#1 社員が笑顔であること
山梨ユニフォーム(株) 代表取締役 田中昇氏
今回は、田中氏をゲストでお招きした、山梨県中小企業家同友会の主催及び山梨総合研究所の共催により開催した、地域と企業をつなぐ新たな考え方(ものさし)について一緒に検討していく交流の場「地元企業の魅力発見サロン2022.6.6@studio pellet」の様子をまとめる中で、田中氏がどのような “ものさし”のもと経営しているのかを探る。
私たちは、働くことに何を求めているのか。対価としての賃金とともに、働き甲斐という意見もあるなか、この問題に、地元企業はどのように向きあっているのか。
今回取り上げる山梨ユニフォーム(株)は、「ユニフォームを通して日本を元気にする」を合言葉に、企業へのユニフォームの提供や小売店WORK-Sにて土木業等の職人をターゲットにスタイリッシュなユニフォームの販売、刺繍・プリント加工などを手掛けている。筆者が店舗を訪れると、職人が楽しそうに商品を見つめ、社員も笑顔で溢れていた。
広報部で働く三枝さんは、もともとSNSやブログなどの情報発信やイラストに興味があるなかで、デザインや刺繍、プリントを手掛ける同社に入社し広報部に配属され、実際にSNSやデザインを任せられることは非常に働きがいがあると、生き生きと話してくれた。
「自分のやりたいことができている時点でやりがいを持って働けているなって感じています。」
同社代表取締役の田中昇氏は、社員が笑顔であることを大切にしている。その言葉の通り、社員の発案でTikTokやInstagramにて楽しそうにお店の情報発信を行っている。それを見て県外から来店される方もいるという。
「会社でTikTokやInstagramをやっているのですが、僕は一言も『やってくれ』って言ってないんです。お店を宣伝する目的で、この子たちが自分たちで何をすべきかを考えた結果なんです。」
投稿の中には何万回再生というのもあり、いまでは、県外のお客さんからTikTokで履いている靴が欲しいと電話があったり、WORK-Sでの買い物ついでにほうとうを食べたり、富士山を見て帰るなど、わざわざ県外から来てくれる方もいるという。
「実は、最初ね、仕事しろよって思ってたんです(笑)。経営者って損得で考えるからだめですね。こういうのに一切関わらない方が良いです。見て、良かったねと言ってあげるくらいです。」
お店のコンセプトは「職人のオアシス」。職人さんに満足してもらえることにターゲットインしてブランディングかけており、WORK-Sというブランドを着るイメージと田中社長は語る。さらにかっこいい商品に刺繍をしてあげることによって、職人さんに満足感と希少価値を提供するようにしている。
「職人さんってヤンチャな方が多くて、服の“かぶり”が嫌いなんです。そこで、刺繍やプリントをその人に合わせてデザインしています。なので、一点物として着ることができるんです。作業服は3,000円で、刺繍に1万円かかったりしますが、買ってくれます。」
お客様に喜んでもらうことは、モノを売る会社として当たり前のことという。
同社の行動基準にある「お客様中心主義」は、「常にお客様の立場になって考える習慣を身につける」ことである。常に相手の立場、お客様が何を考えているのかを考えながら仕事をすれば、必ず成功する。会社内も同様で、言葉を発するときに、これを考えながら発する言葉は違ってくるはず。まず経営者がこのように行動することが大切と田中社長は考えている。
「働きやすい会社」と「働き甲斐のある会社」の二つを目指している
「働きやすい会社」というのは、給料や有給休暇など可視化できるものを会社がきちんと整えてあげることが大切だと田中社長は語る。
同社の考え方では、給料は、商品を販売してお客様から預かったお金から仕入れの清算を全部行い、残ったお金であり、それを「みんな頑張ったね」と社員にお返しする。
残業は、社員33人の1か月間の総残業時間は100時間に満たず、殆ど残業がない部署もある。以前は営業職に「みなし残業」として給料を払っていたが、去年からは残業代の支払いに切り替えた。
また、年間休日が約120日で有給休暇の取得率は約80%なので、社員が130日休むのは当たり前のことだという。以前は、有給休暇やお金が掛かることすべてに社長のハンコが必要だったが、上長のハンコだけにしたことで、社長の顔色を窺わなくてもいいようにした。
「その部署で回ればいいだけの話なので、経営者がそこに関わらないのも一つ手なのかなって、最近思ってます。」
一方、「働き甲斐のある会社」は社員が自分たちで掴み取るものであるという。
ここで気をつけなければならないのが、社員にとって都合のいい会社になってはだめだということ。 居心地がいいからこのぐらいでいいやみたいだと会社は伸びない。だから、社員と会社側のお互いが尊重し合いながら、会社は働きやすい職場をつくるから、みんなは働き甲斐のある会社をつくってくれと、田中社長は社員に伝えている。
「働き甲斐がある会社でなければ、潰れる。ここが稼ぐところで、会社は稼がなければだめ。」
そのために心掛けていることの一つに、中途採用をなるべくしないことがある。ここ4年ぐらい新卒採用を続けて11人入社しているが、まだ誰一人やめてないという。
「大企業みたいに100人入って、1年後50人残って良かったではなく、僕らの会社規模では10人中10人残らなければいけない。中小企業ってすごくそこが大切。」
きちんと新入社員を育てて、最終的に部署を異動しながら社内の体制をいかなる時も整えることができるようになることが重要である。そのため同社の新入社員は、社内のほぼ全ての仕事を1回経験する。その中で自分の適性を考えたり、上司も適性を見た上で、部署に配属するので、社員のやりたいことと仕事がマッチしている。こうしたことを通じて、ちゃんと仕事の意義付けを理解させた上で、個人の権限と達成感を得られる仕事を与えてあげるとやりがいにつながるという。
働き甲斐から稼ぎを生み出す。まさに、社員の成長は、企業の成長である。
なぜ田中氏は社員の笑顔を大切にするのか。
山梨ユニフォームの企業理念には「笑顔・感謝・ありがとう」がある。社長や従業員が働くことで、幸せが得られるような職場環境をつくろうとしている。
「『みんなで夢に向かっていこうね』と話しています。そして大切にしているのは価値観ですね。」
同社の10年ビジョン(2017~2026年)の中には、「社員の笑顔~地域で一番の働きやすい職場環境をつくる~」と書かれている。作成した当時はまだブラック企業で、社員を犠牲にしながら会社の業績を上げていた。そんな頃、政府が「働き方改革」を打ち出したので、何かしなければと思い、会社を見つめ直し、社員にとって働きやすい職場をつくろうと考えた。
自分の行動によってだれかが笑顔になると、自らも幸せを感じる。社員自らが考えた商品・サービスにより、お客様が笑顔になることは、社員もそのような仕事に幸せを感じ、それが最終的に企業の成長にも、地域の豊かさにもつながっていく。
田中社長にとって「働く」とは何か
田中社長は何のために働くのか。
それは、稼いだお金で、それぞれの夢を実現するためと語る。
「お金を稼がなきゃ生活できないんですよ。大切なのは、働いたお金の使い方。洋服を買う、車を買いたい、家を建てたいとか、これらみんな夢なんですけども、それを成し遂げた先に何がありますかってところが僕は夢だなって思うんです。 そこが『幸せ』っていう領域に入ってくると思うんですね。」
しかし、誰でも1日24時間の限りがある。1日8時間労働とすると、お昼休み1時間、朝支度が30分~1時間ぐらい。残業2時間として、都会だと通勤時間が往復3時間。それらを合わせると1日15時間も仕事に関わることになる。だからこそ、辛くても働く中に“やりがい”を持てていることかが重要となる。
「仕事が辛いけど、楽しく思えるか思えないかで人生が大きく変わると思うんです。」
仕事がハッピーだと、生活もハッピーになる。そうすることでそれぞれの夢に近づいていく。
編集後記
私たちは、働くことを通じて、誰かを幸せにしたいと心の奥底では思っているだろう。しかし、日々の慌ただしさの中で、そのことを考える余裕がなくなっているのかもしれない。一歩立ち止まって、働く意味を考える。顧客や社会のことを考える。それが人・企業の成長につながる第一歩ではなかろうか。
次回の地元企業の魅力発見サロンは7/4(月)。ゲストは丸浜舗道(株)。詳細は山梨総合研究所HP(https://www.yafo.or.jp/)まで。
(執筆:山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬友幸)