今年も「インタビュー田原町」します。
1月27日(土)
【インタビュー田原町07】
浅草の本屋さん、Readin' Writin BOOK STOREにて。
『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』を書かれたノンフィクションライターの里中高志さんをゲストに取材現場のことなどをおききします。
https://readinwritin240127.peatix.com
昨年実施できたのは、
『芝浦屠場千夜一夜』の山脇史子さん(01)、
『ジュリーがいた』の島﨑今日子さん(02)、
『ルポ 日本の土葬』の鈴木貫太郎さん(03)、
『仁義なきヤクザ映画史』の伊藤彰彦さん(04)、
『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』の畠山理仁さん(05)、
『師弟百景』『葬送のお仕事』の井上理津子さん(06)
そして今年一回目は、里中高志さんをゲストに
『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)も「取材し、書くということ」についてインタビューを行います。
「医療観察法」とは?
と思われるひとも多いかもしれません。わたしもこの本を読むまで知りませんでした。というか、知らないことばかりでした。
殺人などの罪を犯しながらも「心神喪失」を理由に「無罪」や「不起訴」となる事件のニュースに接するたび、その後、加害者はどうなっていくのだろうか。
もやっとしたおもいを解いてくれたのが、里中さんが書かれた『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)でした。
本書の書き出しは、精神障害者の自立支援援護施設でスタッフとして勤務していた青年が、統合失調症とアルコール依存症を患い入所していた男性に刺殺された事件のリポートから始まります。
事件が起きたのは2014年2月のことで、加害者は当時「お前は死ね」という幻聴に悩まされていたという。
著者の里中さんがこの事件について知ったのは、副題にある「医療観察法」についての取材を始めて3年近く経った2022年2月。
〈執筆を進めていたが、医療観察法の全体像に迫りきれていないことを感じていた〉(以下、同カッコは本文より引用)ころに、『心神喪失だからといって、息子を殺した男を社会から消し去っていいのか 父の苦闘』というネットニュースの記事を見つけ、被害者の父親宅を訪ねていきます。
そこで被害者の父親から聞かされたのは、
「加害者は天の声というか、幻聴で『お前は死ね』ということをずっと言われていて、死ななきゃならないと思い込んでいたらしい。けれどもひとりで自殺するのは寂しいから誰か一緒に死んでくれないかということで、そのとき一番面倒を見てくれていた弘宣(被害者)が一緒にいってくれるんじゃないかと、普通の判断ではありえないことだけど、そう思ったらしいんだよね」
精神鑑定の結果、刑法39条により心神喪失の場合は責任能力が問えないことから加害者は「不起訴」となる。
納得できない父親は医療観察の審判を傍聴する。
だが、審判の結果を知るにもその都度、申請の用紙を出さないといけない。
煩雑な手続きを費やしても父親として「知りたい」という思いとともに、子供をなくした親にそうした手続きとらせるということがどれほどの負担かを整理された文章から考えさせられました。
その後の章では「不起訴」「無罪」となった加害者たちは、専門の医療施設で治療を受けるということがルポされている。
関わる医療者や弁護士、当事者(処遇を定めた医療観察法では加害者を「対象者」と呼ぶ)にも取材するなかで、制度が抱える問題も見えてきます。
本書を読み、わたしがインタビューしてみたいと思ったのは、ときおり顔をのぞかす著者である〈私〉の歩みです。
早稲田大学の5年生のときには留年した仲間と演劇活動をしていたこと。早稲田で演劇といえば、鴻上尚史さんを思い浮かべますが、里中さんにとって卒業を控えた時期に、なぜ演劇だったのか?
就職氷河期で、出版社志望だったけれどコミュニケーションが苦手で一次面接より先に進めず、編集プロダクションで働くことになったのが2001年。
代表はユニークな人だったが、社会保険なども一切なし。週刊誌の仕事をしたのち出版社に勤めるも〈上司から罵倒を繰り返されるうちに具合が悪くなり、退職。業界紙に転職したが、ここでもうまくいかなかった〉
その後は精神保険福祉士の資格を目指し、埼玉県の地域活動支援センターで非常勤の職員として2年間働いたという。
〈「精神障害者」と言うと仰々しく聞こえるが、自分とそれほど違った人たちとは感じなかった。私自身、マスコミの世界でだんだんうまくいかなくなり、居場所を失っていったという点ではその人たちと同じだった。「里中さんは健常者だからいいよね」とあるメンバーに言われたとき、複雑な気持ちになったことを覚えている〉
〈メディアから離れたこの二年ほどの期間がなければ、私はどこかでダメになっていたと思う〉
里中さんが、これまで誰も取材してこなかった事件の加害者たちの「その後」のことを本にしようと考えたのはなぜなのか。
自問自答するかのような文章に惹かれたのが、インタビューの動機のひとつになりました。
わたしもまた30年前にライターに転職した頃、「居場所」を探していた当時の記憶をたどりもしました。
副題にある「医療観察法」は、05年より施行された法律で、正式名称は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」。
重犯罪にもかかわらず「不起訴」や「無罪」となった加害者を医療施設に収容する根拠となる、この法律ができるきっかけとなったのは、2001年の大阪教育大学付属池田小学校で8人の児童が殺害された「池田小事件」だった。
しかしこの事件の宅間守元死刑囚は精神鑑定の結果「責任能力あり」と死刑判決が下り、刑は04年に執行。法律の対象者とはならなかった。
取材の積み重ねの成果として、「医療観察法病棟」に里中さんは入ることを許され、医師や「対象者」にも取材しています(社会に出たあとの生活の不安を語るのと、立ち会った医師からのメールに書かれていた「対象者」が口にした感想の一言がとくに印象に残りました)。
同じ「収容施設」でありながらも刑務所とでは何が異なるのか。
受ける医療とはどのようなものか(坂上香監督のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』に出てくるグループセッションが取り入れられている)を綴ったルポによって、これまで知られていなかったことがわかってくる。
施設は「社会復帰」のための治療を目的とするものであり、何年か後に「対象者」は社会復帰を果たすのだが、社会の中で孤立し、自殺者が多いということに驚きもしました。
今回「インタビュー田原町07」では、里中さんの書き手としての歩み、本書に書ききれなかったことについて聞けたらと考えています。
尚、今回は配信を行わず会場参加のみとなります。ぜひ観覧と合わせ、Readin’Writin’ BOOK STORE(独特で面白い棚と空間と店主)を見に来てください。早めに来られたら、二階の桟敷で素敵なカフェも開店しています。
日時:2024年1月27日(土)18:30開場/19:00開演
会場:Readin’Writin‘BOOKSTORE
参加費:1500円(オンラインはありません)
里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒後、週刊誌記者などをしながら、大正大学大学院宗教学専攻修了。精神障害者のための地域活動支援センターで働き、精神保健福祉士の資格を取得。メンタルヘルス、宗教などのほか、さまざまな分野で取材、執筆活動を行う。著書に『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)。
https://readinwritin240127.peatix.com
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 爪楊枝をくわえ大竹まことのラジオを聴いている自営ライターです🐧 投げ銭、ご褒美の本代にあてさせていただきます。