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なぜ『RENEW福井』は日本トップクラスの産業観光イベントに発展したのか?(運営する「人」編)

今回は、福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した産業観光イベント「RENEW(リニュー)」の運営「体制」とその中の「」に迫るインタビューです。

今回の取材は、2022年3月、コロナの影響により約半年遅れで開催された「2021年度のRENEW」を訪問した際、出展者・来場者を問わず、RENEWに集まった多くの人たちが心からイベントを楽しむ様子に、我々が大変感銘を受けたことをきっかけに実現しました。
前編の『運営の「体制」編』では、産地のサポーターとして活動する『あかまる隊』のお話を中心に、イベントの運営体制や企画の背景についてお聞きしました。

ここからは、運営の舵を取るRENEW事務局の中の3名の方に、RENEWに参加したきっかけや思いなどをお聞きしていきます。

RENEWがきっかけ。事務局3人それぞれの物語

村上 捺香(むらかみ なつか)さん。石川県出身。2021年よりRENEW事務局長を務める。
時間があれば全国各地の友達のところへ出かけて行く行動派。音楽(シティポップ)を聞くのが好き

ーーもともと、ものづくりや伝統工芸などがお好きだったんですか?

いえ、伝統工芸は何となく古いものというイメージだけで特に興味はありませんでした。RENEWは仕事の都合で福井県に移住していた友達に誘われて、みんなが行くと言うので私も行ってみようかなというくらいの感じでした。実際に来てみると、とてもカラフルな漆器や和紙のアクセサリーがあって、私にも興味を持てるようなものがたくさん置いてあり、「なんだか凄いな」と思ったのが、福井県に興味を持ったきっかけでした。

ーーそこからどのようなことがあって移住されたんですか?

東京の大学を卒業してから広告代理店で働いた後、独立してフリーランスでWebメディアの編集や執筆、サイト制作などで生計を立てながら、各地を点々と旅するような生活をしていました。次は何をしようかと迷っている時期に、当時RENEWの事務局長をしていた森一貴(もり かずき)さんが、次の事務局長を探しているということで私に声をかけてくれたんです。RENEWに来て、福井のものづくり産業を観光資源として活用し持続可能な地域を作ろうとしている人たちと出会い、「地域の未来を作る」というビジョンを知り、すごく素敵な考え方だなと思いました。そして、この活動に参加したら、これまでと違う新しい視点が得られるのではないかと考え、RENEWにどっぷり浸かってみようと鯖江に移住し、2021年から事務局長をやっています。

山田 美玖(やまだ みく)さん。愛知県出身。大学在学時にRENEWに来て移住を決意。
植物やインテリア雑貨を集めるのが好き。

ーー山田さんはどのようなきっかけで移住されたのですか?

大学でデザインを学んでいて、もともと地域デザインや建築に興味がありました。その中でRENEWというイベントを知り、実際に出会った人たちにすごくいい印象を持ったんです。新しい人やものを受け入れてくれるような雰囲気を感じ、それがきっかけで移住を決意しました。大学卒業後はしばらく浜松で生活していましたが、昨年の春、ついに鯖江市に移住してきたんです。

ーー大学時代にRENEWに来た際、すでに事務局で働きたいと思っていたのですか?

当時はそういうつもりはありませんでした。いつか人が泊まれるような場所や人が集う場所を、大好きな福井で作りたいなという思いでしたね。移住してきてから「事務局をやらないか」と(事務局長の村上)捺香(なつか)さんから声をかけてもらいました。RENEWは地域のために様々なことをしている団体で、自分の考えともすごく似ているところがあったので、ぜひやりたいということで参加したという流れです。

深治 遼也(ふかじ りょうや )さん。福井県福井市出身。
東京の美術大学在学時に、あかまる隊及び事務局のインターンを経験後、鯖江市へUターン。
事務局の仕事の他、越前漆器の有限会社漆琳堂を手伝ったり、産地の様々な伝統工芸を学んだりしている

ーー深治さんはUターンしてみてどうでしたか?

鯖江市や越前市に住んでみると本当に面白くて、「ものづくりがこんなに溢れているのか」という衝撃を受けました。多様なものづくりがあり、職人さんたちが頑張っている姿をこんなに間近に見られるところは他にないと感じました。東京にいる時に憧れていた有名なデザイナーの方たちと繋がりのある職人さんが、この土地にはすごくたくさんいるのにも驚きましたし、こんな田舎ではありますが、日々ものづくりに関する最新の情報が入ってきて、“常に新しいものづくりの現場がある”というのは、自分にとっては大きな魅力でした。

あと、事務局でインターンをしている時に、大学の制作で職人さんたちに協力してもらい作品を作ったことがありました。その際に、ある職人さんに「この土地なら、ものづくりで好きなことはなんでもできるよ」と言ってもらえたことも、この土地にいたいなと思うきっかけになりました。皆さん高い技術を持つ職人さんばかりですが、そんな職人さんでも売り上げが少ないという課題があります。その課題に対して、どうすれば力になれるのかということも今は考えています。

やりたいことができる場所、やりたいことを見つける場所


ーー皆さんそれぞれのきっかけや想いを持ってこの土地に来られて、実際に思い描いていたことは実現されてますか?

村上さん:私は未知の世界に飛び込むような感覚で来たので、何かを思い描いていた、ということは特にありませんでした。ただ、100社以上の企業や行政、町全体からの応援、年々増加するあかまる隊やボランティアの数に、フリーランスで仕事をしていた時とは全く違う規模感の仕事をしていると感じています。そして、これまで参加してくれた企業の方々や友達などからも「今年も楽しみにしています」という声を聞くと、いろんな人が期待してくれていることに嬉しさを感じますし、RENEWの変化に応じて、自分自身の成長も感じられて、それもすごく嬉しいです。

ーー山田さんは、「たくさんの人が宿泊したり、集ったりできる場所をつくりたい」という理想像があったと思うのですが、いかがですか?

山田さん:移住してくる時にそのように考えていたところ、今年(2022年)の7月、RENEWの事務局が「一般社団法人SOE(ソエ)」として法人化し、その中の事業の1つとして宿泊事業をすることになりました。コンセプトや内装などを1から作っていくプロセスをプロの方々に教えていただきながらやっていて、一つひとつがすごく勉強になっています。最初に自分で思い描いていたことよりもすごく贅沢というか、本当に良い条件と環境の中でやらせてもらえていると感じます。

ーー深治さんはいかがですか?

深治さん:将来のことはまだはっきりと決めていないのですが、大学の時は、デザイナーとしてものづくりに関わっていきたいとうっすらと思っていました。それが福井に帰って来たことで、職人さんと一緒に仕事をするようになり、ものづくりに密接に関わることができています。福井は、デザインをやりたい人、ちゃんとものづくりに関わっていきたいと思っている人こそ絶対に来た方がいい場所だなと感じています。また、私自身もまだまだ知らないことばかりで、これからもっといろんなことを吸収したいと思っています。

ここは何でもチャレンジできる場所ですし、良くも悪くも形が定まっておらず発展していく余白が有り余っている場所だと思うので「何をやっていくかはっきりと決まっていない」という人にもぜひ来てもらいたい場所だと思っています。

ーー深治さんは今の段階で、いつかこんなことやってみたいと思い描いてることはありますか?

最初はデザイナーを思い描いていましたが、今はどちらかというと手を動かしてものを作る方をやりたいのかなと思うようになりました。この思いは、様々な産業の職人さんたちと深く関わっていくうちに芽生えてきました。ただ、職人に限らずともものづくりをすることはできるので、新しい立ち位置も考えられるのかなと思っています。自分で何か作りつつ、他の職人さんとどんどんコラボレーションするというのもあり得ると色々と考えています。

ーー7つの産業の中で特にこれをやりたい、やってみたいというものはありますか?

深治さん:うーん・・・どれかを選ぶのは難しいですね。どれもやってみたいというのが本音ですね。(笑)

ーー職人さんの立場から見て、他の工房の仕事を習った人が、自分のところにも来るというのは抵抗はないのでしょうか。

深治さん:RENEWの影響もあるかもしれませんが、古くから伝統工芸を「産業」としてずっとやってきた地域なので、変化には柔軟だったというふうに聞いています。実際にそういう気質もあるように感じています。職人さんと言えば、テレビで見たような固いイメージがあったんですが、ここの職人さんたちは全然それがなく、みんなすごく受け入れてくれるなと感じます。

ーー最後になりますが、私も何かやってみたいと思っているような人たちに言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?

村上さん:何かやってみたい、新しい一歩を踏み出したいという方に、この町だったら何でも受け入れてくれる基盤が揃っているということを、もっと知ってもらいたいです。RENEWやあかまる隊を通じて「やりたいことができる環境がこの町にはある」と、私たち自身も実際に体験して思っているので、自信を持って「来てください!」と言いたいです。最初から移住となるとすごくハードルが高いですが、とりあえず2、3日間だけ来てみるとかでもいいと思います。RENEWを始めた人たちに囲まれながら、自分を見つめ直したり、やりたいことを再確認するということもすごく大事だと思うので、「とりあえずRENEWに来てみなよ!」と言いたいですね。


あとがき


自分が何がしたいのか決まっている人も、探している最中の人も、丸ごと受け入れるような柔軟な土壌を作り、そこに集まった若い人と産地の人が、ものづくりを通して共に生きる。その活動そのものが持続可能な地域づくりというRENEWの目的であり、その無理のない循環の中で集まってきた人たちが自然と笑顔になっている。RENEWで私たちが見たものは、きっとその笑顔だったのだと思います。地域の活性化、持続可能な地域を目指すためには、そのためのイベント単体をどうにかしようとするのではなく、その地域で暮らす人とそこに来る人同士のつながりを長い目で見て、大事に育てられるような取り組みをすることが必要なのではないかと思いました。(ものづくり新聞 井上史歩)