見出し画像

ガチャガチャで始まる朝。(1)

「おはようございまーす!」
ガチャガチャガチャ……ことん。
カプセルが落ちてきた。
中を開けると、カードが出てきた。
〈2年2組佐藤蓮〉
よし、今日は2年生だ!ハス?レンって読むのかな?男の子かな?女の子かな?
 
 僕の学校は、ちょっと面白い。
 登校して朝一番に、玄関にズラーッと並んだ〈ガチャガチャ〉をやるんだ。
 4年生から6年生のガチャガチャには、1年から3年の子の名前が書いたカードが入っていて、その子のクラスに行って、「朝のトーク」をするんだよ。
 1年生から3年生のガチャガチャには、「トークの話題」カードが入っているんだ。「好きな食べ物」とか「得意な科目」とか「趣味」とか。
 おしゃべりする時間は5分だからあっという間なんだけど、違う学年の知り合いがどんどん増えていって、いっぱい友達ができるんだ。1週間で5人、1ヶ月で20人だから、1年で軽く友達100人以上、できちゃうんだよ。

  1年生の時に高学年のお兄さん、お姉さんが朝、来てくれておしゃべりするのはドキドキしたけど、楽しかったなあ。朝の登校の時に声かけてもらったり、運動会で応援してもらえたり。
 実は僕の初恋の人は、1年生の時に朝のトークで来てくれた6年生のリエちゃんだったんだ。すごく優しくて、保健委員で、僕がこけた時には、すり傷を治療してくれたよ。
 ま、そんなことはいいとして、急いで2年2組に行かなきゃ。

「おはようございます!佐藤レンくんいますかー?」
「はーい!」
 手を挙げたのは、おかっぱの女の子だ。
「ごめん、女の子だったんだね。初めまして、5年1組の藤川健也です。ケンちゃんでいいよ。今日のテーマは?」
「えっと、『担任の先生の紹介』」
「よし、じゃあ、僕からね。5年1組の担任は、コージ先生。面白い兄貴みたいな先生だよ。先生になる前は外国に住んでたんだって。えーっとどこだったかな。ラオスだったかな?ラオスで農業してたんだって。虫も食べたって言ってたよ」
「えー!虫食べちゃうの?」
「ものによっては美味しいらしいよ」
「ふーん」
「レンちゃんの担任は?」
「カナコ先生。レン、カナコ先生、大好き!怒ると怖いけど」
「わかるー!僕も3年生の時、カナコ先生が担任だったから。知ってる?カナコ先生ってトライアスロンやってるんだよ」
「トライアスロンて?」
「えーっとね、走って、泳いで、自転車乗って、全部やるレースなんだって」
「ふーん。しんどくないのかな?今日、カナコ先生に聞いてみる!」
キーンコーンカーンコーン。
「あ、終わっちゃった。じゃあまたね!」
 

 教室に戻る時、理科室からハルトが出てきた。
「お、ハルトはもしかして、ホネダ先生だったの?」
「そうだよー。ホネダ先生の小学生の時の話、聞いた。その時からガリガリだったらしいぜ」
 ホネダ先生は、本名は尾根田というのだけど、やせててガイコツみたいなので、僕らはこっそりホネダって呼んでるんだ。そうそう、ガチャガチャのカプセルには、児童だけじゃなくて、時々、先生や給食のおばさんも混じってたりするんだ。
「ケンヤは?」
「2年生の女の子だったよ。佐藤レンちゃん」
「あ、隣のクラスの佐藤草の妹じゃね?」
「ソウの妹かー。そう言われたら似てるかも」
 僕はクリクリしたレンちゃんの目を思い出していた。

  次の日のガチャガチャタイム。ころんと出てきたのは、金のカプセルだった。
「おー、ケンヤ、金じゃん!」ハルトの声にまわりにいた子も集まってきた。
「すごーい!」
「はじめて見た!」
 僕もはじめてだ。ドキドキしながら、カプセルを開けると、〈校長室に来てください〉と書いていた。
「えー、校長室?」
「『朝のトーク』の相手は校長先生なのかな?」
 そこにカナコ先生がやってきた。
「ほらほら、みんな、自分のトークの相手のところに早く行きなさい!ケンヤはこっちね」と僕の腕を引っ張って校長室の前に連れて行った。
「ノックは3回よ」と僕を置いて、職員室に戻ってしまった。

コンコンコン。
「はい、どうぞ」
 そっとドアを開けると、そこには、校長先生と、僕にそっくりな男の子がいた。
 校長先生は、じっと僕の目を見て、言った。
「彼はケンゾウくん。今日だけ君と変わってあげて欲しいんだ」
 隣にいるケンゾウくんは、ぺこりと頭を下げた。
 理由はわからないけれど、そうしなければいけない気がして、僕はケンゾウくんに、体操服と上履きを貸してあげた。
「じゃあ、ケンゾウくんは、今日はケンヤくんとして過ごしてください。ケンヤくんは、校長室で僕と過ごしましょう」
 僕になったケンゾウくんは、行ってまいります、ともう一度頭を下げて、部屋を出て行った。

(続く)
   

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?