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個性ゆたか。さをり織の「工房もくもく」を訪ねてみた


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写真撮影©朝山実

 先日、福島県相馬市の工房もくもくを訪ねた。ここはハンデキャップをもったひとたちが働く作業所で、所長の佐藤定広さんとは以前、浜田真理子さんが参加するというので出かけていった手づくりの音楽祭で知り合った。
 音楽祭の主催者というので話をうかがうちに、おっとりした話し口調にひかれ、翌日時間があれば近くを案内してもらえないかと口にしていた。あとでカメラマンの山本さんから怒られた。ひとのよさに付け込んで、アッシーみたいにするのはよくない。被災地を見てまわりたいのならタクシーを使えばいいでしょうといわれた。
   たしかにそれはそう。だけども見てまわりたくなったというのは後付けで、佐藤さんのことをもうすこし知りたくなったわけだけど、話を聞いてそれをどうしたいのか。自分でも聞いてみないことには肝心のところをうまく説明できなかった。

 障がい者の就労支援施設の所長さんというひとに会ったのは初めてだったが、イメージする「所長さん」と佐藤さんが違っていたのが興味をもったポイントだった。話をうかがうと娘さんがダウン症で、その彼女が生まれたことで建築士だった佐藤さんはまったく畑違いの世界にすすむことになった。
 その話はウラカタ伝 https://waniwanio.hatenadiary.com/entry/2015/12/28/190034で。

 その佐藤さんが相馬で「工房もくもく」という新しい作業所をひらくというのを知ってから、徒然に書き込まれる日誌を読んだりして、手づくり感のある工房をいつか覗いてみたいと思ってきた。
 たまたま、奈良で一坪雑貨を営むハニホ堂(ツレで本業はデザイナー)さんが、相馬にかかわるグッズデザインの仕事をもくもくさんから発注され、「行ったことのないところのものを想像だけでつくるのはいやだから訪ねてみたい」というので、この時期にとは思いながらせっかくの機会だから同行することにした。
    ハニホ堂ともくもくとの接点は、ハニホ堂のオープン記念に缶バッヂの製作を頼んだのが縁だった。そのバッヂの絵柄を佐藤さんが覚えていてくれていたらしい。そういえば、もくもくさんを訪ねたときに鞄につけているハニホ堂のバッヂに気づいてくれたひとがいたのがちょっと嬉しかった。

 工房を訪ねる約束の時間は、月曜の朝10時。相馬駅から徒歩で5分くらいの場所にある。作業所じたいは二階にあり、一直線に急こう配の階段は利用者によっては危険だというので来年あらたな場所に移転することになっているという。
 すこし約束の時間前に到着。ドアを開けると、大きなテーブルが目に入る。「こんにちわあ」と大きな声で女性に挨拶され、「こんにちわ」と返す。利用者さんとスタッフさんが何人か動いている中に、マスクをした佐藤さんがいた。
    簡単に挨拶して、目の前の椅子をひこうとすると「ここじゃなくて、むこうに」と誘われる。三畳もないくらいの小部屋だった。ここ所長室ですかと訊くと、相談室だったのが倉庫のようになってしまったという。
   つまり所長室はもうけてないらしい。たしかに部屋の壁面にはさをり織の織機がいくつもかけられていた。使う利用者さん一人につき専用の一台になっていて、一日の作業をおえるとここに戻す。想像していたものより織機は小ぶりだった。

 隣の部屋では、スタッフさんが利用者さんと何かしているらしい。「サンジュウニチ、サンジュウニチ」と反復する言葉が聞こえる。
   大きな声だったので、佐藤さんが「○○さん、お客さんなので、ちょっと静かにしてくれるかなあ~」と声をかけた。言い方がおっとりしている。
   訪ねていったのは月末だった。叱る声を聴くのはいやだ。やんわりとした佐藤さんの声に、ああ、この声だった。あの日もつい「あした、よかったら案内してもらえませんか。佐藤さんのインタビューもしたいし」とクチにしてしまっていたのだ。

 ハニホ堂さんと佐藤さんがデザインの打ち合わせをする間、わたしは作業所の大きなテーブルを囲んで10人ちかくがラジオ体操をはじめたのを眺めていた。作業所の空気もおっとりしている。
   背を曲げては伸ばす。腕を左右に振る。それもまったりしている。ふと幼稚園の初日にわんわん大泣きして逃げ帰ったのを思い出した。
   大人になってもわたしは、集団になじめず帰りたくなる性分をひきずっているが、インタビューという仕事をするようになってなんとか堪えられるようになりはした。
   それでもキッチリとした会社とかは苦手だ。そんなわたしだけど、ラジオ体操のゆるさについ自分の身体をうごかしそうになる。

 ラジオ体操が終わると、それぞれ作業にとりかかる。この日はさをり織と牛乳パックをつぶして和紙をつくる二つのチームができていた。作業しているところをすこし覗いた。

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 利用者さんたちは朝10時に集まり、10時半から始業。お昼の休憩を挟んで、3時には帰る。どの作業を選ぶのかは一人ひとりの好みを尊重し、午前と午後で、変更するひとが多いという。
「ずっと同じだとあきるから」と理由を聞いて、そりゃそうか。
 好奇心から部屋を見て回ると、おしゃれな手提袋が並んでいるのを見つけた。昼食のあとの歯磨きセットが入っているという。
   そうした説明をしてくれている女性がすぐにスタッフさんだとわかったけれど、振り返って大きなテーブルで作業している一群を目にするとスタッフと利用者との見分けがつかなかったりする。
 最初「こんにちわあ」と元気いっぱいに迎え入れてくれた女性から「こんにちわあ」とまた声をかけられる。三度目だ。エプロンをした彼女は元気のいい職員ではなく、どうやら利用者さんらしかった。
 そういうボーダーレスさといい、佐藤さんに「ここ居心地いいですね」というと、自分もそう思うという。「アサヤマさんがあそこのテーブルに座っていても違和感ないですよ」といわれると嬉しくなる。

 さをり織でつくった、小ぶりのがま口。これから販売する山盛りになった20個ほどの中から直販してもらえるというので選んでみると、一個として配色が同じものはないし、糸の編み方もちがう。
 一つひとつ、これは誰が織ったのか、糸の編み方を見たら、佐藤さんは言い当てられるという。

「色のピッチにも個性があるというか。織りクセが出やすいんだよねえ。同じようにしていても、これは不思議なんだけれども、本人がもっているもので違いが出てくるんだよねえ。
 このひとは、要らない短い糸を紡いで一本の糸にする。その結び目が特色になっていて。それを好まれるお客さんもおられるんですよね。それにボクだけでなく、うちの職員はみんな、これは誰だというのがわかる」


 モデルとなるものに合わせて同じものをつくろうとするのではなく、気ままに編んでいると鮮やかな布になる。それをポーチにしたり財布に加工していくのだが、製品にするにあたって「こうしなさい」と揃えるような指示はしない。そこがもくもくの特色になっている。
 作業にやってくる利用者さんたちも毎日ではなく、ペースは一人ひとり違う。行きたくなることが大事らしい。

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「織るのは、ダウン症とかのひとには向いているんですよ」と佐藤さん。
 作業じたいは単純な反復だから、ふつうは飽きちゃうものらしい。
「やり続けるというのはなかなかできないんだけど、彼らはすごい集中力でやるんだよね。でも、もっと儲かる仕事をやったほうがいいんじゃないかと言われることもあるんだけれどもね。仕事としてはストレスがなく、納品したりするときに社会ともつながっていけるし」

 一般の工場などと比べると工賃としては低いけれども、「わあ、きれい」とほめられることが自然とやる気につながるともいう。なにより作業場の空気がおっとりしてよかった。こんどはもうすこし時間をかけて作業をみられるといいのだけど。

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佐藤さんの友人で相馬唯一のCDショップモリタミュージック(くるりから演歌、ボブ・ディランまで、へーと唸るくらい限定盤などあるものはすごーく揃っている)で販売している、堀下さゆりさんの弾むCD(紙ジャケットはもくもくの和紙製、あ、そうそう、「かえる新聞」28号でモリタさんの半生を堀下さんがインタビューしているのがすごくよかったhttp://somakaeru.com/backnumber.html)👇

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工房もくもくの製品などがわかる▶️https://mokumoku.buyshop.jp/categories/653532

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朝山実
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 媒体を持たないフリーランスなので、次の取材のエネルギーとさせていただきます。