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モノの図書館の種類
こんにちは。モノの図書館研究所の佐藤です。今回は、モノの図書館の種類についてお伝えしていけたらと思います。
※以降、モノの図書館(Library of Things)をLoTと略称します。
大きな枠として、3〜4つに分類
先行研究によると、概ね3-4つに分類されています。
Emily(2022)*1は、以下の4つに分類しています。
1、公共型LoT
2、コミュニティ型無料LoT
3、コミュニティ型有料LoT
4、拡大型LoT
また、非営利メディアであるShareable*2が行った調査では、3つに分類しています。
A、完全にボランティアで運営され、予算は年間1万ドル以下、在庫は限定的、平均会員数は200人以下(大半のLoT)
B、店舗を構え、多額の年間予算を持ち、少なくとも1名の有給のライブラリー・マネージャーを要する大規模な独立系LoT
C、市立図書館に接続されている市立LoT
Shareable*2が分類するAは、Emily*1が分類する2、コミュニティ型無料LoTと3、コミュニティ型有料LoTを1つにまとめています。Bについては4、Cについては1に対応しており、概ね分類方法として合致しています。
これらは、貸出を行う主体を元に分類を行っています。
自治体・公共図書館が運営するLoT
1およびCは、自治体が運営する図書館が主体になっており、図書館で本を借りるのと同じように、図書館カードで道具を借りることができることが特徴です。道具は無料で借りることができ、会費なども必要ありません。この形態は、アメリカやドイツに多く存在し、「知識や経験、体験を平等に届ける」という考え方のもと、図書館や自治体が主体となって行っています。
とても興味深いのは、この公共型のLoTでも道具の調達方法やポリシーに違いがある点です。例えばドイツのドレスデン中央図書館では、新品の商品を図書館が購入し、市民に貸出を行っています。一方、アメリカのヒルズボロ公共図書館では、市民からの中古品の寄付を募り、図書館が市民に貸出を行っています。*4
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この違いは、貸し出す道具の品質管理やメンテナンスオペレーションの違いによるものです。公共図書館が行う上で、貸し出す道具が一定の品質を保ち、維持されることは必要になります。その品質管理と保証を、購入元の企業に機能移管するか、一定水準の品質低下は許容し内製するか、の違いです。ドレスデン中央図書館の例は、その点では効率的な運営に焦点を絞っていると考えられます。一方、アメリカのヒルズボロ公共図書館は、効率的運営よりも資源効率の向上に焦点を絞っているのではと考えられます。
コミュニティが運営するLoT
2・3およびCのコミュニティが運営するLoTは、NPO団体や地域団体、宗教団体、大学などの地域に根ざした小規模な組織が運営するLoTです。このLoTの形態の特徴は、少額の会費もしくは利用料を徴収し、ボランティアで運営している点です。利用者は、この活動への賛同や経済的便益を元に、LoTを利用します。
興味深い点としては、利用者はこのシステムの提供者でもある、という点です。このLoTの特徴として、LoTの資源は利用者からの寄付で成り立っています。その寄付とは、お金の場合もあれば、道具の寄付、労働の寄付、場所の寄付など様々な形で行われます。このシステムの受付や道具の修理を手伝うことで、このシステムの中にある道具を無料ないし安価で利用できる、という仕組みです。共助により成立しています。
このシステムはLoTの中でも最も多く存在する形態です。小規模な組織で、資金的な負担がなく始められることに起因すると考えられます。
拡大型・独立系LoT
最後は拡大型・独立系LoTです。この形態の特徴としては、他のLoTと異なり大きな年間の金銭的予算を持っているという点が挙げられます。この例としては、イギリスのLibraryofthings社(https://www.libraryofthings.co.uk/)が挙げられます。この組織は、株式会社として資金を集め、有料で道具の貸し出しを行っています。既存のツールのレンタル会社に近しい形態と言えます。特徴的なのは、貸出のモジュールを自社で開発し、そのモジュールを図書館や公共施設に設置している点と、生活用品の大手メーカーと協業し、道具を仕入れている点が挙げられます。
Libraryofthings社は、BOSCHやSTIHL、Kärcher、Vango、The North Faceと提携し道具の貸出を行っています。メンテナンスはメーカーが行います。他のLoTの形態と比較して、相対的に利用料は高めに設定されています。2024年時点でイギリス国内で19箇所が設置されており、現在も拡大しています*3
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各形態の中での多様化
大まかな枠組みとしては、上記の3-4つの分類に分けることができるのですが、実行主体者の枠組みだけでなく、実行方法の多様化も進みつつあります。例えば、日本で唯一(2024年12月時点)のLoTである新潟県三条市にある三条市図書館等複合施設「まちやま」が行う「まちやま道具箱」は、自治体・公共図書館が運営するLoTに属しますが、アメリカやドイツの形態とは異なります。「まちやま道具箱」で行っているLoTは、地場産品である刃物や金属製品の貸出です。包丁やドリル、のこぎり、かま、ニッパー、ペンチなどを借りることができます。この取り組みの背景は、三条市図書館等複合施設「まちやま」がまちづくりの意味を兼ね備えた図書館である点に起因しています。三条市は金物業で栄えた町です。17世紀初頭から鍛冶が盛んになり、現在も町の重要な産業になっています。一方で、地域住民が三条の金物を身近に感じているかというと、三条の金物は高級なものが多く、なかなか市民が気軽に使うことができていないという状況にありました。そのため、市民が地元の産業に親しみを持ってほしいという側面から、図書館で金物の貸出を開始しています。*5
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この取り組みが特徴的なのは、LoTの取り組みがシビックプライドの醸成と地域産業の振興にも寄与しているという点です。環境意識の文脈から語られることが多いLoTの仕組みの中で、産業と地域振興の観点から行うLoTというのは他にはない切り口です。
また、フィンランドのアシッカラ市立図書館で行われているLoTも特徴的です。このLoTの特徴は、大学が共同でプロジェクトプランニングとマネジメントを行っている点です。ラハティ応用科学大学と共同でLoTの開発を行っており、その開発プロセスの開示と環境効果に関してレポートしています。*6
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このように、一口にLoTといっても様々な形態が存在しています。次回以降の
記事で、それぞれの事例単位で詳細な紹介をしていこうと思います。今回はここまで。
*1 Emily Silva,Libraries of Things Exploring business model configurations and dominant archetypes(2022)
*2 The-State-of-Libraries-of-Things-Report_2024.pdf(2024)
*3 Library of Things Impact Report 2023,https://libraryofthings-files.s3.eu-west-2.amazonaws.com/Impact+Report+2023.pdf
*4 Hillsboro Public Library,https://www.hillsboro-oregon.gov/our-city/departments/library/borrow/library-of-things
*5 全国初 図書館でものづくりの道具を貸し出す「まちやま道具箱」を開始https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000082466.html
*6 LAB University of Applied Scienses,https://blogit.lab.fi/labfocus/en/library-of-things-has-positive-social-and-environmental-impacts/