マリオン 56

ジョン・スミスはそういうと、キッチンを指差した。
「キッチンでの喫煙は、火事の元ですから、くれぐれも気を付けてください」
そう言い残して、警察本部に戻るべく、マンションを後にした。
「何だ、バレてたのか」
 キッチンからパットが顔を出した。
「いや、すまんな。治安警察に餌を撒いたらどうなるか、と思ったが、こうも素直に来るとは思わなかったな」
 そう言いながら、ソファにどっか、と腰を下ろした。
「まあ、警察も分からん、という事だろう」
「それにしても、随分と無茶なことしましたね。もう少しで何かと因果を含められて捕まるところだったんじゃないですか」
「それは無理な話だ。だって、あいつらは未だに賠償してないんだから。これをネタにして少しは脅してやらないと、こっちの気が済まないでしょ」
「まあ、分からなくはないが。……、それで、まさかただ煙草を吸いに来たわけじゃないでしょう」
 ああ、とパットは小さなカードのようなものを取り出した。
「これは、爆破テロの時に現場に落ちていたものだ。あんたと話をしていた時に思い出してな、これを解析していた。こっちも、一応の駒はそろえているんでね」
「それはそれとしても、何故私のところに来たのでしょうか」
「まあ、気持ちは分からなくはないな。感情的なしこりがあるんだろうよ。気にしない事だな。それよりもだ」
 パットは手持ちのハンディPCを立ち上げた。どうやら、PC用のメモリーカードらしい。カードを挿入したが、何も映っていない。カードが破損しているのであろうか。だが、暫くすると何かが立ち上がった。三桁の番号の羅列である。
「暗号のようだが、随分と古風なやつを使っているようだな。これだと、乱数表と字母表が要る」
「今時にしては珍しいですね。他には何かありませんか」
「これだけだな。これだけが出回ったとしても誰も解析は出来ないから、見つかったところで大した損害ではないだろうが、これがないと、そもそもの情報が手に入らないから、その意味では収穫だろう。……、さて、これをどうする。治安警察に引き渡すか、あるいはこちらで解読するか」
「引き渡しましょう」
「向こうで解読をやらせるのか?あんた、見かけによらず策士だな」
「そうじゃありませんよ。ただ、情報の提供はしておかないと」
 そりゃそうだ、とパットはカードを抜いて、渡してきた。無論、彼の事だから、データ複製はしていることは想像に難くない。
「これは、あんたから渡してくれ。どうせ、顔を突き合わせたらいがみ合うのは決まっている。こう見えても、平和主義者なんでね」

 翌日、治安警察本部に向かい、ジョン・スミスに例のメモリーカードを渡した。そして、

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