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平野さんの話

VIVANTを見て半沢直樹を見てるうちになんか書きたくなった。昔、某SIerに勤務してる頃アホなボス(平野さん)から壮絶なパワハラを受けてた時の話。

平野さんは、同じ部署の違うプロジェクトのプロマネで筋金入りのサディストとして悪名高く仕事によって正当化されたサディズムを部下や下請け業者に強いる、かなり強度の高い変態だった。性格は理屈っぽいジャイアン(最悪だ)に近く、説教と自慢話の多い中年であり、昔話の多くが「過去の自分の部下が如何に自分に服従したか」エピソードで構成されていた。権力に傅く従順な下僕のエピソード(可哀想だ)をさぞ美談のように目に涙を浮かべて語るその姿からは人間性の多くを喪っていることがわかった。こんなヤバい人間からは距離を置きたいと誰もが考え、私もそうだった。

しかし、企業社会における不完全性の結果なぜか平野さんは大出世し私たちのボスとなったのだ(最悪だ)

私は意地が悪く、ヤバいボスを事あるごとにバカにしまくったが、故にボーナスの減額や汚言などのパワハラが常態化し、私はボスの事が嫌いになっていった。仕返しとして大勢の前で恥をかかせるなどし、また同じような目に遭ってた同僚を集めて反抵抗勢力を作ったりした。ボスは数十のプロジェクトを請け負うSIer内における開発の中心的な事業部の責任者だった。重責から来るストレスフルな状況に置かれたボスは明らかにキャパシティオーバーで、記憶力や一貫性を欠くようになり、部下であるPM達にトンチンカンな指示を与え、またこれが原因で会社は徐々に混乱していった。幾多のプロジェクトで不調が伝えられた。リーマンショックの頃であり会社全体が暗い雰囲気になる中でボスは失敗プロジェクトの責任をなすりつけられ他の事業部とも対立し、だれも味方がいない孤立状態へと陥っていった。
私はもともと論理的サディストの嗜好があり、気に入らない人間を論理で追い詰め屈服させる癖がある。ボスは偉そうで変態で無能で権力者であった。私は仲間を集めてボスを攻撃した。レジンタンス活動は一定の支持を集め(ボスは皆から嫌われてたし、最終的にボスは更迭されたのだ)悪いボスに対抗するルークスカイウォーカー的な義勇軍みたいな気分に皆が燃えた。共通の敵を前に人の結束は固くなる。レジスタンス活動は役員や社長も暗黙の了解を示すなど、自分達の正義は疑いようがなかった。この状況は、アホで知的でない不誠実な人間に対する精神的屠殺行為を正当化するのに充分であった。これは天誅であり(半沢直樹の「悪い上司をやっつけろ!」の気分であった)私は、事あるごとにボスに議論をふっかけ、その論理矛盾と記憶力の悪さと一貫性の無さを論い、皮肉を言い、大勢の前で罵倒し、ボスは幾度となく声を荒げ、それでも私はボスのあらゆる提案と思想を馬鹿にし続け、仕事をボイコットした。そう私はその時、正当化された「正しいサディズム」という暗い情熱を燃やし発狂していたのだ。
どんどん精神的な不調を増していくボスは、職場で1日一回ぐらいのペースで泣くようになった。ある日そのボスが初めてマトモな事をしたことがあった。まぐれにせよ、どのような人間でも良い事をする場合もある。率直な感謝の意を示すと、なんとボスはボロボロと泣き出したが、性格の悪い私は笑顔でここぞとばかりに皮肉を言った。バカは許せぬという若いインテリ気取りらしき義憤にかられたわたしは追撃の手を止めなかった。失敗プロジェクト数は数十に達し、顧客から契約の解除や訴訟を起こされる事もしばしば発生し、全責任がボスに集中しボスは経営陣から叱責された。またこの頃に2ちゃんねるにボスの話題が頻繁に書かれるようになった。発狂したボスは更にメチャクチャな指示を部下に与え、強烈なパワハラ(当時はパワハラは普通だった)を行うなど狼藉をはたらき真面目な人間気の弱い人間は全員うつ病になって会社に来れなくなり、仕事中に叫ぶもの、泣くもの、怒鳴り合うもの、物を投げるもの、自殺するもの、救急車で運ばれるもの、精神病院に収監されるもの、警察に捕まるもの、といった様相。反乱軍のリーダーであった私の社内評価は高まり希望の部署に異動となった。炎上するプロジェクト群とボスと同僚達をあっさり見捨て、私は希望の部署で仕事を楽しんだ。

ある朝、人望も将来も失いヨレヨレになった平野さんが私のところにやってきて、自分が考案したという占い(幾何学占い的な何か、大きな三角形を描く)を2時間ぐらい披露してくれた事があった。平野さんは寂しげに「お前の考えてる事は全部わかる」と意味不明の事を言って去っていった。ほどなくして部署は解散になり会社は示談金を支払い、平野さんは更迭された。

今はその会社も去りメンヘラパワハラ上司の平野さんエピソードは遠い過去の出来事であり思い出す事もなかったが、久しぶりに半沢直樹を見て思い出してしまった。

、、、と、ここまで書いて「私は平野氏を精神的に追い詰める部下であった」という事に突然気づいた。驚愕!言語化してるうちに事実が定まる、みたいな事があるんだろう。平野氏が発狂する原因は「わたし」であったのだ。ズギャーン!!正しさは人をどこまでも残酷にするが正当化された暴力は非常に魅力的であり、多くの人間は狂ってしまう。人の心の弱き事よ。平野さんは凡庸な人間だったが、権力を手にして私も含めた弱き人間たちに幾多のパワハラを行い会社を傾け人を何人も病院に送り込んだ。が、平野さんを産んだのは増強された私のサディズムであった。2人のバカが成す愚かさのネガティブ・フィードバック・ループ。そしてこれこそが、人間社会を構成する基本的な力学なのです。

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