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「オイシイ言葉にもうメモ、メモ!!」 "インタビュー田原町13 "『潜入取材、全手法』の横田増生さんにききました(後編)

9/15㈰・Readin’Writin’ BOOK STOREにて行った、横田増生さんのインタビュー記録(後編)です。
14000字(有料イベントの記録のため本記事も有料ですが面白いのでぜひ。参加者の方には、お手数ですがメールをいただけましたら前後編合わせて全文記事プレゼントさせていただきます。休憩中のやりとりも書き起こしています)

前編を読む👇

客席からのリポート。ヘエー、そういうふうに見えていたんだという。↓




『ユニクロ潜入取材一年』『潜入取材、全手法』を読み、横田さんの話を聞くうちに、このひとはもはや取材対象である柳井正さんのことが熱烈に好きなんじゃないのか? インタビュ―の中で端的に訊いてみた。

「好きかどうか……。好きなんでしょう、と言われることは多々あるんですけどね」
しばらく横田さんは考え込んだ。


参観者©️提供

話し手=横田増生さん
聞き手🌖朝山実(構成・撮影)



🌙いや、執着の度合いがすごいなあと思うんですよね。ヤマトとかアマゾンとかに対しては企業として問うている。だけど、ユニクロについては柳井正がどう言ったのかを逐一追跡されている。

「そうねえ(笑)。たとえば、ヤマト運輸は小倉昌男というひとが宅急便をつくるんですけど。小倉さんのお父さんが大和運輸を起こし、ヤマトホールディングスになっていく。
最近、ヤマトの話を書いていて思ったのは、小倉さんがすごかったのは株をぜんぶ手放したこと。息子が一人、ヤマトで働いていたんだけど、株をぜんぶ手放したために彼は放逐されるんですよね。
その後はサラリーマン社長が続くことになるんですが、社長の顔は入れ替え可能というか。ヤマト=〇〇社長とはならないんですよ」

🌒ああ、なるほど。

「でも、ユニクロ=柳井正ということは、社員は柳井正が何を考えているのかを考えながら働かざるをえないんですね。
アマゾンはベゾスだけど、経営の第一線からは退いている。柳井正は60で退くと言い、65で退く、70で退くと言い、いまは75歳ですよね。柳井正と生年が同じなのはスタン・ハンセンですけど」

(会場 笑い)

🌙そうなんですか。

「そう。天龍とか、スタン・ハンセンと同世代なのに、まだ第一線でやっているわけですよね」

🌙その比較もなんですけど(笑)

「まあ、柳井正に執着していると言われるけど、ユニクロ=柳井正なもので。こないだユニクロの社長は譲ったけれど、CEOは譲らへんわけですよ。これまでにも二回ほど社長を譲っているんですけど、なんていうか、柳井さんの執着がぼくの執着の裏返しになっているんでしょうね」

🌙ユニクロの店舗の休憩室ですかね、柳井さんの言葉が書かれた報告書が張り出されているのを見るや嬉々として、横田さんは書き写していたんですよね。

「『部長会議ニュース』というのがあって。毎週月曜日に本社で会議が行われ、その報告が毎週回ってくるんです。ぼくら下々(しもじも)の者まで、柳井正のお言葉を読みなさいと。
ぼくも、いくらなんでもそれを全部筆記していたらおかしいんで、どうするかというと、このメガネカメラというのを(メガネをかける)。これ、(フレームの)この真ん中にカメラが付いているんですけど、こうやって(ツルのところに指でタッチ)撮るんですよ」

見ためはふつうの眼鏡だけど、中央に・みたいな穴のカメラ内臓。ツルのところにスイッチがある。

🌙へえー。

「ただ、これはなかなか焦点が合わなくて。撮れているかどうかその場ではわからない。だから何回か試すんです。
これ昔、秋葉原の盗撮ショップで買ったんですけどね。二軒、専門店があって、5000円ぐらいだったかな。だけど、使い方がわからへんのですよ。中国製で、説明書を見ても。だから何度も店に行っては、『この押し方でいいんですかねえ』と訊くんですけど、5000円の商品にしつこく来られるもんだから相手は嫌がるんですよね。
だけども、通って。そこはもう怪しげな盗撮グッズが置いてある。ああ、でもいまはこれ、アマゾンで買えますから。メガネカメラで検索してください」


「新鮮なうちにメモしないと。言葉はすぐ逃げていっちゃうのでねえ」



🌙で、それで実際撮っていた?

「撮っていました。毎週、こんなん(眼鏡をかけ隠しボタンのあるツルに手をあてる)やって。帰ったらダウンロードして文字起こしして。柳井正のありがたいお言葉が溜まっていくんですよ。
ただし、当時その部長会議ニュースは誰でも見れるものやったんですけど、ぼくがこの本『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋→文春文庫)を出してからは店長ぐらいしか見られないようになったみたいです。もう下々(しもじも)のものは見なくともいいと」

(会場 笑う)

「どんな怪しいものが混じり込んでいるかわからんということなんでしょうね。昔は、読んだら必ずハンコを押さないといけなかったんですけどね」

🌙みんなそれを熟読しているんですか?

「してないですよ。誰も。ぼくだけです」

🌙きょう実際に使われていたメモ帳を持ってきてもらっていますけど。潜入取材ですから、人前でメモなんかなかなかできないと思うんですけど。

「ああ、ユニクロはメモ社会なんですよね。はじめの面接のときに、店長と店長代行がいて、ぼくよりずっと若いんですけど。なんやらかんやらと言うわけです。『すみません。メモ取らせてもらっていいですか』というと、おお!! 出来るやつがきたなあ」

🌙アハハハハ。あやしいやつなんだけど。

まずメモ。仕事をおえ、ノートにまとめる


「まあ、何でもメモを取れという会社なもんだから、メモを取る。だけど部長会議ニュースをメモするのはヘンだろうから、仕方なくこれ(眼鏡)で撮っていた。ほかはぜんぶメモですよね。
たとえば、新宿のビックロというところに潜入していたときに、何百個という段ボールが毎日届くんです。それを一階、二階、三階と振り分け、品出しをする。
その前に段ボールをトラクックから下す、荷受けという作業があって、社員がぼくに『荷受けは大変だねえ』というから、『いえ。いい運動だと思ってやっています』と大人の返事すると、『いい運動なわけないだろう。あれは奴隷の仕事だよ、ドレイの』というから、もうメモ、メモ(笑)」

🌙それは現場でメモしているの?

「さすがにちょっと離れたところで。だけど、新鮮なうちにメモしないと。言葉はすぐ逃げていっちゃうのでねえ」

🌙ということは横田さん、しょっちゅうメモされていた?

「してました。たとえば、店長の出勤時間。朝9時から夜7時まで店長は名札を下げて働いている。次の日になると、出勤簿というのが出るんです。自分が働いた分を確認して、間違いなければハンコを押す。ぼくは自分のを確認しながらチラッと店長のも見るんです。そうしたら、9時から5時になっている」

🌙??

「つまり店長はサービス残業しているんですよ。それを黙視で、『店長、9時~7時→9時~5時。2時間サービス』とメモする」

🌙眼鏡カメラで撮ったりは?

「これはなかなか思うようには撮れないから。ソニーとかアップルに作ってほしいんですよね。もっと高機能のものを。撮るのが大変なんで。だけど盗撮に使われそうなので大企業は手を出さないんですねえ(笑)」

🌙そうしたメモは、裁判になったりしたときに対抗手段になるんですか?

「ユニクロにどうしてぼくの本が訴えられたかというと、国内でサービス残業を含めて300時間以上働いている現役店長の証言と、中国で17歳、19歳の女の子たちが朝8時から翌朝3時くらいまで働いている。この二点はウソだと訴えられたんですね。
匿名の店長のメモじたいは証拠にはならないんだけど、中国の女の子たちの証言メモは証拠として採用されました。それは女の子たちの名前も出し、通訳が書いた中国語のと、『日本語だとこう書くよね』と僕が書き換えたメモを裁判資料として提出したのが採用されましたね」

🌙その裁判のやりとりが『潜入取材、全手法』(角川新書)に書かれてあるんですが、へえーと思ったのが、取材した女性たちの顔写真、それも横田さんの名刺を手にしているのを撮っているんですね。

参観者©️提供


「とりあえず、全部録ってこうと。裁判になるというふうには思ってなかったんですけど。それはちゃんとしたカメラで撮っている。だけども、ユニクロは工場にそんな女の子はいないというわけです。それでノートと写真を出した。
ほかの証言も合わせ、これは本当らしいぞ。真実相当性がある。真実と考えるに足る取材をしているということで勝訴するわけですよね」

🌙裁判になるかもしれないと見越して写真を撮っていたというわけではない?

「取材をさせてくれた人みんなの写真を撮っていたんですけど、裁判になるとは考えてはなかったんですよね」

アイ・ラブ・トランプの帽子を被りボランティアをしていたら🖕を突き立てられ…


🌙たとえば、トランプ再選がかかった『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)の本でも取材相手の写真は撮られていますよね。

「あれは、ミシガンの共和党事務所でトランプに投票してくださいというボランティアをやったんですよね」

🌙共和党支持者の家を訪問していくんですよね。

「そう。あなたはトランプに投票しますか。郵便投票をしますか?投票所に行きますか?といった質問項目があって読みあげるんです」

🌙そのとき写真は?

「ああ、そのときは撮ってない。写真を撮ったのは、支援者集会に行って取材した人たちですね。ボランティアで家を訪ねていった先で撮ると怒られますから」

🌙ああ、なるほど。

「ボランティアで1000軒くらい回ったんですけど、もともと民主党支持だった人を訪ねたときに、スマホのアプリを操作しながら聞いていたら、バタン!とドアを閉められたんです。
で、すぐまた開くんですけど『おまえ、いま写真撮ったやろ!』『いや、アプリですよ、アプリ』とスマホを見せたら、またバタンと閉まる。
それで道に出ていったら、警察に呼び止められたんですよ。怪しいやつがいると通報されていたんですね。だけども、ぼくはそのとき『I LOVE TRUMP』のTシャツとか帽子とか被っていたから、こいつはボランティアだというので、まあ頑張れよと放免」

(会場 笑う)

🌙共和党だけでなく、民主党支持者の家にも行っていましたよね。

「そう。民主党のところもリストに入っていたので。でも、二回くらい中指を立てられる。アメリカで中指を立てるなんてことをしたら、銃で撃たれてもおかしくない。だから映画ではよくあるけど、そんなことはまあ、めったにないことなんですけど。
ぼくはアメリカの大学院にも行って、最初の本(『アメリカ「対日感情」紀行』)の取材を合わせて5年くらいいたけれど、中指を立てられたのはこのときの二回だけ。トランプの帽子にTシャツを着ていたから、ぼくに対して中指を立てたというよりも、このスタイル、衣装にムカついたんだろうなあと理解しているんですけど。
一回は緊張した白人のおじさんが、ガラス窓に向けて指を突きだすんですよねえ。おお、これはアカンわ。スタコラ逃げましたけど」

横田増生のデビュー作。情報センター出版局刊行。絶版ですが、傑作です。前編にて話しています。



🌙横田さん自身はトランプ支持でもないのに、なんでまた?

「潜入取材というのは何処に潜入するのか、なんですけど。ちょっと怪しい。自分が納得できないところを選んだほうが面白くなるんですよね。
たとえば沖縄県知事選のときに佐喜真淳(さきまあつし)、この前宜野湾市長になった人が自民党から出ます。現職の玉城デニーが出ます。この二人のうち、どちらがいかがわしいかというので選んだんですね。
トランプもそう。当時まだ民主党が誰になるかは決まってなかったんだけど、バイデンとならトランプのほうが断然面白いですよね。それはユニクロに潜入するのもそうですけど」



🌙それは一種のスパイ感覚?

「ぼくは『トランプを応援してください』と言いはするんだけど、そんなに本気では言ってないし(笑)。面白いのは反トランプの人と話したとき。
トランプにもこういういいところがありますよねえと言うと、議論をふっかけてくる。
『じゃあ、トランプがどこを変えたら投票してもらえますかねえ?』というと、トランプはどこを変えたってダメだ。
『でも、トランプはこんないいことをしましたよ』というと、それはフェイクニュースだと。
そこでメモを取るわけにはいかないから、車に戻ってからメモを取るんですけど」

🌙録音はしない?

「しない。なぜなら20軒、30軒訪ねて、当たりがあるのは一つくらい。ぜんぶ録音なんかしていたらまとめるのが大変だから。それよりメモですよね。聞いて、なるほど、ありがとうございますとメモする」

🌙長いやりとりで面白いものがあったんですけど、メモなんですよね。

「そう。トランプが嫌いという黒人のひとがいて、『トランプは、自分はもっとも黒人に支持される大統領なんだと言ってますよ』と言うと、そんなのウソに決まっているだろう。『彼は黒人の失業率を改善したと言っていますが』。そんなこと言うんだったら奴隷制度のとき、失業者はゼロだった。全員雇用されていたよと。
そういう話になるわけ。あとで面白いなあと思って検索したら、その人は大学の先生だったんだよね」

🌙つまり、楽しかったわけですね。

「楽しめましたねえ。ただ、時間がかかる。だからもう若い人にやってもらいたい。アハハハハ」
 
(一時間をオーバーしていたので、ここで休憩に入りました)

業界紙時代の「ゲラ確認」をめぐるキッタハッタ、押しきったあれやこれや

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