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妖怪図鑑「骸骨武者」
「骸骨武者」について
妖怪名:骸骨武者(がいこつむしゃ)
仮装者:赤大将(あかだいしょう)
骸骨武者の過去
かつては戦国時代の小領主(国人)。戦国の世の定め、生きるために、家族と領民を守るために戦に明け暮れていた。しかし、ついに戦に大敗し、領地に辛うじて逃げ帰ったが…迎えたのは戦に巻き込まれ略奪され荒れ果てた領地と命尽きた我が子の亡骸のみ。
領民を、何より我が子を守るため、我が子が平和に暮らせる日のため…と主に付き従い戦いに明け暮れた。子と戯れることも・成長を見守ることも出来ず、ただ守るために戦った。その挙げ句が戦に負け、領民も我が子も守れず、最期を看取ることも出来ず…全てを失った。
「そなたが生きることを許さぬ人の世に、神も仏もあるものか…。我が地獄から鬼を引き連れてこの人の世を一掃してくれようぞ! さすればそなたの来世は…」
子の亡骸を抱き、理不尽なこの世への怨嗟の声を上げ、骸骨武者は我が子の来世を祈りながら力尽きた。
そして、現代。
朽ち果てた骸が無念から現世に蘇り、戦場を共にした甲冑を再び身に纏い、彷徨い歩く。
仇敵の名を叫び、我が子の名を呼びながら、現世を歩む。されど仇敵は見つからず、無論亡き子が居るわけもなく…。見つかるのは忙しくも穏やかに暮らす人々の姿のみ。
己を見て逃げるものは数多居れど、襲ってくる者は居ない。飢えた者、行き倒れる者もいない。戦の気配は微塵もない…。子供達は、賑やかに時に喧嘩しながら外を行き来している。
もしかして、戦は終わったのか!?
そんな思いがよぎる。
ふと、道を元気に走っている子が目に留まった。庭を走り回っていた我が子の姿が重なる。
あれは亡き我が子……? いや、我が子であるはずがない!
しかし、我が子が来世に生まれ変わっているのなら、
この泰平の世であんな風に、元気で幸せに過ごせているのではないか!?
もしそうなら、我は、我は……
かくして恨む心も溶け、どこかにいるだろう来世に生まれ変わった我が子の幸せを願い、生前どれだけ望んでも得られなかった泰平の世を喜ぶ心だけが残った。
生前我が子にしてやれなかった、共に戯れ、楽しそうな姿を見守り、共に泰平の世を楽しみ、成長を見届けること、それらを未練として現世に留まり続ける道を選んだ。
泰平の世ならば刀は要らぬ。
愛刀を我が子の眠る地に埋めて、子供達の元気な姿をそっと見守りながら、時に子供達に見つかって怖がられながら、時に子供に弄ばれながら……
骸骨武者は、今日もどこかを彷徨っている。
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余話1:骸骨武者の想い(生前)
刀は武士の魂、磨いた武芸が武士の誇り。それでも夢見たのは戦のない、子らが安心して過ごせる泰平の世。
戦が必要のない世になれば、武士の存在意義はなくなる。しかし、戦に明け暮れる日々、身近な者を失う日々が終わるのならば、皆救われるのならば些末なこと。そんな日が来れば、武士ではない、ただの人になるのも良いのものではないか…
余話2:骸骨武者の見た夢(叶わなかった未来)
戦国の世が終わった。武士の仕事は終わったのだ、田畑仕事でもやらなければ…と領地の田に入るも、足を取られて尻餅ついて。「ガタイはいいのにどんくさい領主様ですなぁ、そこで若様と見守っててくだされ!」と領民に笑われる。そんな昼行灯ながら、平穏に親子で過ごす日々。
秋の収穫祭では、ここぞ出番! と櫓を組んでお囃子の太鼓を叩き、皆が子供達が笑顔で踊る。「祭の時だけは役に立ちますな」と、また笑われる。「父上、今度私にもお囃子教えてください!」とはしゃぐ我が子がいる。騒がしくも楽しい祭の日。
時折微睡みの合間に夢を見る。かつて願って、終ぞ叶わなかった未来の夢。見る事が出来なかった我が子の成長した姿。なんだか眼窩が熱い…涙などもう出ないはずなのに。
目を覚まそうとすると、穏やかで子供らが笑って過ごす光景がぼんやりと広がる。こんな骸骨も受け入れて、共に笑ってくれる人が居る。祭となればお囃子が鳴り響き、多くの人が、子らが集まり一緒に踊り・笑う。かつて夢見て叶わなかった未来がここにある。 我が子が隣に居ないことは寂しいが、この泰平の世のどこかで新たな生を謳歌していていることであろう。騒がしい領民達もきっと泰平の世のどこかに…
会えなくても、会えて互いにそうと分からずとも、互いに夢見た泰平の世を共に生きられるなら幸せだ。自分自身に語りかけ目を覚ます。
「どうしたの? 骸骨さん」「今日はお祭りだよ、一緒に行こうよ!」 元気な子らに手を引かれ、幸せな骸骨武者は今日も笑っている。
執筆:赤大将
編集:Sigma