「やれることは何でもやろう」― 創業メンバーの鈴木社長が語るMonotaRO創業ストーリー
※本記事の内容は取材時のものであり、組織名や役職等は取材時点のものを掲載しております。
2018年、4月に新卒入社の新入社員10名を迎え、MonotaROは2000年の創業以来、初めて従業員数(正社員)が300名を突破した。当社が運営するオンラインストア(monotaro.com)は、今では1500万商品を取り扱い、280万会員という多くのお客様にご利用いただく日本屈指の大規模サービスに成長し、近年も売上・利益ともに3年で2倍になるスピードで成長を続けている。そんな当社の歴史は、住友商事鉄鋼部門の中でインターネットを用いたビジネスモデルを考える5名の小さなプロジェクトチームから始まっている。社長の鈴木に当時を振り返りながら、創業ストーリーを語ってもらった。
(※記事内の各種データは、2018年の記事作成当時の情報です)
これまでの常識を打ち破る、新たなビジネスモデルの始まり
1990年代後半から2000年にかけて、アマゾンをはじめとしたEコマースが新たなビジネスモデルとしてアメリカからやってきた。Eコマースは、従来オフラインで行われていたモノの売買をオンラインで行うというアイデアである。「Eコマースでは売り手と買い手がインターネット上で直接売買を行うため、商社がモノの売り買いに仲介として間に入るという機能は必要なくなり、Eコマースに置き換わると言われるようになっていた。」 そのような時代背景のもと、ビジネスが置き換わるのであれば、自らEコマースのプレイヤーになろうと各商社の中にEコマースチームが次々に誕生し、現取締役会長の瀬戸、鈴木が所属していた住友商事の鉄鋼部門においても先述のプロジェクトチームが発足された。
「インターネットを用いたビジネスを考える中で会長の瀬戸さんは、インターネットの本質は“検索”にあると考えていた。」 検索とは、情報を探す行為である。商社が主に扱う材料などの直接資材は、メガネの製造を例にすると、フレームに使われるプラスチックの原料やレンズのガラスなどである。量産が始まれば、これらの材料は少数のサプライヤーから大量に購入されることになる。そのため、直接資材に関する知見は、すぐに十分に蓄積され、検索が不要な領域になる。一方、間接資材というのは、メガネ製造の例を使えば、ガラスの研磨材や工場で使われる工具や安全用品、事務所で使われる文具などである。ビジネスを継続するためには必要不可欠ではあるものの、種類は膨大、購買頻度は不定期であり、年間の購入量は限られている。しかし、商品選択、見積価格の比較、発注などのために、現場で働く人はそこに多くの時間を割かなければならない。
そこで考えられたのがインターネットの活用である。検索機能を充実させ、効率的に間接資材を購入できるシステムができれば、そこには大きなニーズがあると考えたのである。そして、このアイデアを実現するために、アメリカの間接資材カタログ販売の大手であるグレンジャー社と組み、社内ベンチャーとして2000年10月に大阪で住商グレンジャー(現MonotaRO)を起業する。
MonotaRO創業以前の間接資材や機械部品を扱うような業界では、営業マンを通じ相対で価格を決め、商品を流通させるビジネスモデルであった。これはMonotaROのビジネスモデル、すなわちインターネットを通じ、誰がいくら買っても同じ値段、ワンプライスで商品を提供するシステムとは大きく異なる。既存のプレイヤーからは「商談もなく商品の価格が決まり、モノが売れるわけがない。MonotaROのビジネスモデルは絶対にうまく行かない」と言われていた。しかし、会長の瀬戸、社長の鈴木は商社マンで既存プレイヤーとは全く異なるフィールドにいたこと。それに加え、住友グループには重工メーカーから食品メーカーまでが軒を連ね、様々なところに工場があり、さらに各所相対で取引しており、「工場によって価格はバラバラ、請求書や納品書の中には“工具一式3万円”と記載があるだけで、一体何を買っているかわからない」、という企業の間接資材購買における課題・ニーズが目に見えていたこともあり、“絶対にイケる!”と考えていた。
やれることは何でもやろう
プロジェクトチーム5名で事業を開始し、顧客は住友グループ企業を含む大手企業40社に絞り、大企業向けの購買システムを構築するところから始める。創業当時、間接資材はカタログ注文が主流で、電子カタログがなく、「最初にしたことは、学生のアルバイトを雇い、何十人もの人で30万点、3000ページに及ぶ商品カタログ情報をエクセルに入力する、商品ごとに電子カタログを作る作業だった。」 と鈴木は振り返る。
サイトで商品を買えるようにするためのシステム開発、仕入先探しなど、事業実現のために邁進するが、MonotaROのビジネスモデルが業界で認めてもらえず、仕入れをさせてもらえないという業界の逆風もあった。苦難を乗り越え商品を販売できる体制が整い、サイトが稼働できるようになったのは、2001年春ごろ。創業前の準備期間も含め立ち上げに1年を要し、怒涛の日々が続いた。
しかし、大企業向けに購買システムを提供するというビジネスは、1年経っても売上は増えず、赤字を積み重ねて失敗に終わる。最初のシステムはインターネット黎明期当時ならではで、インターネットの回線が遅い、データベースの性能も悪い、商品を検索しようとしても、とにかく遅い。それに加え、取扱商品点数は30万点と少なく、欲しい商品がない、値段も高い。しかも当初は在庫を持たないビジネスモデルであったため、いつ届くかわからないといった課題があり、どの企業にも使ってもらえなかった。
当初考えていたビジネスプランは失敗に終わったが、落ち込んでいる暇はなかった。どうやったら生き延びられるかを考え、「藁にもすがるのがベンチャーで、できることは何でもやる。“やれることは何でもやろう”という思いで中小企業向けに紙カタログを送ることを始めた。」 大企業だけでなく、新たに中小企業向けにもワンプライスで商品を販売するサイトを作り、DMでカタログを送り顧客を獲得するというビジネスモデルに転換する。しかし、これもうまくいかない。「最初に発行した紙カタログは7000点の商品を掲載していたが、情報量が多すぎた。お客様は何を買ったら良いか分からなかった。」 そこで紙カタログではなく、チラシを送る形にマイナーチェンジしたところ、これがヒットした。チラシはコストが低く、かつ直接注文に繋がった。「チラシをDMでやったらうまく行って、ガンガンやった。売上が月1億円になるころに、一か八かではないが、2カ月で1億円くらいのマーケティングコストをかけていた(笑)」 2002年から2003年にかけて、チラシを送り、顧客を獲得し続けることで、徐々に顧客がついてきた。顧客の増加に伴い、売れ筋商品が分かるようになる。そして、取扱商品点数を増やし、新しい顧客を獲得し、売り上げが増加するというビジネスサイクルが回り始める。またこの時期に、大量の注文に対応するため大阪物流センターを開設する。
真のオンラインサービスへの転換
「Eコマースというコンセプトを掲げMonotaROをスタートさせたつもりだったけど、2003年はじめくらいまでは売り上げの7割はFax経由だった(笑) それが劇的に変わったのは、2004年頃にGoogle AdWords、Yahoo Overtureといったキーワード広告を始めてから。」 それまでは、サイトを立ち上げてもDMを送らなければ、新規顧客の登録は増えなかった。それがキーワード広告の誕生で、オンラインでのマーケティング手段が確立し、インターネットを通じた集客ができるようなった。これを機にMonotaROは本当の意味でのオンラインサービスへと変貌を遂げる。現在は95%以上の注文がWeb経由で、新規顧客獲得のため数千万キーワード以上の広告を入稿しているが、一番初めのキーワードを入稿したのは鈴木である。現在のキーワード広告の入札は自動で行えるようになっているが、当時は手動で入札が行われていた。「当時は毎日競合が何円で入札しているのかをチェックし、チッ、値段上げたな、などと思いながら、200-300キーワードを見ていた(笑)」と鈴木は話す。そして事業は波に乗って急速に成長を遂げ、2006年に東証マザーズに上場を果たし、2009年には東証一部に市場変更となった。
MonotaROの人材採用
2011年後半に、突然瀬戸から「代表を君に代わろうと思う」と告げられ、2012年3月に鈴木は社長に就任した。社長就任後は、「自社ブランドの拡大と海外戦略」を成長戦略の切り札として掲げ、10年後に当時の売上高の4.5倍の1,000億円の年商を目指すことを宣言している。その言葉通り、当社は2013年に韓国、2016年にインドネシア、そして今年に入って中国に子会社を設立し、海外事業を推進している。売上も2017年に883億円に達し、1000億円の年商は目前まできている。
サービスの拡大、海外事業の推進など、更に次の成長を確実なものとするため、MonotaROにおいて人材採用は極めて重要度の高いミッションである。従業員が300名を超え、毎月多くの仲間が参画するようになった今でも最終面接は必ず鈴木が行っている。(2020年3月時点での情報であり、2022年8月時点では体制が一部変わっております。)今回改めて採用で重視しているポイントを聞くと、地頭の良さ、周囲と正しいコミュニケーションができる人柄、新しいモノや考え方を自らキャッチアップできる事などいくつかポイントはあるが、「企業理念やカルチャーへの共感を最も重視している」と返ってきた。MonotaROでは、他社への敬意(お互いにリスペクトすること)、自主性(オーナーシップ)といった会社の文化を重視している。「会社の文化を大切にしながら、社員のみんなが自分の仕事や人生を自分で選択しコントロールができて、自分に対し満足感を持った生き方ができるような環境を作っていきたい。そうすることで結果的に、良い会社が作られると思っている。」と鈴木は語った。
[参考・引用]
・現場の味方。工具のCMで有名な高収益企業、モノタロウを大解剖
・One on Oneでより良いサービスを目指す
・モノタロウの企業理念