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Y2Kとよく誤解されるMcBlingとは?
McBlingは2000年代を通しての中心的ともいえるスタイルで、今でいうとBimbocore、Barbiecoreとも言い換えられるファッションが主軸になっています(近年のリバイバルスタイルはBubblegumBling)。
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左上から時計回りにパリス・ヒルトン、ラッパーのCam'ron、「シンプルライフ」の二人(パリス・ヒルトン、ニコール・リッチー)に挟まれたマライア・キャリー、「ハイスクールミュージカル」のシャーペイ・エヴァンス
限定品のブランド物とショッキングピンク、ラグジュアリーなアイテムのカジュアルダウンがメインのセレブスタイル(日本でいうと2000年代白ギャル~キャバ嬢スタイルが合致)。
名称の由来はMcMansion+Blingで、McMansionはいわゆる成金趣味の非常に大衆的なイメージの豪邸のことを指し、BlingはBling Bling(ギラギラ)のヒップホップアーティストの宝石や純金のアクセサリーなどのイメージからきているよう。
McMansion Hell McMansionの批評サイト
McMansion Hell – マックマンション(粗製乱造された豪邸)を批評するブログ
日本語での同サイトの紹介
McBlingは初期は黒人ヒップホップ文化と密接で、自身の才能で成り上がり巨万の富を手に入れる、といった世界観
↓
型にはまらない、上品ぶらない自由奔放なセレブリティのラグジュアリー×ポップカルチャーのミクスチャースタイル。金髪碧眼の白人が美白を優先せずに明るいトーンの金髪×ブロンズ肌の外観を維持しているところもポイント。
と移行していったように見受けられます。
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高級志向と露悪的なムード感漂うMcBling的な商業デザイン。ラグジュアリー+不良、ワルの趣が醸し出されているのがポイント
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ほとんど骨盤にすらひっかからないスーパーローライズは2000年代(McBling)特有の極端さ。セクシーフェミニンなアイテムに粗野でおおよそラグジュアリーからほど遠いアイテムをミックスマッチするスタイリング
Y2Kとの違いは?
ファッションを中心に語られがちなY2KとMcBlingですが具体的なファッション的側面以前に、そのムードを生み出す精神性がスタイルの規定には重要な気がしています。根本的にはMcBlingの様式美は先行するY2Kに対するしらけの姿勢から正反対といえます。以下は自分が思うY2KとMcBlingの相反する要素(精神性・世界観)です。
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CARI | Consumer Aesthetics Research Instituteより
それぞれのスタイルを象徴する、対照的なインテリア
Y2K←→McBling
未来的←→懐古的
抗菌・クリーン←→グランジ加工(ヴィンテージ)・ワイルド
性差を強調しない←→性差を強調する(ハイパーフェミニン)
ミニマリズム←→マキシマリズム
セックスアピール×←→セックスアピール◎
調和←→ミクスチャー
理想主義←→ニヒリズム
理性主義←→快楽主義
平等・ダイバーシティ志向←→資本主義・階級志向
そのほかMcBlingの特徴的な側面
・コスプレ感覚
・ルッキズム・セレブリティワナビー
・カリスマアピール
・ゴシップ
全体的に人間の欲望を率直に表に出したイメージといったらわかりやすい?
社会的にわかりにくいY2KとわかりやすいMcBling
上記に挙げたようにY2Kが基本的な軸として、コンピュータやデジタルコミュニケーションデバイス・ネットワークなどを通して人間の進歩に対する楽観主義からくる優等生・インテリオタク的な感性なのに対して、McBlingはわかりやすい富や成功、美貌、才能などに基づいた社会的価値を至上としている感性のように私は捉えています。
Y2Kの感性は実のところ、最新機器やサービスに基づいてある一定の限られた人が享受できた平等や先進性といった側面があったように思えますが、McBlingの感性では資本主義民主主義的なボーダーに基づいていれば逆に皆成り上がれる側面があったと思います。
大流行しているブランドのアイテムも根気とお金を用意すれば手に入れられ、それを持ってさえすれば社会的にファッショナブルだと思われる。
セレブリティが選んだものは社会的価値が高い、と捉えて皆がそれを手に入れることで、自分のファッション感性に安心していられる。ある意味民主主義×資本主義のポップカルチャーとしては一番平等な感性ともいえます。
まがい物→本物 : McBlingの終わり
しかし2000年代も後半にいくにしたがってMcBlingスタイルも徐々に変化していきました。名称の由来にもなっているMcMansionは財力と名声を手に入れれば、出自に関わらずマス的なイメージの“豪邸”を手に入れられる、というビジネスでした。McBlingを代表するブランドBaby Phatは当時のハイブランドのデザインを人々がより身近に取り入れられることを前提にしていました(逆輸入的にハイブランドにストリートの味付けが流入したともいえますが)。
Y2Kでは先進性をアピールする要素としての“平等”がありましたが、McBlingの初期段階としては、資本主義社会における、という制限はあるものの平等は当たり前のものとして一番最初に押し出して宣伝すべきものではなくなったように思えます。しかし徐々に見た目の形式だけ残し、一部の人にしか手が届かないもの、という側面が重要視されていきました。
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ジューシー・クチュールはトラックスーツとしてはやや割高な価格設定ながら、セレブリティに外を出歩く日常着の一種として着てもらうことで、人々の憧れを誘うことに成功した
そして自分の才能で社会的地位を得る→セレブリティになる、というMcBlingの世界観は2000年代後半には元から社会的地位を有する白人上流階級ワナビーに変容します。
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2007年のMcBlingなグラフィックデザイン。エンブレムを模したデザインのミックス感覚は由緒正しい家柄、寄宿学校、大学を想起させるイメージ
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甘く、装飾過多なグラニールックは代々続く伝統的な良家の子女感の演出に役立った
当然のバイオリズムですが、先進性のあったものが徐々に陳腐化していけば価値を失うわけで、McBlingの感性=すべての人が同じように成り上がろう、自身のステータスを誇示しようとすれば、そのような姿勢は魅力的ではなくなります。そうなると人々は何にあこがれるのか。それが2010年代の中心的な価値観となる、アーティスト志向・本物志向だと自分は捉えています。
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日本ではバーバーカルチャーの人気などに代表される、コロナ禍前のわりと近年まで生き残っていたHipsterスタイル。TumblrやInstagramの興隆でさまざまな人々に浸透していった。ノームコアスタイルもこの、“本質をわかっている”いわゆる意識高い系の姿勢と関連づいている
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メンフィスデザインの復興もアート志向の一種。抽象的で奇抜、プレイフルな80sリバイバルとしてのメンフィススタイルはある種キッチュなものを「評価できる目」を印象付けることに成功した
McBlingは名称の由来にもなった身の丈に合っていない“豪邸”の夢、McMansionとともに不動産バブル崩壊に端を発する2008年の大不況を境に急激に過去の感性として人々に馬鹿にされ、忘れ去られていきます。
What Is a McMansion? Definition, Meaning, and Examples of Size
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Are.na | Evan Collins (CARI Founder)より
男性版?McBling
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イメージビジュアルコラージュ
Y2K Aesthetic Instituteは、上記のMcBling的な特徴の中で、ヴィンテージ・ワイルドな側面をより推し進めたスタイルをUrBlingと呼んでいます。ギラギラの高級感ではなくシャビーで骨太な質感はひとつ前の世代である90年代のグランジ的な側面を引き継ぎつつ、より大胆で過剰な、一種の強さをアピールします。
・UrBling / CARI | Consumer Aesthetics Research Institute
Urban-McBlingからのUrBlingという名称だそうですが、McBlingの感性が郊外の似つかわしくない場所にキラキラこてこての豪邸を建てる感覚と比較すると、より文化的背景(バイクや車、ロックミュージック、酒やタバコなどの嗜好品)とヴィンテージ感覚を強調してるため、より“Urban”な感性ということでしょうか。そのような趣味を持ちやすい男性向けのビジネスに向いた外観のため、一種の男性版McBlingといえるかもしれません。McBlingがハイパーフェミニンだとするとUrBlingはラギッド(Rugged)=ハイパーマスキュリンなスタイル?(日本だとギャル男・お兄系やホストファッション?)
クリーンで抗菌されたムードのY2Kに対して、2000年代初め頃のダーティーでセクシーなムード感とも連続性が感じられます。
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左 : Y2K Aesthetic Institute(Twitter)
男性的なスタイルとはいえ、2000年代前半には女性アーティストのビジュアルにも影響していて、
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・Britney Spears / I'm A Slave 4 U (2001)
当時のファッション広告などにもみられた汗がじわっとにじんだような肌質感と影を黒くコントラストを強調した、ジリジリと暑い強い日差しで照らされたような映像加工がみられる。
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・Christina Aguilera / Dirrty (2002)
バイク、格闘技、アンダーグラウンドパーティー、薄汚れたシャワー室などおおよそ男性的な意匠で構築されたMV。
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・Britney Spears / Me Against The Music (2002)
ファッションにはMcBlingスタイルではよく登場するスーツスタイルが採用されているが、クラブのインテリアデザインがシャビーシックをメインとしている。
・2000s Dirty-Sexy-Wet Look
こちらに他の例も少しだけまとめられています。
日本でも上記のようにセクシー&ワイルドなテイストは数年遅れでトレンドとなっています。おそらく上の海外セレブアーティストの作品をベンチマークにした2006年のMV。4~5年ズレていても特段違和感ないくらいには2000年代のムードを代表するスタイルといえそうです。
Y2KとMcBlingの混同
最後に付け加えると、Y2KとMcBlingの誤解については海外ではそれなりに言及されていて例えば、
・The Y2K Aesthetic Explained
・The McBling (early 2000s) Aesthetic Explained
この2つの動画ではY2KスタイルとMcBlingの違いを説明しています。
・2020s in fashion
英語版Wikipediaの2020年代ファッションの記事内、Bimbocoreの項目において、2000年代のハイパーフェミニンで過剰に女性のセックスアピールを強調するファッションスタイルのリバイバルがY2Kと間違ってタグ付けされている点について触れています。
・What Is McBling and How Is it Different From Y2K?
US VOGUEの記事。ここでもSNSを通して広まったY2Kと実際にリバイバルしている2000sファッションが乖離していることについて話題にしています。ただし、時代の流れとしてのY2KとMcBlingの連続性にも着目しています。
90年代後半から00年代前半のビジュアルカルチャーの変遷をすべてY2Kと呼ぶ向きが、すそ野が広がるにつれて増えていますが、それぞれの感性は反対のベクトルを向いていて、実際には区別したいところ…ただし、今回紹介したようにMcBlingという名称そのものがやや蔑称のような側面があるので、これからトレンド回帰するものとしてポジティブに使用していくのが難しい言葉なようにも思います…特に日本では直感的に伝わりにくい名称のため、おそらくあまり広まらずにすべて2000年代、という意味合いでのY2Kでくくられるのではないかと。
2000年代後半のMcBlingの変容と衰退について追記しました(2023/11/28)
ちなみにY2KとMcBling(2000sファッション)の誤解についてはこちらでも書いてます。
・Y2Kファッションとは? くわしく考察してみる【2】
ヘッダ画像:Mean Girls (2004) ウィキペディアより