マリオン 3
―― こびりつく夢を見る。
という事である。どういう内容のものか尋ねると、おぼろげに憶えている範囲で少尉は話し始めた。
内容はごく単純なもので、目の前に人の形をした光の塊が立っている、というだけのことらしい。ただ、その人型の光はどこか懐かしく感じたという事であった。しかも、眠るたびにその人型の光の輪郭がはっきりとして来ている、という。
その夢の存在が一体何を意味するのか、「私」にははかりかねたが、もしかすると、今回の事が原因で彼女の脳の中で何らかの変化が起きたのかもしれない、「私」はそう思った。
ドアが開いた。
「アンセム大佐がお呼びよ」
アイラ医師から聞いた「私」は、カルテを上司に渡すと、そのままグラハム大佐がいる部屋に向かった。
ベイカー・アンセム大佐は軍人でありながら、この病院の統括もしている。いうなれば病院の理事長、といったところである。大佐の執務室は病院の最上階にある。「私」は分厚い扉をノックした。
「マーカス・バーンです」
「入り給え」
野太く優しい声が飛んできた。
個人病室を二部屋程とれるほどの大きさの室内には、執務用の大きな机と応接用の卓に四人掛けのソファとびっしりと詰まった本棚の他に多少の調度品がある程度で、聊か質素ともいえる。
大佐は立ち上がった熊のように雄雄しい体格に、太い首とえらの張った顔を乗せ、さらに銀髪とも称すべきなめらかな髪を短く切りそろえている。顔の真ん中にある大きな鷲鼻が大佐のアイコンである。
大佐は執務中であった。事務机二人分ほどの大きな木製の机の上には、一見して乱雑に置かれている書類が山積みになっている。手元あたりだけ、クレータのように机の木目が垣間見え、書類にサインをしていた。
「VIPの患者はどうだ」
顔を上げることなく、大佐は尋ねてきた。中年男性特有の低い声である。
「マリオン・K少尉の容体は非常に安定しています。あれだけの重傷ながら、奇跡といえるでしょう」
「私」は患者の容体を伝えたが、大佐が引っかかったのはそこではなかったようで、
「K?カサギ、ではないのか」
と、尋ねてきた。その事が大佐にとって重要事だったのが、サインの手を止め、顔を上げた事で察する事が出来る。「私」は念の為、カルテを見直したが、カサギ、という文字はどこにもない。
「登録名では、『マリオン・K』という事になっていますが、その、カサギ、というのは。……」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
大佐の表情が少し曇ったように見えた。だがそれには構わず、「私」は観察した状況を詳