マリオン 4
細に伝えた。
「そうか。後遺症は残っていないのだな」
「現状では、そのような兆候は見られません」
その言葉を聞いた時の大佐の表情は何とも形容のしがたいもので、安堵ともとれ、あるいは後悔のようにもとれた。
「ただ、ひとつ気になる事が」
「なんだ」
「毎日、同じ夢を見るそうです。人型の光を見る、という内容だそうです」
そうか、という大佐の表情は何か思いつめたようであった。
「少尉の事が気になりますか」
「あれだけの重傷者だ。気にはなるさ」
大佐はそう言ったが、明らかに何かを隠している。だが、その先を聞いたところで、大佐は何も言わぬであろうし、人の内面に土足で踏み入るような事はするべきではない。「私」はそれ以上何も言わなかった。
「彼女の、少尉の退院はいつごろになる予定だ」
「目下リハビリ中ですので何とも言えませんが、リハビリのペースは驚くほど速いので、この様子だと年が明ける前に退院できるかもしれません」
「その後の予定は?」
「しばらくは通院の予定を立てています。ですが、それも長期間にはならないでしょう」
大佐は黙然と、何かを考えているようである。
「大佐、なにかご不明な点が」
「いや、その後の少尉の様子が、な」
「その後?まあ、その後は、規定上負傷軍人互助会の方に登録となり、名誉除隊という流れになります。マリオン少尉の場合、軍事作戦によるWIAですので、最終の階級は二階級特進の名誉大尉となり、恩給もそれに準じたものとなりますが」
そのような事ではない、と大佐はやや憮然とした表情でいった。分かりきっている、ということであろう。
「では、何が」
と尋ねると、また大佐は押し黙っている。乱雑に置かれている書類をぼんやりと眺めている。
「……。報告は以上か」
「はい」
「わかった。下がってよろしい、また何かあったら、その時はよろしく頼む」
大佐は再び書類にサインをする作業を始めた。
やはり、というべきか、「私」の見立て通り、少尉の回復ぶりは瞠目するべきで、通常であれば最低でも一年以上のリハビリをしてもおかしくないほどの重傷であったにもかかわらず、この病院に運ばれてからおよそ半年ほど経過したころには、すっかり元の通りに戻っていた。健康的な褐色の肌に多少の弾痕が残っているのが何とも惜しいほどだが、少尉に言わせれば、これは無粋な退職金のようなものらしい。すでに軍人であることから離れ