【インタビュー田原町11】のゲストは『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社)を書かれた安田浩一さん
6/30(日)インタビュー田原町11は、『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社)を書かれたノンフィクションライターの安田浩一さんをゲストに、“取材し、書くということ”についてお聞きします。
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昨春から始めた、ノンフィクションの書き手に話をきく「インタビュー田原町」も次回で11回目。
今回のゲストは、『ネットと愛国』『「右翼」の戦後史』『団地と移民』『戦争とバスタオル』など、足と時間をかけた(コスパ、タイパがいわれる今どき絶滅危惧種にちかい)ルポルタージュを書き続けている安田浩一さんです。
最新刊の『地震と虐殺 1923-2024』は、関東大震災直後に起きた「朝鮮人虐殺」の現場を取材したノンフィクション。映画『福田村事件』(森達也監督)で広く知られるようになった事件の背景も詳しく取材しています。
なぜ、普通の暮らしをしていた村人たちが「自警団」を組み、デマに煽られ、「朝鮮人」だという理由で捕らえた人たち(なかには地方出身の日本人、社会主義者、中国人も)を集団リンチの上、虐殺していったのか。
四国から千葉まで薬の行商にやって来ていた人たちを、言葉のなまりから「朝鮮人」だと決めつけ、子供も含めて虐殺した「福田村事件」をはじめ、東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、福島、新潟、香川、大阪、韓国……と事件に関わる場所を訪ね歩き、なぜ関東大震災直後に「朝鮮人虐殺」が多発したのか。
事件を引き起こしたデマの流布。軍や警察の関与、虐殺犯たちの裁判記録を掘り起こし、口を閉ざしてきた証言者の声に耳を傾ける中から、「朝鮮人虐殺」がなぜ起きたのかを考え、現代に問うていく。
安田浩一のルポルタージュの特色は、事件のあった場所に足を運ぶのはもちろんのこと。「えっ、こんなところから…」と、一見テーマから離れているかに思える周縁から徐々に中心へと迫っていく。読む側をその場に引き寄せていくアプローチにある。
たとえば、虐殺の記録に頻々と記される「鳶口」とは、どんな形状で本来は何に使われるものなのか?確かめてみる。
ホームセンターに行き、店員からこれでしょうか?と異なるものを示される。ここでのやりとりは、なんともノホホンとしコミカルでもある。
ともすれば知らないのに知ったつもりにしてきたものを、安田さんはきちんとイチから調べる中で、こんなものが虐殺の現場で使用されていたのかと驚き、慄(おのの)きもする。
あるいは、荒川の河川敷を取材する中で、描き出される「京成線」という唄を紹介する。
気になりネットで検索して動画サイトを覗いたところ、女性の軽やかな歌声が聴こえる。
が、荒川の鉄橋下、歌の舞台であるこの地でかつて虐殺があったことを知らされる。
「これは、私にとってのアリラン」というシンガーソングライターにして在日コリアン二世、李政美(イ・ヂョンミ)への聞き取りは、虐殺があった土地に暮らし続けることの意味、痛みを考えさせます。
ときに、デマ情報を発信した無線塔のあった場所を歩き回るも見つけられず、たまたま見かけた古びた商店に入る。
店番のお年寄りの女性(老女と書かない言葉の選択が安田さんらしい)と話すうち、レジ横に貼ってあった夏休みの宿題レポートが目にとめ、これをきっかけにこの地に長く埋もれていた虐殺の証言を掘り起こしていく。
まだ駆け出しの頃、安田さんは手伝いをしていた佐野眞一さんから、足を棒にしても聞き込みの成果が得られなかったときに、さらにもう一軒訪ねてみようと言われたという。「取材の神様がいる」からとの教えがいまもいきつづけているのだろう。
『福田村事件』の映画の中で印象深いのが、行商団が出会う「朝鮮飴」。そこで売られていた飴はどんなものなのかを調べる中で、「不逞」のイメージとはかけ離れた、「朝鮮人」というだけで斬殺された、素朴にして実直な青年にまつわる証言をわたしたちは目にする。
はたまた、ふだん足を向けることのない老舗料理店に出かけ、まず看板の鰻を食すところから書き始める。
食レポならぬ、「一日裁判」の秘話。当時、店は臨時の裁判所取調室として借り上げられていたという。如何に虐殺犯たちの取り調べが甘くずさんであったのか。呆気にとらわれる。
圧巻なのは、これまで国をはじめ公的機関には「ない」とされてきた虐殺の資料を、あの日目にした出来事を子供たちが綴った文集をひもといていく場面だ。
総頁600。大著ながらも、足で集めた「証言」に引き込まれていく。本書はもちろん過去作をもとにテキストに、「取材する」「伝える」とはどういうことなのかを聞いていきます。
【日時:2024年6月30日(日)18:30開場/19:00開演
会場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)
ゲスト
安田浩一(やすだ・こういち)
1964年静岡県生まれ。ノンフィクションライター。週刊誌記者を経て2001年よりフリーに。事件、労働、差別問題を中心に取材・執筆活動を続ける。
12年、『ネットと愛国』(講談社+α文庫)で第34回講談社ノンフィクション賞受賞。15年、「ルポ 外国人『隷属』労働者」(「G2」vol.17)で、第46回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。著書に『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、『団地と移民』(KADOKAWA)、『戦争とバスタオル』(金井真紀と共著、亜紀書房)ほか多数】
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