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めざすは、ワンショット・サーベイの帝王!?

8/11㈰、Readin’Writin’ BOOK STOREにて行った、「インタビュー田原町12 金井真紀さんにきく」の記録(前編)です。10000字





ノンフィクションの書き手に「取材と書くこと」についてきく「インタビュー田原町」12人めのゲストは、『テヘランのすてきな女』(晶文社)を出されたばかりの金井真紀さんでした。

参観者©️提供


開演5分前。会場は中二階の畳桟敷も含め満席(ありがとうごさいました!)
開場すぐ、一階の前列中央には早くに来られ着席さていた白杖の男性がいらっしゃいました。
『テヘランのすてきな女』は音声読み上げ機能を使い既読とのこと。そればりか、これまでこの本に関連した3つの書店さんのトークイベントすべに参加して来られたとか。会場が静まっているときにも、ニコニコと耳をすまされているのを目にしてナビを得たように安堵することが何度もありました。

話すひと=金井真紀さん
きくひと🌙朝山実(構成・文)

 

🌙 時間になったので、始めましょうか。
(簡単にインタビュー田原町の説明をしおえる)
前々から金井さんにはゲストに来ていただきたいと思っていたんですが、今回じつは本を手にするまで不安があったんですね。ぼくはイランのことをよく知らない。関心があるのかというと、、、

金井さん(以下同)「ハハハハ。ノレなそうだなあと思ったんですね」

🌙 正直にいうと。でも、読み始めたら、知らないから逆にすごく新鮮で面白く読めたんですね。

「ああ、よかった」

🌙 自分が知っているイランは、女性監督のミステリー的な作品くらい。だから、女性が着用を義務づけられているスカーフひとつにしても、着用の仕方にいろいろある。

「そうなんです。異教徒でもイラン国内にいるかぎりスカーフはしないといけないんですね。だけども人によっては前髪を覗かせたり、スカーフの下から後ろ髪が出ていたりする」

🌙 金井さんが行かれたのは、2022年にスカーフ着用に反した女子学生が警察に連行され亡くなるという事件があり、抗議の大きなデモが起き、さらに犠牲者が出た。その翌年でしたか。

「2023年ですね。私が行ったときにも外では絶対スカーフをしないといけないんですが、家の中ではとる人が多くて。お友達とか親戚しかない場面だと、とっちゃう。髪はぜんぶ覆い隠さないといけない決まりではあるんですが、それぞれ工夫してレジスタンスしている人もいる。年齢問わず。高齢の方でも、おおっ!!という不良っぽい方もいて」

🌙 そのあたりの話を読んでいて、1960年代末から70年の頃を思い出したんですよね。中高で「制服自由化論争」が活発で、制服の廃止、校則の見直しとか。東大闘争などの影響だったと思うんですけど。男子は全員丸刈りだったのが伸ばせるようになり、制服もなくなる。イランの反スカーフとレベルはぜんぜん違うんですが。あの頃は自由化に反対だったなあと。

「ええっ!?」 

🌙 詰襟の服がいいと。

「なんだか先生のまわし者みたいな?」

🌙 アハハハハ。というより、毎日何を着たらいいのか。オシャレが苦手だっただけなんですけど。ああ、それで『テヘラン』のこの本で驚いたのが女性弁護士に会いに行かれた話。

「スィーマーさんですね」

イランの法律ではレイプな刑罰は死刑の一択だと教えられる


晶文社←柏書房。
担当編集者の竹田さんは会社を移りながら「すてきな」インタビュー本を作ってきた。
カバー帯の女性がスィーマーさん。

🌙 スィーマーさんの話では、週に4回はレイプ被害者の相談を受ける。加害者と被害者に面識があることが多いのは世界共通だけれど。驚いたのは、イランではレイプの刑罰は「死刑」しかないということ。

「そうなんです。レイプ被害の裁判では『合意』があったかのどうかが問われ、合意のない性暴力は死刑一択なんですよね」

🌙 スィーマーさんは、とくに加害者が父親である場合に悩むんだという。「父親が死ぬ」から。説明を聞きながら金井さん同様、絶句しました。

「そういう法律のことは知らなかったので、スィーマーさんが『相手が父親だと一家が露頭に迷いますから』と言うので、えっ!? 何のこと? 繰り返し聞いていくうちに、『イランではレイプ犯は死刑しかないんです』と。そこではじめて事情を知るんですよね。そもそも婚前交渉も犯罪で、合意が認定されると男女とも鞭打ちの刑となる」

🌙 握手もダメなんでしたか。

「異性とハグしたり握手したりするだけで、鞭打ち99回だというんですから」

🌙 この本は、そんなイランの首都テヘランで暮らす女性たちをインタビューしていくルポルタージュで、多様な人たちが登場する。誰に話を聞くのかは現地で決めていったんですよね。

「そうなんです。編集の方と私にとっての前作『パリのすてきなおじさん』(柏書房・2017年刊)という本があって、パリは本当にほぼ行き当たりばったりだったんですね。街で、この人よさそうだなぁというおじさんを見つけては、通訳の広岡(裕児)さんと近づいていって、『ボンジュール!』と声をかける。編集の方から『テヘランでは、それはできないですよ』と釘をさされました」

🌙 街中で女性にインタビューする、日本のテレビみたいな光景はあるんですか?

「どうなんだろう……。女性にマイクを向けるということ自体、ハードルが高いかもしれないですよね。私のインタビューも、弁護士とかスポーツ選手、女性がなりにくい仕事、イスラム教以外の信仰の人。ざっくりしたものをイランの通訳のおふたりにリクエストしていたんですね」

🌙 女性と男性の二人にされたのは。

「女性に話を聞くのには女性の通訳がいいだろうというのと、男性の通訳のひとは、『ぜったい自分もいたほうがいい』と強く売り込まれ。結局通訳が二人という、なんとも贅沢な」

🌙 テヘランに入るまでに取材先のリストは出来上がっていた?

「そう。それなんですよねえ(笑)。日本人は段取り好きなので、リストを揃えカンペキなかたちで旅立とうとしますよね。でも世界の基準では、とくにイランでは一週間くらい前でないと約束したことを忘れてしまうんだと」

🌙 なんとも不安な出発だったんだ。

「理想は、着いたらもうこの人とこの人のアポは取れています、と言ってほしかったんだけど。通訳のおふたりとも『とりあえず、まあ、街を歩きましょう』なんですよね」

🌙 結局パリみたいなことに?

「パリだと私も何度か行ったことがあったんですけど、テヘランは初めてで。考えてみたらたしかに、着いてすぐ『さあ、〇〇さんちに行きましょう』というのもヘンなんですけど。
ふたりと街を歩きながら、何に私が興味をもつのか。『事前の情報は入れないから、あなたの目で見てください』そう言って、あちこち連れて行ってくれたんですよね。
おしゃべりして、それなら親戚にこういう人がいます、と反応をみる。『興味あります。話を聞きたい!!』と言えば、すぐ電話して『ちょうどいまヒマだから、これからおいでよ』とスケジュールが埋まっていく」

🌙 案ずるより、だった。

イランの女子相撲の会長さんにヨックモックを渡す


「でも、ここはゼッタイと思っていた女子相撲が一向に決まらなくて」

🌙 イラン行きの目的は「女子相撲を見る」だったんですよね。

「そう。それが最後のさいごになってしまって」

🌙 未読の人向けに説明しておくと、イランに女子相撲があるらしい。それを取材したいと編集者に相談したところ「金井さんも相撲をとりますか?」というのがスタートだった?

「とりますか? ではなくて、相撲をとるのが必須。でないと企画は通りません、でしたね。だからイランに行く前に相撲の世界大会を観に行って、イラン相撲協会の会長さんにはヨックモックの菓子折りを渡し、よろしくお願いします!!」

🌙 ヨックモック?

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