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「じつは初めてのトークイベントの最中に寝ちゃったんです。ゲストなのに」

「一度、トークイベントのゲストだったときに大失敗したことがあるんですよ。お酒を飲める場所だったのでグイグイやっていたら、イベントの最中に寝てしまったんです。そう。ぼくが」



10/12㈯に「しゃしん絵本作家」のキッチンミノルさんをゲストに「インタビュー田原町14」をReadin’Writin’ BOOK STOREにて行いました。
会場参加は7人。今回チケットサイトを使えなかったこともあり案内が行き届かなかった。「もっと前に行ってくれたら。配信ないの?」とか。その分濃い対話できたように思います。
当日の文字起こしは別途noteにあげる予定ですが、さきに開始前の雑談を含めいくつか印象に残ったことを。


 インタビュー田原町に先行し、10/2~13まで、キッチンさんが撮られた『ひこうきがとぶまえに』(テキサスブックセラーズ)刊行記念で、階段壁面で写真展を開催。

設営中のキッチンさん。手際がいい。


インタビュー当日はキッチンさんが在廊するというので、わたしも早くにReadin’Writin’ BOOK STOREに行き、中二階の畳の部屋で雑談をしていました。
事前の打ち合わせはなるべくしないことにしているので、本番のところで聞いたらよさそうな話になると「じゃあ、それはあとで」としながら。ただ「あとで」が二つ三つとなり、本番の際に忘れてしまっていたこともありました。
 
キッチンさんは畳部屋に座って雑談しながらも、眼は二階に上がる入口を。
入ってきた人たちが、入り口のそばに並べている『ひこうきがとぶまえに』を手にしてかけるや、スッと立ち上がって靴を履く。階段を下りながら、そこにいた人たちにソフトに声をかけている。

壁面で写真展をしていることを案内し、階段を上がってもらえると「これは……」と説明する。
そういうことが三度くらい。
耳をすましていると、「エンジンの内部は極秘情報が詰まっていてこれ以上は近づけないんですよ」とか。
こっちのパネルは玉子が食卓に並ぶまでを撮っていて(同時展示)。「鶏は一日に一個しか卵を産まないんですよ」とか。そのたび、へぇーという声が起きていた。

アカブクロとは?
ビスなどの小さな部品を入れる赤い巾着袋。キッチンさん、名前に魅せられ、なんとグッズ販売まで手がけた。
階段下。入ってすぐのところ。
この本の写真展


内容は、ほぼ変わらないのだけど、一回一回、たったいま初めて話すかのような口調が新鮮だった。
そういえば、キッチンさんは大学を卒業して就職したのが不動産販売の会社だった。直に、ユニークなセールス手法(電話セールスが主流の時代に電話かけたくないといって考案した。本番で話してもらいました)でトップセールスマンにまでなったらしいが、やっぱり話すのがうまいなあと思いながら見ていた。
 
畳に座りオヤツのドーナツを食べながら、話しかけるのが巧いなあと言うと、キッチンさんが言ったのがすごく印象に残った。
「自分のことを話せと言われると上がったりするんですけど、さっきみたいに話しているのはぜんぶ取材して聞いたこと。おもしろいなあと思ったことばかりなので、自然に話せます。
そうそう。一度、トークイベントのゲストだったときに大失敗したことがあるんですよ。お酒を飲める場所だったのでグイグイやっていたら、イベントの最中に寝てしまったんです。そう。ぼくが」

「笑えないですけど」と言いながら顔は笑っている。詳しく訊ねると、初めての写真集を出したときのこと。もう何を話したのかまったく記憶はないが、トイレに駆け込み出られなくなってイベントは終わったという。

「わかってなかったんですよね。そんな初めて本を出した若いカメラマンのことなんか、誰も興味をもってない。だから撮った写真のことや、いまだと取材して聞いたことを話せばいいのに。ひとの興味は俺じゃないというのがわかると楽になりました」

それを聞いて昔、ひとり芝居の演出をしていた森田雄三さん(キッチンさんの『メオトパンドラ』にも夫婦の写真が収録されている)が、ズブの素人たちを何十人も集め、わずか四日間で舞台にあげる(かなり型破りの方法論を用いながら有料公演を実現させていた)という演劇のワークショップをやっていたときに、「あがらないコツ」のようなことを参加者に体験させながら教えていたのを思い出した。

森田さんが話していたことを要約すると、アイドルでもないかぎりは人はたいがい他人の話を聞きたいとは思わない。する方も自慢話が多いし。大人は礼儀で聞いているフリをするだけだ。
たとえばワークショップの大勢いる中で順に「わたしは今日は」と参加理由を説明しても、数人もしたら互いに覚えてなんかいない。だいたいが似たようなことだったし。
例外的に覚えているのは、自分のことではなく「きょう、ここに来るまでに電車の中で、」と変わった出来事をしゃべりだすと、何だろうと聞いてもらえる。自己紹介にはなってなんだけど、あの話をしていた人と覚えてもらえる。

森田さん曰く「自分の話」にとらわれている間は芝居なんてできないし、人前でしゃべることに緊張するのは「ひとが自分に興味をもっている」と思い込んでいるからで。スター以外はだれも他人のことに興味はない、ということを理解しておいたほうがいい。

ワークショップに参加していたわたしはその後舞台に立ったりするうち、本当にそうだなあと実感。舞台にいる自分はジブンであって自分ではない。そう思うと突然、楽になれた。
ワークショップに参加したのは、インタビューの仕事をしながら、人とうまく関われないことに困っていたからなんだけど。で、キッチンさんの話を聞いて、面白いなあと思ったわけだ。
ワークショップのはなしは、本にもまとめたけれど脱線するのでここまで。
 
もうひとつ。インタビュー前の雑談で、面白いなあと思ったのは、キッチンさんが陶芸家と二人展をしたときのこと。
写真は壁面に展示し、陶芸作品はテーブルに置いていた。
よくある形式だが、やってくる人たちの視線が注がれるのは、陶芸作品ばかり。壁にかけられた写真を見る人がいないということはショックだった。
なんで写真を見てもらえないのか?
試してみたのが、陶芸作品の隣に、額に入れた写真を平置きすることだった。それだけのことなのに、写真に目を落とす人、写真について話す声が聴こえてきた。

「だけど写真をやっている人からすると、あざといことをしていると映ったと思いますよ。でも、見てもらわないことには意味がないから」

その二人展のときにもキッチンさんは、「世の中の人はまったく俺に興味ないんだ」と思ったと笑い話にする。
キッチンさんが二人展の話をしたのは、二階に人が上がらないのは動線が関係しているからじゃないかなあということからだった。

扉を開けて本屋さんに入ってくる人たちが壁面の写真展をチラッとも見ないので、店内に進んでいく。見下ろしていて、こんなに特色があるお店なのに、二階では何をやっていんだろうと見上げる人が少なくて、意外だった。
キッチンさんの見立ては、
「入ってすぐ階段というのが関係しているかもしれないですよね」不動産販売をしていただけに部屋の造りで考えるんだあと感心した。

写真を説明するキッチンさん


本番のインタビューではキッチンさんに、春風亭一之輔さんを一年追いかけた写真集『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』(楽屋や舞台袖から撮ったものから、子供たちとリビングで過ごす様子など、ひとりの噺家に一年密着した)

インタビューでは、収録写真をもとにどのようにして取材、撮ったのかを訊ねました。


AERAで連載していた「はたらく夫婦カンケイ」をもとにした写真集『メオトパンドラ』(ポートレイトなのに二人がそっぽを向いていたり、ムスッとしていたり。なんでこのような表情に、と気になる)

夫婦のポートレートだけど、子供らと押し入れに入って。
カバーの写真からしてヘン


写真展の展示もしている『ひこうきがとぶまえに 航空整備士の仕事』(飛行場の格納庫で整備点検する人たちの仕事に注目した)

これらに収録されている写真を見ながら、「この写真は」なぜこのように撮ったのか。写真については素人だからこそ、撮る仕事をしている人に直接、訊いてみたいと思ってきたことをぶつけてみた。 

インタビューじたいの記録は別途掲載しますが、『ひこうきがとぶまえに』は、キッチンさんが自身で起ち上げたひとり出版社、テキサスブックセラーズの最初の本。
シリーズ本として考えていた出版社からハードカバー本は出せないとなり、決断したという。
他の出版社からという選択肢もあったが(JALの全面協力で通常はカメラが近づけないところまで迫れた。詳しい取材もできていた)、これを機に出版社を始めてみようと気持ちが大きく動いたらしい。

結果、初版2500部で5か月経過して取次経由の委託分の返品は70冊。販売データを得られていないため「どこでどれだけ売れているのかわからない」と言いつつも、1000部増刷を決めたという。
ポジティブな姿勢のすごいひとだ。と思って話を聞いていると、意外と失敗も多く、そのたび「すみません!!」と速攻で謝ったりしてきたとか。一杯笑わせてもらった。

持ち上げているように見える?
フル装備で取材中のキッチンさん

つづきは記録本編にて。


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