マリオン 48

 カシムはそういったが、それにしてもカシムの底の知れなさに凍りつくような寒気を覚える。この人格は、一体何であろうか。全く分からない。
「一度、本格的な検査をしてみないか。あの時から時間は経っているし、何より状況が全く異なっている。ここで検査をすることで、違う事が分かるかもしれない」
 頼む、と「私」は深く頭を下げた。だが、カシムの答えはそっけないものであった。
「そんなことをしている場合ではない」
 というのである。
「どういう意味だ」
「治安警察はテロリストを一斉摘発した、と言っているが、これで済むとは思えんな」
「何故だ。テロリストを摘発すれば、テロを行う人物はいなくなる。当然、計画は頓挫するにきまっているだろう」
「確かにな。だが、それはテロリスト全員を摘発すれば、の話だ」
「つまり、まだ捕まっていない人物がいる、とでもいいたいのか」
 恐らくな、と自信なさげにカシムは答えた。まさか、そのような事があるのだろうか。もし、捕まっていない人物がいるとすれば、それはあの本に載っていない者、という事になる。だが、あの本を通じて連絡を取り合っているのは間違いない事であるし、カシムが図書館で見ていた三人の人物のうち、一人は自爆している。もしかして、他の二人、つまり男性と少年、ということになるのだろうか。
「そこではない。その二人も捕まっているさ」
 と、カシムはいう。
「では、いったい誰が」
「図書館で本の返却作業をしていたのは決まってカオリ・アンセムだった。それも、例の本が返ってくるときだけにな。最初は単なる偶然とも考えたが、どうにも納得がいかん。それに、あの女は信用できん」
「カオリさんが、何故信用できないんだ。図書館の時にも同じようなことを言っていたが」
「あの女の背中といわず、肩といわず、背面のすべてに夥しいほどのデスマスクが見えたんだよ。本人は全く気付いていないが、まあ、気付くわけがないだろうが」
「だが、本の返却とその霊視だけで断定するのは危険すぎるし、何より証拠にならないだろう」
「だから困っている。……、どうだ小僧、図書館にもう一度潜伏するつもりはないか。もちろん、俺も一緒だ」
「そんなことは無理に決まっている。第一、貴方の場合、先ず体力が持たないだろう。それに、この仕事はすでに治安警察に任せている」
 カシムは大層不満げであったが、珍しくこちらのいう事に従った。カシムが言うには、潜んでいるマリオンから大目玉をくらうかもしれない、という事であった。だが、カシムは実に口惜しそうにしている。
「ともかく、暫くは安静にした方がいい。これは、専属医としての命令だ」
 そう言い置いて、今度こそ睡魔を鎮める為にマンションに戻った。

 目が覚めたのは翌日の昼過ぎであった。何気なく携帯電話を見てみると、何度か着信が

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