マリオン 25

っても採用までが優先的ではない。そのような事をすれば就職や雇用に歪んだ影響を与えかねないからである。つまり、チャンスの場を先に与え、掴めるかどうかは本人や状況次第、という事である。
 数頁目の求人票を読んでいる。内容は図書館の補助者で、条件は女性。年齢は三十までとなっている。主な仕事は本の整理や週に一度の子供会の読み聞かせなどである。補助であるので給料はさほど出ない。アルバイトの平均的な額に多少毛の生えた程度である。「私」はその図書館に問い合わせた。すると採用まではまだ至っていないので有効であること、そして条件が合えば息災用という手筈になっている、という。
 携帯電話のディスプレイ先はマリオン・Kである。
「もしもし、私です。マーカスです。少しお話をしたいのですが、よろしいですか」
 マリオンの声は通常の彼女のものである。
「実は、貴女に見てもらいたいものがありましてね、こちらまでご足労願えませんか。無論、交通費などがあればこちらからお出しします」
 彼女の声は気乗りしていないようであったが、とにかく三十分後にはこちらに着くという事であった。
 「私」はオフィスに備え付けのコーヒーを飲みながら待っている。内線がなった。彼女が来たようである。「私」はそのまま二階に通すよう伝えると、彼女は階段を上がってきた。周りの職員が一斉に色めきたった。さもありなん、というべきであろう。互助会というむさくるしい場所に、場違いなモデルの如き美女が、まるで補導された不良少女のような彼女の美貌にまったくそぐわない恰好で来たのだから。もう少し身を構えればよいだろうに、と勿体なく思う。が、これは出過ぎたアドバイスというべきか。「私」は机の前にもう一つ椅子を用意し、座るよう促した。
「お呼び立てして申し訳ない。実は、条件に見合った求人を見つけまして、貴女が良ければ、と思いました」
 そういって求人票を見せた。
「なぜ、これを私に」
「条件が貴女に会っているのと。……、これは、大佐からの依頼、というか」
「依頼って」
「実は、大佐が貴女の社会復帰を望まれております。『この先の長い人生を有意義に過ごしてほしい』と。それで、余計な事だと思いましたが、この仕事を貴女に斡旋したのです」
 はあ、というマリオンの表情は何とも要領の得ないもののようであった。個人的なつながりがあるのだろう、と思っていたが、それも違うようである。
「ちょっと待って」
 だしぬけに言った沈黙の後、彼女は目を開けた。目の色は鳶色のままである。
「応募してください」
 彼女そういって頭を下げてきた。長い沈黙は、例のカシムとの対話だったそうで、彼女が言うには、カシムは是非ともやればいい、という事であった。その割には随分と長く感じた。その疑問を投げてみると、彼女は苦笑ながら言った。
 彼女が相談をしたとき、すぐに賛成をしたのはいいが、やれ子どもと関係を持つことはいいことだだの、これでいい男を見つけて一緒になれだの、口やかましい親父のようなこ

いいなと思ったら応援しよう!