マリオン 57

経緯を説明し、中身を見たことも伝えた。ジョン・スミスは感情を表すようなことはせず、淡々と謝辞をのべるだけであった。
「分かりました。ここからは、我々の出番ですので」
 と、暗にくぎを刺してきた。無論、邪魔をするつもりはないし、できれば治安警察の方で解決してもらえればそれに越したことはない。ただ、パット・モリがそれでおさまるのかどうかは、定かではない。
 その帰り道に図書館に寄った。長らくマリオンが休んでいる事への説明と本人の代わりに陳謝する為である。
 カオリ・アンセムは事務室で書類の整理をしているところであった。カオリが「私」に気づくや、ソファに座るように促してきた。
「御無沙汰しています。今日は、マリオンさんの事でお伺いしました」
「その事ですが、マリオンさんはどうなっているのでしょうか。聞けば、入院されたという事ですが」
「ええ、その事についてお話ししたい、と思いまして。確かに、彼女が入院しているのは事実です。ですが、これは検査を兼ねた入院でして、スケジュール上長引いていますが、重篤な状態ではないことは、専属医としてお伝えしておきます」
「では、いつごろ彼女は復帰できるのでしょうか」
「一か月後くらいに検査をします。その結果の次第にはなりますが、恐らくその後に退院となるとは思いますが、その時にまたお知らせいたします」
 では、よろしくお願いします、とカオリが挨拶をしたとき、首に違和感を覚えた。違和感、というよりもカシムが発現したときの疼痛に近いものだ。
 何故、感じたのか。カシムの発現はないし、思念が飛ぶときには疼痛はなかった。ところが、今、首筋に疼痛を感じるのはどういうことなのか。単純に筋肉が瞬間的に強張ったのかもしれないし、他の原因の可能性も考えられる。
「どうしましたか」
 カオリが顔を覗き込んでくる。
「汗をかいているようですが、調子でも悪いのですか」
「いえ、大丈夫です」
 と答えたが、彼女は深刻そうにしている。
「大丈夫ですから。では、失礼します」
 額の汗をハンカチでぬぐいながら、図書館を出た。途端に、首筋の疼痛が治まった。

 あの首筋の痛みは何だったのか。マリオン以外の者であのような経験をした事はない。もしかすると、あのカオリ・アンセムも、マリオンと同じような脳の状態にあるのだろうか。
 つまり、マリオンと同じく、彼女の脳にも、もう一つの人格が存している、という事である。そうであれば、彼女もまたマリオンと同じ状態になるかもしれない。無論、全く別の要因による疼痛も考えられる。が、直感はそれを拒んで譲ろうとしない。思考と直感の暫くのせめぎあいが続いた。が、確固たる自信を持って答えが出せそうにもない。よしんば、出したところで彼女に確かめる術もなければ、彼女の「中」を覗き込む権利を持って

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