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インタビュー田原町12『テヘランのすてきな女』を書いた金井真紀さんに「取材し、書くこと」についてききます


晶文社刊

昨春から始めた、ノンフィクションの書き手に“取材の仕方、書き方”について話をきく「インタビュー田原町」も12回目

次回
8/11(日)19:00~21:00
会場はいつもの、中二階に畳の空間のある本屋さん、Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)

マイクなしですが、不思議と小声も後ろの奥まで届いているようです。
中二階からもイベントが覗けます。
「インタビュー田原町
特製ポストカード」

ゲストは、スタッズ・ターケル著『仕事!』がバイブルという、イラストレーターでもある文筆家の金井真紀さんです。
ターケルなんだ、原点は。
そう聞いて、イランの多様な女性たちをインタビューした『テヘランのすてきな女』へと連なる、『世界はフムフムで満ちいている 達人観察図鑑』(晧星社→ちくま文庫)をこの機会にもう一度、毎晩ガバッと開いては読み返してみている。
いろんな職業のひとがちょっと話し、頁をめくると次のひとに場をゆずる。小さな紙幅に、観察する人(書き手)と、答える(話す)ひとがいる。
そこで何を語るか。仕事の様子がみえるように構成してあるのが特色だ。

たとえば「コンビニエンスストアの店長」は昔はやんちゃをしていたお兄さん。
バイトの面接のときにどこを見てるのかを訊かれ、
「くちびる」だという。即答。おまけに、コースターに採用するのとしないのと、ポイントとなる💋の絵をその場で描いて説明し出す。
??
またみょうな変化球だこと。が、理由と分析を聞いて、なるほど。

時間にしたら数分くらい(エッセンス自体は)のやりとりを切り取ったコラムだが、傍に立ち会っているかのような臨場感がある。
「くちびる」という答え方は独特だが、あ、このひと、あのひとに似ている。職種は違えども。ふだん会わないけど、ああ、と思い出す顔がある。
図鑑というだけあって、そういう人が、ひとりやふたりではない。

コンビニの店長でわたしが思い浮かべたのは、スキンヘッドの葬儀屋の社長だ。
一晩に数人、パラパラとめくって、へえーとなっとくしたり、懐かしい顔に再会したりが、ここしばらくの日課になっている。
でも、いまさらだけど30代までの金井さんは、どうしてテレビのリサーチャー(番組を構成するためにいろいろ調べる裏方)を続けていたんだろうか?そのときの蓄積(ひととの関わり方とか)は確実にいまにつながっているはずだけど、その頃どんなことを考えていんだろうか。あらためてじっくり聞いてみたいなあ。

さて。今回のメインとなるテキストは最新刊の『テヘランのすてきな女』である。
イランに女子相撲の選手たちがいると聞いて、ええっ!? いてもたってもいられなくなり(『世界のおすもうさん』という和田靜香さんとのルポの共著もある)、取材旅行を思い立ち、イランに留学経験のある編集者を口説いて本に出来たのだそう。

首都テヘランの安宿を起点(現地通訳が予約した高級ホテルを2日で離脱)に、肌や髪を隠すことを義務づけられた社会で生きる女性たちにインタビューし、ひとりひとりの「語り」の中から異社会の現実を浮かびあがらせる。
と、ともに、遠い国(たぶん、読者のわたしは一生行くことはないだろう)と思い込んできたけれど、そういえば女性監督のサスペンスタッチのイラン映画を観たなあ、とか。この年配女性、うちの母ちゃんと似ているわ、とか。いつしか身近に引き寄せられていた。

『フムフム』を読んだときには短いものに才能を発揮する書き手と思っていた。
その後、テレビ番組の構成を仕事にしていた金井さんがイラストも描く文筆家となるきっかけを説明する『酒場學校の日々』(晧星社→ちくま文庫)を読むと、長い文章(もう会えない人たちや店のことを綴った)に味があるひとだとわかった。

2017年発行の『パリのすてきなおじさん』(柏書房)は、『テヘランのすてきな女』と対をなすルポルタージュ作品で、担当編集者が同じだということ、本来オモテに登場することの少ない案内人・通訳が重要な(ときに主人公的にもなる)役割をなしている。
じつはタイトルから、イランかぁ……。縁なそうだなぁ……と、あまり気乗りがしなかったのだけど。
ザフラ―さん(テヘラン大学日本語学科卒で先生をしている女性)と、メフディーさん(日本で働いたこともある洒落た50代の男性)、ふたりの通訳と金井さんの会話がイラン社会を知る上でも面白くなり、男性ゆえにメフディーさんが立ち会えないときには残念だなあと思うようになる。

イランでは、女性は髪をスカーフで隠すことが義務づけられていて、従わないと逮捕される。
金井さんが訪れる前年の2022年には、警察に連行された女学生が死亡する事件が発生、これに抗議する大きなデモが起きていた。
わたしもそのことはニュースで知ってはいたけれど、テヘランで生活する女性たちのインタビューを読むと、へぇー、そうなんだ。
抑圧的な政治とこれに抵抗する一色に染まったイメージとは、異なる多様な景色が見えてくる。

金井さんが訪れたときにはデモは目にしなくなっていた(刊行イベントなどで金井さんが話しているのを聞くと、政府が抑えつけるのに成功したのと再びのデモ騒動をおそれ取り締まりを緩める傾向にあるようだ)。
そして政府のいうとおりに全員スカーフをきちんと巻いているのかというと、じつはそうでもない。風紀警察にスカーフの被り方を注意されても「反スカーフ」の人たちは聴こえないフリをして素通りするとか、注意した側も呼び止めたりせず互いの妥協点を見出だしているらしい。
運動に加わることはなくとも各々工夫し、厳格なルールから外れる着用をしている女性が多いことに驚かされる。
たくましいというか。レベルは異なるが、学校時代に靴下、制服や頭髪の自由化論争があったのを想い浮かべたりした。

驚いたといえばインタビューの3人目、女性弁護士のスィーマーさんを訪ねた日のこと(イランは女性に対して厳しい制約を設けているにもかかわらず、女性の進学率が高い)。
近年増えている女性からの依頼はレイプ被害で、加害者と被害者に面識があることが大半だという。しかも、加害者が「父親」という場合が被害者を悩ませる。
告訴し、有罪となった場合、父親は処刑されるからだ。イスラム法では、レイプは「死刑」と定められている。
つまり、罰したいものの死まで求めるのか、と躊躇してしまう。このあたりから俄然、読書スイッチが入った。

「反スカーフデモ」に参加した女性たちをサポートするスィーマーさんのもとには、秘密警察から電話がかかってくる。けれども、「べつに怖くないです」と言う。「あなたの覚悟の……根っこにあるものはなんですか?」
金井さんが口ごもりながら訊ね、スィーマーさんが答え、という場面で、以前観たイランの女性監督の映画を思いだした。

そうかと思えば、女性は肌を見せてはいけない国なのに、「豊胸手術」が流行っているらしい。
その話を詳しく聞くのは、美容整形会社で働くアーレズさんを訪ねた日のことだ。

「子どものころ『キャプテン翼』が大好きだった。毎週見てたよ」と話すのは、イラン女子サッカーリーグ黎明期に選手として活躍したアァザムさん。
いまは17歳以下の代表チーム監督にして社会学者でもある。
しかし、イラン国内では女子の試合は男子禁制のため、父親は応援に来られなかったとか。選手は試合中も長袖長パン、頭髪を覆うスカーフが外れることがあってはいけない、ヘンなルールがあるのだという。

まあ、いろんな体験、人がいるものだ。ひとくくりなんてできない。当然だけど。
でも、わたしがいちばん惹かれたのは、男性通訳のメフディーさんだ。
90年代に日本に出稼ぎに行ったことがあり、テレビと歌で日本語を覚えたという。
当時よく聴いていた唄は、金井さんが描くメフディーさんの風貌から、え?? 

アングルが「情熱大陸」っぽい。
『テヘランのすてきな女』から

長渕剛だと聞き、「な……」と金井さんが言葉に詰まる場面がおもしろい。
と、読みすすむうち、遥か彼方に思えたイランがちょっとずつ近くに感じるようになった。金井さんのルポの妙だ。

先日、大船にあるインディーズの本屋さん「ポペルベニールブックス」であった中島京子さん×金井さんとのトークイベントでも、メフメディーさんの話がでていた。
彼が日本で働いていた90年代は移民や外国人労働者に対してもやさしく「嫌な思いはしなかった」らしい。日本に悪い印象がないという。へえー、日本が変わってきたことを逆に知らされ驚きだった。
イベントのアーカイブの販売されているようです。↓

そうそう。『テヘランのすてきな女』の刊行記念のイベントがつづいている。

インタビュー田原町では、本に書ききれなかったテヘランでのこともだが、そもそも人物スケッチ画とインタビューを組み合わせる取材現場の様子などを、過去の本もテキストにしながら聞いていこうと考えています。
配信なし。会場定員は25人くらいの小さな学級規模。ぜひ、ご参加ください。

このあたりの本を中心にインタビューします。たぶん。

インタビュー田原町
チケット案内↓

日時:2024年8月11日(日)
18:30開場/19:00開演
参加費:
〇会場参加券(通常)/1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券/2000円

金井真紀(かない・まき)

1974年千葉県生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年より文筆家・イラストレーター。
著書に『バリのすてきなおじさん』(柏書房、『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』(ちくま文庫)、『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』(カンゼン)、『日本に住んでいる世界のひと』(大和書房)、虫嫌いにもかかわらず虫の研究をしている人たちに会いにいく『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)、『世界のおすもうさん』(和田靜香と共著・岩波書店)、『戦争とバスタオル』(安田浩一と共著、亜紀書房)ほか多数。
「多様性をおもしろがる」を任務とする、難民・移民フェス実行委員。

聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経て1991年からフリーランスのライター&編集者。
人物ルポを中心に今年5月に休刊した「週刊朝日」で30年間「週刊図書館」の著者インタビューに携わってきた。著書に『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。

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