宗教
これは無宗教も含めての設定です。無宗教は無宗教で、科学至上主義教徒などと見做すことが出来る場合があります。何故設定するかと言えば、基礎的な国民の考え方やモラルに影響を与えることが大きいからです。
・技術水準
現代物で現代準拠の場合も、記載した方がいいです。日々技術は変動するので、現代物こそ、既に風化した文明の利器などを舞台に出すと齟齬が生じるので、必要な技術は明確に記載した方がいいでしょう。
・教育水準
識字率や国民の学習状態を決めることで、有能なエリートがその世界では特別な教育を受けたのか、文字が読めない者が多いから、読めないのが普通なのかなどが判明します。どこで学ぶのか、誰に学ぶのかも併せて考えたい部分です。
・気候/風土
これは建造物の作りから、食物、移動手段など様々な部分に関わってきます。必ずしも、現実に準拠させる必要はありません。また、舞台の規模により、人口数などの検討も可能です。
・文化
ここまでの項目から、自然と見えてくる可能性があります。宗教的にどのような禁忌があり、風土的に魚介類が特産だから魚を神聖視する文化であったり。勿論全く関係の無い、収穫祭や、現地のクリスマスに相当するイベントなどの文化があっても構いません。お守り相当の品があってもよいですし、団扇に絵を書く文化があってもいいでしょう。
・経済/通貨/貨幣の流れ
通貨はどのような形態なのか、銀行相当のものはあるのか。また貧富の差などを考える上でも重要です。隣国との関係を考える上でも、たとえば貿易関係にあるならば、必要です。
・法律/禁忌
国の規定で違反とされていることから、国民がタブー視しているものまで、禁則事項があれば、それは一つの特徴となります。逆に許可していることも特徴となりますし、特殊能力の設定がある場合は、それに対する国(世界)の対応や姿勢などを明確かできます。
・政治
国や村(世界)の決まり事は誰が決めるのか。国家元首や指導者の一任なのか、政治家なのか(民主主義)など、舞台の命運の鍵を握ります。
・階級
特別視される階級はあるのか。貴族なら高貴だとか、聖職者は特別階級だとか、ある民族(エルフなど)は特殊だとか、見えてくるものは多いです。
・他の世界(国など)との関わり方
敵対している国や同盟国はあるのかで、防衛力や軍事力が見えてきます。学校が舞台であれば、ライバルや親友となるでしょう。
・世界の成り立ち/歴史
年表にする人もいるかもしれませんが、もっと主かに、どのようにしてこの世界は成り立ったのか、神が作ったのか、自然発生した人間が作った国の後継なのかなどを考えると深みが増します。
・その他
これはどうしても入れたい要素となります。小説に一切出て来ないものかもしれません。それでもその世界に必要な事柄となります。世界のコンセプトに関わる部分となります。
③世界観を読み解く作業
ここからが肝心となります。項目別に記しても、説明に記載した通り、各項目は密接に関わり合っています。これをご覧の皆様が書いた世界観を振り返った時、きちんとそれぞれの項目はリンクしているでしょうか? その部分で、関わりがあるはずなのに別の方向性が定められている場合、世界には違和感が生じます。宗教で自殺が禁止されているにもかかわらず、二十歳になったら自殺をする文化が定められていたら、これは矛盾するという状態です。これは極端な例ですが、細部に共鳴していない部分がないか、必ず確認して下さい。違和感を消すためにも、それぞれの項目について頭の中で思い浮かべる、空想することが必要です。
天候を冬は雪が凄い土地と定めたとします。雪が降る冬の土地を思い浮かべると、まず寒いという想像力は働きやすいでしょう。人々の服装は厚着でコートなどを羽織っている、建物の形はゆくが積もらないように三角形――このように、設定項目から世界の場面を想像し、読み取っていくのが大切な作業となります。これが、世界観を創ると言うことだと、筆者は考えています。
項目は設定してあるのに、世界観がちぐはぐ・違和感がある・破綻している場合というのは、往々にして読み取りが不足している時です。この部分は、初級を脱出した頃、躓きやすいポイントです。思考で設定だけを構築し、実際にはただの用語集や説明文のようになっている状態で、世界が生きていない状態です。世界観を作るというのは、一つの世界を生み出すと言うことなので、それが死んだ世界ではなりません。そこに息づくものは、生きています。知的生命体が存在しない宇宙の隕石の表面が舞台でも、隕石という動的存在があります。想像しなければ、舞台は作る事が出来ないと言えます。
④読み取る練習はどうしたらいいか
これは、初歩としては、今自分がいる場所を、上記の項目に当てはめ、実際にそばにあるものを想像した状態として書き出す作業が向いています。また、モデルを制定した場合、その場所の法則が応用できる事も多いので、モデルの知識を深めれば自ずと見えてきます。
以上が、世界観の作り方、設定の仕方となります。世界を読むこと(見る事、空想する事)を忘れないことが大切です。そうすれば自然と深みがある様々な要素が重なり合った、生きた舞台が生まれることでしょう。