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カルチャー融合の革新的なナイトライフイベントへの挑戦【NIGHT EMBASSY / poweredby.tokyo】
昨年12月に渋谷の新カルチャースポットBAIAにて行われた、Jägermeister(イエーガーマイスター)によるオフラインイベント「NIGHT EMBASSY TOKYO 2022」。このイベントのプロデュースをmonopoのグループ会社であるpoweredby.tokyoが担当しました。
poweredby.tokyoのメンバーである加藤響さん(写真左)と、岸野詩奈さん(写真右)に、イベントにかけた思いやどのようにイベントを成功に導いたかなどをお聞きしました。
Profile
加藤響 Hibiki Kato(写真左) Creative Producer
1998年生まれ、ニュージーランドで生まれ育つ。マーケティングと広告を専攻し卒業。卒業後、2020年に日本への引っ越しを決め、コロナ禍との闘いが始まり1年ほど続く。その間ポストプロダクションの会社で6ヶ月間インターンとしてつとめ企画・編集など学び、2021年の6月にpoweredby.tokyoに入社。そこからクリエイティブプロデューサーとしてさまざまなプロジェクトに携わる。
岸野詩奈 Utana Kishino(写真右) Producer
1998年生まれ、東京都育ち。英和通訳、コピーライターの経験後、2022年夏にpoweredby.tokyoへ入社。プロデューサーとして主に撮影やイベントのサポートを務め、外資クライアントとの実績を備えている。
「NIGHT EMBASSY TOKYO」とは
2022年12月9日〜10日の2日間にわたり開催されたイベント。ナイトライフ文化の新たな方向性を探求することを目的とし、ファッション、ミュージック、クィアカルチャーが交わり合うことをコンセプトとして企画されました。「NIGHT EMBASSY」は2019年より世界各地で開催され、今回はアジア初の開催地として日本・東京が選ばれました。
poweredby.tokyoは、ナイトライフを持続的にサポートしてきたJägermeisterと共にイベントのコーディネートやプロデュースを中心にサポートしました。
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▼ NIGHT EMBASSY TOKYO 2022 Webサイト
https://night-embassy.com/tyo/
▼ プレスリリース
ファッション、ミュージック、クィアカルチャーのMIXを目指したコンテンツ
――「NIGHT EMBASSY TOKYO 2022」について、まずはイベントのコンセプトや内容、poweredby.tokyo(以下pbt)の役割を教えてください。
岸野:NIGHT EMBASSYは、Jägermeister(以下イエーガー)がナイトライフをサポートすることを目的として、ヨーロッパを起点に世界的に開催されてきたイベントです。クラブカルチャーの聖地でありイエーガーの本拠地でもあるドイツをはじめ、フランス、ロシア、ブラジル、南アフリカなど、各地域の主要都市を大いに盛り上げてきました。
そして今回、アジア初の開催地として東京が選ばれ、私たちpbtがサポートすることになりました。
加藤:ファッション、ミュージック、クィアカルチャーの3つのコミュニティを通して新たなナイトライフを探っていくことを軸にイベントを設計しました。各コミュニティはクリエイティブボードとアンバサダーという2つのグループで構成され、クリエイティブボードには各業界の第一線で活躍する方々を、アンバサダーには新進気鋭な若手の方々にコラボレーターとして入っていただきました。
イエーガーは元々undergroundのシーンやアーティストをサポートすることを目的とした活動をしていますが、私たちもその思いに賛同し、次のコラボレーターの方々にお願いしました。
MEET THE CREATIVE BOARD MEMBERS
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1994年渋谷生まれ、渋谷育ち。ヒップホップクルーYENTOWNに所属し、現代東京を象徴するラッパー。若さを感じさせない深みのあるリリックと既成概念にとらわれない独特なフロウとライブスタイルが武器。ファッション・アイコンとしての側面も持つほか、YENTOWNとは別に自身のレーベル/コレクティブDe-void*を主宰する。
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振付師、MC、DJ、ボール・オーガナイザーなどとして東京を中心に多方面で活動するヴォーギング・ダンサー。2016年に本場アメリカで国外参加者として史上初めてレジェンドの称号を与えられたほか、2022年7月にはボールルームで最も長い歴史を持つファミリーのひとつ「House of Mizrahi」でトップクラス・リーダーのOverall Motherに就任。
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1984年生まれの人気スタイリスト。SHUN WATANABE氏に師事し、2012年に独立。以降、ファッションを中心に数多くのブランドや雑誌でスタイリングを手掛けるかたわら、2015年から自らのインディペンデントマガジン『CONTACT HIGH ZINE』も出版。
MEET THE AMBASSADORS
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Lil Soft Tennis、RY0N4、aryyを中心に活動する関西発のヒップホップ・コレクティブ。インディーロックやグランジ、ハイパーポップからトラップまでジャンルを横断した自分たちの音楽性を作り上げ、同時代的な感情や感性をストレートに表現することによってユースを中心に支持を集めている。2021年10月に1stミックステープ『AiR』をリリース。
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東京を拠点に活動する性科学会会員、セックスミュージアム設立準備委員会メンバー、不妊症・不育症ピアサポーターなどとしても活動するドラァグクイーン。社会的に創り上げられた女性らしさやジェンダー規範で表現するドラァグクィーンというアートを組み合わせた異色の存在。
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1992年生まれのアートディレクター/ビジュアルアーティスト。合成、加工、コラージュ、3DCGを駆使したサイケデリックでファニーな世界観の絵作りを基軸に、情報量の多いハイカロリーな視覚表現や映像を制作。 また、環境問題と水にまつわるフィールドワークを礎とした広告アート作品も手掛ける。
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――このイベントを通じて、お客さんにはどのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
加藤:NIGHT EMBASSYのコンセプトは、3つの異なるコミュニティ(ファッション・ミュージック・クィアカルチャー)を融合させることでした。お客さんにもmixされた体験をしてもらいたかったんです。日本人はシャイな人が多いと思うのですが、この機会に関わったことのない人や見たことのないものを通じて、新しい体験をしてもらいたいという思いがありました。
岸野:東京の人たちって皆さん日々忙しいですよね。そうすると普段は親しい人と一緒に行き慣れた場所に遊びに行くことが多くなりがちです。そんな東京の人たちがNIGHT EMBASSYで新しい経験やインスピレーションを得ることで、今後の遊び場や遊ぶ仲間たちが変わるかもしれないという期待も持っていました。
ただ、新しいことを行うためには、安全で安心できる安定した基盤が必要です。そのような土台をイエーガーを中心に設計して提供できるように心がけました。
ナイトライフを守るためのJägermeisterとの歩み
――pbtにイベントのサポートについて依頼が来た背景について教えてください。
加藤:pbtは、2021年にもイエーガーと一緒に「Save The Night Japan」というプロジェクトを担当しました。この時もコロナ禍で、ナイトライフを守るという趣旨のプロジェクトでした。Save The Night Japanでのpbtのパフォーマンスを評価していただき、イエーガーとの信頼関係を深めていきました。イエーガーには日本チームが存在しなかったため、pbtがイエーガーの日本担当のような立場でした。
私はSave The Night Japanの時にpbtに入社し、当時はアシスタント的な立場でしたが、今回のNIGHT EMBASSYではリードプロデューサーとして担当させていただきイエーガーと共に歩んできたなという実感があります。
岸野:pbtに求められていたのは、グローバルなイエーガーのビジョンやブランド戦略を東京に展開していくことでした。pbtは東京のストリートカルチャーやクリエイティブを大切にしていて、そのような私たちのスタンスやビジョンにも共感していただけました。
普段のクライアントワークでもストーリーやタレントを柱として企画や制作をしていますが、今回もどのようにストーリーとタレントを統一していくかが求められていました。
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グローバルと日本の間に立つ
――NIGHT EMBASSYを企画・実行する上で大変だったことは何ですか。
加藤:まずはBAIAとイエーガーのバランスを取るのがチャレンジでした。BAIAは渋谷に2022年7月にできたばかりの新しい場所だったため、オールナイトのイベント経験は少なかったのです。NIGHT EMBASSYがブランドタイアップとしても、朝まで箱を完全に貸し切ることも、初めての試みでした。
イエーガーはグローバルのブランドなので、日本人のお客さまへの対応に慣れているBAIAとの間に私たちpbtが立ってバランスを取ることが必要でした。
それが結構大変ではありましたが、イベント後にはBAIAもまた一緒にやりたいと言ってくれたので嬉しかったです。
岸野:クリエイティブコントロールも大変だった点です。各コミュニティ(ファッション・ミュージック・クィアカルチャー)のクリエイティブコントロールはアンバサダーにお願いしていましたが、全体に関わるところやコミュニティ以外のところはpbtがエージェンシーとして責任を負い、イエーガーのブランドビジョンや戦略に沿っているかを常に確認しながら行動していました。
私たちはアーティストやBAIAと信頼関係を築き、アーティストの方々がそれぞれ安全に自由に表現できる環境を整えようと気をつけていました。
――当日の現場ではお二人はどんな動きをされていたのでしょうか。
加藤:当日のオペレーションは、BAIAのスタッフさんを除くとpbtの3人と外部委託の方2人で担当しました。BAIAはイベントの前日まで営業中だったため当日にならないと準備ができず、朝から一日中準備をしていました。アーティストの管理、サウンドチェック、各階のビジュアルの確認、ポスターの掲示など細かいことも全て自分たちで行い、イベントが始まってからは無線をつけながらコミュニケーションを取り合い、現場監督と並行してドリンクチケットの管理やエントランスの確認なども行っていました。私は1日目はずっとお酒が飲めず、ようやく飲めたのが深夜の3時でした(笑)。
岸野:クリエイティブボードやアンバサダーの他にライブの関係者が150人以上いたので、ステージにちゃんと皆さんがいるかなどの確認も必要でした。加藤さんと無線でやり取りしながら、それぞれ別フロアを行ったり来たりしていました。
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NIGHT EMBASSYが生み出したもの
――当日の写真や映像を見ているとNIGHT EMBASSYは大変盛り上がったように見えますが、お二人の考えるイベントの成功とは何だと思いますか。
加藤:成功とは、イベントを通じて期待していた効果やシナジーが生まれることだと思います。NIGHT EMBASSYでは、ファッションショーを見た後に他のクィアのパフォーマンスを見てもらえるなど狙い通り3つのコミュニティを融合することができ、さまざまな界隈のお客さんに楽しんでもらえたことが大きな成果でした。
ただのクラブイベントとは見られたくなかったんです。NIGHT EMBASSYはコミュニティフォーカスのイベントだったので、コミュニティを横断し、新たなコミュニティが生まれたことも良かったなと思います。
イエーガーの狙いは新たなナイトライフを探求することだったので、その点でも目標を達成できたと感じています。
岸野:今回のイベントを通じて新たな縁を作ることができました。出演いただいたコミュニティの方々が今後もコラボするかもしれないという流れを作れたことも大きな成功だと思います。お客さんにとっても、NIGHT EMBASSYでの出会いや体験が新たなスタートになることを願っています。
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グローバルなバックグラウンドを持つ二人が東京で挑戦したいこと
――グローバルと東京をつなぐためにはグローバル側の理解も必要だったと思いますが、お二人は海外での生活やお仕事の経験があるのでしょうか。
加藤:私は生まれも育ちもニュージーランドで日本に来たのは3年前なんです。ちょうどコロナ禍で内定もないまま来てしまって。pbtに入る前はポストプロダクションのインターンをやっていたのですがクリエイティブの企画から入りたいと思うようになり、pbt代表のチェイスさんと繋がりのある友人がいたので紹介してもらいました。
岸野:私は生まれも育ちも東京なんですが、大学時代はアメリカに留学していました。日本に戻ってきたのも昨年で、どんな仕事をしたいか考えていた時にグローバルの経験を活かせる仕事がしたいなと思っていました。そしてmonopoとpbtに出会いました。pbtに入ってすぐにNIGHT EMBASSYのプロジェクトが始まり、私もイエーガーと共に歩んで来ている感覚です。
――monopoやpbtはコミュニティ作りが得意な印象ですが、お二人がコミュニティ作りのために日頃心がけていることはありますか。
加藤:monopoもpbtもコミュニティにフォーカスしており、特にサブカルチャーやファッション、音楽などの分野に関わりが強いです。それぞれのブランドや人のストーリーを発信していくためには、コミュニティのことを理解することが重要だからなのかなと思います。
ニュージーランドは人口が500万人程しかいなく、元々コミュニティが強い国です。幼い頃から大人になるまでみんなずっと一緒という感じなんですよね。だから私自身もコミュニティとの付き合い方に慣れています。なので日本に来てからは、自分からコミュニティやつながりを作るように意識しています。例えば、友人がやっているカレー屋さん「NAWOD CURRY」に集まったり。実際そのカレー屋さんはNIGHT EMBASSYのフードとしても参加してもらいました。
岸野:私はmonopoを通じてたくさんのクリエイティブな方々と知り合いました。今まで自分が出会ってきた人たちとは違う世界の人たちで面白いです。NIGHT EMBASSYでも色々な新しい人と出会い、イベント後も一緒に新宿二丁目に行ったりして関係を続けています。東京には面白い人や頑張っている人がたくさんいるので、もっとそういう人たちと繋がってpbtとしても発信していきたいと考えています。
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――今後のpoweredby.tokyoやお二人の展望を聞かせてください。
加藤:pbtの新たなチャレンジとして、ファッションやライフスタイルを中心にしたグローバルなECを作っていきたいと考えています。そのECのクリエイティブディレクションを頑張りたいなと思っています。
これまでpbtは、アーティストやローカルなブランド、クライアントに対してサービスを提供してきましたが、今後はブランドからpbtを通じて生活者に届けるような展開を目指しています。pbtは橋のような役割を果たし、ストーリーやコンテンツを通してブランドを届けたいと考えています。そのプラットフォームとしてのECを作っていきたいと思います。
岸野:私はクリエイティブプロデューサーとしての経験を重ねていきたいと思っています。pbtが始めるECでは、グローバルに展開していない東京や日本のブランドをマーケットに届ける時に私たちがサポートができるよう、積極的にクライアントとの関係を築いていきたいと考えています。
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インタビュアー・執筆:石原杏奈 (@anna_ishr)
撮影:馬場雄介 Beyond the Lenz (@yusukebaba)