マリオン 2

 こういってはなんだが、マリオン少尉は軍人であることが不思議に思えるほどの美麗さで、顔に被弾しなかったこと神に感謝したいほどである。患者衣でもわかるほどの引き締まった体に程よくついた筋肉、さらに整った顔立ち、一度見たら忘れ得ぬ鳶色の瞳などは、軍属でも広告塔に使うか、いや、それ以前にモデルとしても十分に生計を立てるができるだろう、少なくとも「私」にはそう映った。無論、どういう人生を歩むか、という事については彼女自身が決めることであって、「私」が口を差し挟む権利はどこにもないのであるが。
 少尉は目覚めたとはいえ、未だ意識が混濁している状況である。「私」はすぐにナースコールのボタンを押した。程なくして、看護師を連れて、アイラ女医がやって来た。「私」が状況を報告すると、アイラ女医は、わかった、といって「私」に出るようにいった。診察の為の配慮であろう、「私」は病室の外で待つことにした。
 アイラ女医の問診が聞こえてくる。内容は体の具合であったり、気分の好悪といったくらいのものである。
 問診は五分もかからず、「私」はすぐに呼ばれた。
「少尉の体調はまずまず、といったところね。暫くはこのまま安静にしてもらってちょうだい。何かあったらすぐに報せるように」
 アイラ女医はそういうと、看護師と共に部屋を出ていった。次第に意識をはっきりと取り戻したのか、少尉はあたりを見回すと、
「ここは?」
 と尋ねてきた。「私」は、ここがVIP病室であることを告げた。すると、
「少尉でもここが使えるのね、知らなかったわ。後で皆に教えてあげなくちゃね」
 といって、少し皮肉めいたほほ笑みを投げかけてきた。
「滅多なことでは使えませんよ、少尉。貴女の場合、重度のWIA(戦時負傷者)だったのですから、特別なのですよ」
「じゃあ、逆に内緒ね」
 少尉はそういって笑うと、微かに寝息を立て始めた。「私」は、どうにも形容しがたい興奮を抑えられないでいる。
「これは、全くの奇跡だ」
 「私」は誰に聞かせるつもりもなく、そう呟いた。それ以外にこの状況を理解しうる手段はない、とさえ思った。寝顔を見れば、そういう事実すらあったかどうか怪しいくらいであるが、患者着から見え隠れする窪みのある傷痕が、そういう考えを吹き飛ばしてくれる。
 強運、という陳腐な一言では片付けられないほどの運を彼女は持っている。もしくは、神の加護を受けている。そう思わせるだけの説得力を、今の彼女から感じることができる。
 それから数日の間、彼女に大きな変化はなく、容体も安定していた。二ヶ月を過ぎるころには点滴治療も終え、さらに二ヶ月を過ぎると、食事は流動食から固形物に変わり、少しずつではあるが、運動も始めた。無論、傷の深さの為、以前ほどではないが、日常生活を送るほどには十分に回復していた。このままリハビリを続けていけば遠からず退院することができるだろう。
 その間、少尉は奇妙な事を「私」に話し始めた。

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