マリオン 7

 技師はそういうと、ノート型PCを取り出し、電源を入れて起動させると、録画した映像メディアを取りこんだ。
「それじゃ、やるぞ」
 技師は映像の再生と検査結果の再生ボタンを同時に押した。
 映像の方は、少尉が座っている所から始まっている。無論、この状態では脳波には何の反応もない。そして彼女の頭部数カ所に電極がつけられていく。脳波探知のソフトが起動され、少尉の脳波を読み取っていく。
 はじめは緊張からか、少尉の脳波はベータ波がつよく、アルファ波は非常に弱かったが、次第にアルファ波が強くなっているのがわかる。そしてアルファからシータ波、さらにデルタ波と移っていく。映像の方では少尉の様子は変わっておらず、明らかに少尉は目を開いている。
「様子は変わっていないはずなのに、深い眠りと同じ状況になっているな。アイラ先生はこの検査に立ち会っていましたよね。どういう様子だったか覚えていますか」
「彼女は普通に受け答えをしていたわ。しっかりと目を見開いていたし、私と目を合わせて話していた。けど。……」
「けど、何です」
「これはあくまで個人的主観の域を出ないものだけれど、少し彼女の様子が変だったように思えた。無論、何かの見間違い、という事も考えられるけど」
 と、アイラ女医は「私」に言ったものの、自身の感触に確信を持っている様子である。
「ここだ」
 技師が呟いた。確かに検査結果に出た未知の脳波が検出された瞬間である。少尉の様子を見ると、何ら変わりはない。何かの行動を取るわけでもなく、受け答えに変化もない。だが、彼女の脳内で何かが起こっているのは間違いない事である。
「てんかんか、もしくは血液不足による酸素欠乏か、あるいは。……脳障害」
 感染症と代謝異常も疑われるが、これらが原因であるとすれば、そもそも少尉はまともに会話が出来ないはずである。てんかんにしても同じ事で、発作は突発的かつ不規則にやってくる為、必ず知見できるはずである。しかし、目下そのような状況にであった事がない。
「なにが、原因なんだ。……?」
 医者及び研究者としての性であろう、「私」はマリオン・Kという女性を患者、あるいは一人の人間として見ておらず、一個の実験体のように考えていた。それほどに、彼女から出た脳波の反応が、ある意味では魅力的であったといえる。
「ここからだ」
 技師が指で検査画面を指差した。「私」とアイラ女医は少尉の様子を注意深く観察していた。外見上、アイラ女医が言う様に、少尉の様子は変わった気配はない。だが、何とも名状しがたい違和感が、脳幹を縫い針で刺激するようにして伝えてきている。同時に首の後ろあたりに、強い布が擦れるような不快な刺激が始まった。刹那、画像が乱れ始めた。画面の上下が刃物で真一文字にひかれたように二つに割れたかと思うと、上部が白い光で埋まっていくのに対して、下部は赤い光で埋まっていった。
「これは、確認できなかったんですか」

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