マリオン 46
終わった。マリオンはそのままベッドに拘束された。
「私」は病室を二人だけにしてもらう様に願い出た。
「カシムか、マリオンか。どっちだ」
彼女の目を確認しようと肩を叩いて覚醒を試みた。
「俺だよ、小僧」
「やっぱり。何故暴れたんだ」
「久方ぶりの運動だ。体を動かしていなかったからな、おかげでいい運動になった」
カシムはそう嘯きながら、拘束を解くように言ってきた。
「駄目だ。暴れる可能性が少しでもある限り、解くわけにはいかない」
そうか、とカシムは観念した様子で呟いた。ところが次の瞬間、疼痛という言葉をはるかに超える激痛が首筋を襲った。
「や。……、やめ……」
激痛の為に体を起こすことができない。痛みは無制限に広がっていく。
「止めてほしければ、さっさと拘束を外せ」
「外し方なんて知るわけがないだろう」
「だったら人を呼べ」
「その前に大人しくすると誓わなければ、どれだけ痛くしても外さない」
「強情なやつだ」
カシムはそういうとわずかに口元を歪めながら、大人しくすることを誓った。「私」はナースコールを押して、人を呼ぶと、拘束具を外す様に頼んだ。ほどなくして警備員が拘束具が外され、カシムの身体は自由になった。
「でも、いいんですか、外してしまって」
「ええ、結構です。私が責任を取ります」
警備員が怪訝そうに尋ねてくるので、「私」はそう答えた。無論、そのような権限もないが、そうでも言わなければこの激痛の為にのた打ち回って自ら死を選ぶかもしれないからだ。
「では、後はお任せします」
といって警備員たちは戻っていった。再びカシムと二人になった。
「……、何故暴れたんだ、説明してくれ」
「鈍っていた体を動かすためだ、といったはずだが」
「そうじゃないだろ。いくら貴方が横紙破りのような性格だとしても、意味のないことをするような人じゃないことくらいは、これまでの付き合いからでも分かる。一体、何が起こっているんだ」
「……、実はどうにもわからんのだ。ある種の拒絶反応が起きた、というべきか」
カシムにも分からないところのようであった。そしてそれが嘘でない事も分かる。
「拒絶反応」
「恐らく、俺とマリオンの人格が併存することによってある種のストレスがかかったと考えるのが妥当なところだが、それも推測の域を出ないものだ。要するにわからん、という事だ。それよりも、例の本はどうした」
「あれは、治安警察に押収されましたよ。これよりは治安警察に任せることになります」