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アラサー、初めての同人誌執筆

私は個人としては1度だけ、同人誌を描いたことがある。
ハウツーだとかノウハウだとかは経験が浅すぎて偉そうには語れないので、今回は同人誌に興味があるものの一歩踏み出せない方に向けて、ざっくり執筆に取り掛かるまでとその成果の備忘録を残したいと思う。


経緯

時は遡って2019年夏。当時の私は体調を崩した後に当時勤めていた職場を辞め、1か月ちょっとの有休消化期間を持て余していた。
ある平日、私は軽い気持ちで某アニメ映画を観に行った。そして無事、ドハマりした。それはそれは自分でも引くぐらいハマった。

そこからは時を同じくして同ジャンルにハマった友人と、内容の考察、キャラ語りなどあることないことをLINEでぶつけ合った。時たま高校生がノートの端っこに描くような落書きや小ネタを描いてはLINEに投げた。新しい職場での仕事が始まっていたけれど、残業する程でもない状況なのでさっさと家に帰っては妄想を膨らませ落書きをしたためていた。

「こういうシチュが見たい」
「それ本にしよ」
毎日のやりとりだが、最初はオタクの長文語りを咎める冗談だと思っていた。でも友人は本気だった。
「今から申し込めば年明けのイベントに間に合うからさ、とりあえず申し込んどいてそこから考えよ」
バカがよ申し込んどいてから引っ込められるわけないやろと思ったけど、この機会を逃せば一生同人誌を出さない人生を歩むかもしれない…という気持ちがよぎった。正気に戻る前に申し込んだ。

ここで申し上げておきたいのだが、私の二次創作活動歴や知識はというと全くの雑魚である。
旧Twitterで十数人程度のフォロワーの鍵垢を作って、こんなん描いてみたデヘヘと見せ合う程度でPixivはもっぱらROM専である。
紙媒体も学生時代に買ったポケモンや無双シリーズの商業4コマアンソロくらいで、バーコードが付いていないタイプの同人誌は1冊も持っていない。まず本を描くための準備から始めた。

最初に用意したもの

1.板or液晶タブレット
この数か月前にたまたまWACOMの小さい板タブから安いGAOMONの液タブに買い替えていた。別に成果物は変わらないので液でも板でも描きやすければどっちでもいいと思う。
2.CLIP STUDIO PAINT EX
友人がクリスタなら多少教えられる、というので勧められるがままにPC向け買い切り版を購入。それ以外のパッケージだと複数ページ管理が面倒なのでEX版を強くおススメする。
3.気に入った同人誌
同人誌って何描いてあるもんなの!?レベルだったので、某同人誌取扱い店舗を物色してジャンル違いの好きな3~4冊を購入。同人誌独特のサイズ感や厚みはもちろんだけど、中の奥付(転売禁止の注意書きや自分のアカウント情報など)の書き方も参考になるので手元に何冊かあると安心。
※「こんなにいい本があるなら私が出さなくてもいっか~!」ってなりそうだったので、敢えて自ジャンルは避けた。なおイベント当日はめちゃくちゃ買った。

必要なアイテムは以上。
今はクリスタの素材やYoutubeの動画が充実しているので、これ以上買いそろえてもそんなにクオリティは変わらないかなと思う。それでも行き詰ったり不安になったりしたとき、レクチャー本なりデッサン人形なりを漁った。

当初のスケジュール

上と同じくらい本を出すのに必要なのはスケジュール管理とのこと。
狙ったイベントまでは5か月程あった。
玄人先輩方ならもっとタイトに行けるだろうが初心者の私は費用的にも精神的にも余裕が欲しかったので、入稿日から逆算してざっくり以下のスケジュールを組んだ。
 ・プロット/ネーム:1.5ヵ月
 ・コマ割り/文字入れ/下書き:1.5ヵ月
 ・ペン入れ/トーン貼り:1ヵ月
 ・表紙/入稿確認:1ヵ月
 Ex)無配ペーパー、お土産の準備:3日

ぶっちゃけスケジュール通りには行かなかった。
アイデア自体は無限に出るものの「これ本当に面白いか?」「これもう誰かが描いているのでは?」「どっかで見たな?」の連続で、まずネームが決まらない。確か2か月を超えて下書き中にもあれこれやった。
また表紙はカラー絵を表裏仕上げるというだけでもナーバスになるのに、どうやら大きめにカラー印刷してポスターにするらしい。個人的にはこいつが一番の強敵だった。目立つから見れば見るほど直しどころがあるような気がする。
ちなみに無配ペーパーは脱稿の喜びも相まって半日で終わった。

執筆中のありがたいお言葉

創作活動はいとも簡単に行き詰まった。
「推しはもっとカッコいい着こなしをして、もっといい車に乗る」
「このアングルではこの2人の尊い関係性を描写できない」
当時は本を出す以上は私の理想が伝わるよう全力で詰め込むぞ!と意気込んで、ストーリーの舞台を表現する背景だの小物だのモブだのをなんとかコマに埋め込んでいたが、これがヒジョーーーにしんどい。
何故なら理想と現実に技術的なギャップがありすぎて、この短期間では全く解決できない課題だからである。

ここで友人先生のお言葉が光った。
「オタクは皆キャラの顔が好きなんだから顔マンガで全然問題ない」
「描きたくないところは素材で埋めとけ、オタクは補完が得意だ」
確かにその通りである。手に取る読者は自分と同じオタクなのだ。

最終的に私は、付け焼き刃の知識とツールを手に、可能な限りの時間を掛けに掛けて ”魂を込めた妥協と諦めの結石” を出した。
この理想と現実の攻防はおそらく創作活動をする限り永遠の課題であり続けると思うけど、自虐とユーモアを込めたこのコメントは弱小創作系オタクの支えになり続けると思う。

私が得たもの

紆余曲折を経て、私は無事イベントに参加して帰ってくることができた。
この半年での成果を、数年経った今レビューしてみた。

自信がついた
すぐに思い浮かぶのはやっぱりこれだろう。
どれだけ売れ残ったとしても、出版者として自分の本やグッズを完成させ、頒布のために並べて、イベントに参加したという事実は変わらない。これが出来る人間はオタクの中でも1~2%だという。年収1000万円以上の人間が人口の5.4%(2024年)とのことだから、それより貴重な人材なわけだ。
イチ中堅会社員の目線で見ると、スケジュール管理や委託先との連携、トレンドのリサーチ能力など社会人に身に着けてほしい能力のオンパレードである。許されるなら履歴書に堂々と書きたい。

実力把握ができた
個人的にはこれが一番よかった。
私のような「俺はまだ本気出してないだけ」マンは、こういう追い詰められた状況でもないと本気で描くという経験をほとんどしないからだ。
本気出してないだけマンは、本気を出したことがないくせに誰かの作品を見ては私のほうが上手いなどと考えたり、丁寧なレクチャーを知っていると言ってろくに吟味せずスキップしたりする。自分の限界と実力を見もせず無邪気に過大評価する。自分で書いていて心が痛い。
蓋を開けてみれば正直作品の出来はそこまで良くなかったし、何十部と持ち帰ることとなった。しかし本を作る過程で限界を知れたし、目指したい方向性も見えてきたので学ぶ意欲が高まった。そして周囲へリスペクトする気持ちがより高くなった。
この2つは、実際にやらないと得られなかった経験だった。

仕事に生かせる知識
これはかなり副次的だけど、実際にあったので一応メモ。
転職先やイベント運営ボランティアでは委託制作をお願いする仕事が時たま発生したので、創作活動で身に着けた知識が所々で役に立った。
たとえばイベント会場で着るスタッフTシャツや少量の名刺作り。私が参加したプチオンリーでは同人誌とは別に個々のサークルで名刺サイズのカードを作って渡すプチイベントがあったので、そのときにラクスルの名刺作成サービスを使った経験があったのだった。今ではネットを使えば簡単に見積や入稿ができる時代だけど、立派なキャリアを積んだメンバー達の中でもなかなか「あぁ、ラクスルなら使ったことありますよ」とか言える社会人はいない。存分にドヤ顔した。


オタク的には他にも人脈とかコミュニティとかフォロワーとかまあ色々あると思うけど、一歩引いて社会人目線で見ればこんな感じだろうか。

無配の準備を忘れて午前3時までカット作業したり、新刊カードの使い方が分からなくてテーブルの上に立てかけたりした話はまた別の機会に。

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