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日本のものづくり|monogoto #5 京ろうそくからたどる日本文化

 京都という日本の伝統文化が色濃く残る土地で、古くから寺社仏閣に”日用品”として、和ろうそくは必要とされてきた。時代が移り変わる中で、和ろうそくは私たちにどのような可能性を見せてくれるのだろうか。

今回取材に訪れたのは、京都伏見にある中村ローソクさんだ。明治20年(1887)に創業してから、現在に至るまで、京都伏見で和ろうそくを作り続けている。その起源をたどると室町時代にまでさかのぼるのだそう。

 代表の田川広一さんと、ご子息である田川尚史さんに和ろうそくの現状今後目指していきたい和ろうそくの在り方について伺った。

変化する需要

 「創業当時から先代の頃までは、寺院で使用される和ろうそくをつくり続けてきました。以前は寺院や檀家の注文だけで生計が成り立っていたけれど、現代になりその需要は減ってきています。自分の代から小売店に出店を始めました。」
 仏事をメインとして日用品・消耗品としての和ろうそくを作ってきた中村ローソクだが、現在は百貨店での販売など私たち消費者に向けた小売りにも力を入れている。

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工房の雰囲気

 風情のあるのれんの先には、仏事用のものからディズニーキャラクターの絵柄が描かれた鮮やかな色のものまで、大小様々なろうそくがズラリと並んでいた。職人さんである田川尚史さんにお話を伺った。
 「工房に入ってきたらまず最初に、和ろうそく特有の匂いを感じ取ったと思うのですが、だんだんと気にならなくなってきます。これは和ろうそくは洋ろうそくと違って100%植物性素材で出来ているので、匂いも自然と身体になじんでいくからです。」

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原材料”櫨(はぜ)”について

 和ろうそくの主な原料として使われるのは、ウルシ科の櫨の木から取れる櫨の実です。中村ローソクでは、櫨の他に米ぬかろうパームやしろうを原料として使用している。近年、櫨以外の原料を使う割合が増えてきているそう。その背景には、深刻な原料枯渇問題があった。

「和ろうそくの原料である櫨は、主に九州と和歌山に生息しています。ただでさえ山の手入れをする人出不足で生産量が減っているなか、主な産地である長崎県では30年前の雲仙・普賢岳の噴火の影響で、土石流が流れ込み、ほとんどの櫨がダメージを受けました。」
 「同時に、ろうそく屋の減少に伴い、櫨をとる人、芯をつくる人も減ってきています。ろうそく屋はここ10年で3軒ほど辞めていて、現在は全国に10軒ほどしかない。」

和ろうそくができるまで

工程① 櫨などの原料を高温の鉄鍋で液体になるまで煮る

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 この時点では、まだ黒くてサラサラした液体だ。不純物は取り除かれるが畑の肥料となるため、無駄がない。和ろうそくをつくる過程でゴミとして捨てる部分はないそうだ。

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工程② 黒い液体をかき混ぜる
 勢いよくかき混ぜ、空気を含ませることによって、色が変わっていき、白く固まった蝋(ろう)の原形となる。


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工程③ 型に流し、ろうそくの形に固める
 蝋を木型に流し込んで固めていきます。この型の中には火のつく部分である芯が中心にあります。ちなみにこの芯はお経の途中で火が消えてしまわないよう、途中で途絶えてしまったら縁起が悪いので、太く丈夫に作られています。

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工程④ 外側に色付けをする
 ろうそくの大小関係なく、ひとつひとつ手作業でコーティングしていく。型から外されたそのままのろうそくは黄色っぽい色だが、この工程で赤か白に色が付けられる。赤色のろうそくは、お祝い事や催事の際に使われるそう。

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絵ろうそくについて

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 次に、絵付の作業の様子を見せてもらった。
ひとり黙々と作業をしていた女性は、西川穂乃さん。現在27歳。どうして工芸の道を選んだのか。その理由について尋ねた。

「将来、工芸の仕事に就くことは考えてもいませんでした。美術系の学校でデザインを学んだあと、学校の求人パンフレットで偶然中村ローソクを見つけました。絵を描く作業が好きなので、それを仕事にできる和ろうそくの絵付師になりました。」

 現在、京都には和ろうそくを絵付している人は西川さんを含めた2人しかおらず、2人とも中村ローソクの絵付師である。

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 筆と絵具で描かれる一筋の線は、とても細かく繊細な作業だ。絵の精密さによって値段は前後するが、丁寧に絵付けされた和ろうそくは、この作業を目の前にすると「安すぎる」と感じてしまうほどである。

日本文化からみる和ろうそく

 田川さんにお話を伺うなかで、田川さんの文化に対する熱い想いに気づいた。

 「和ろうそくは昔から文化の引き立て役でした。つまり、和ろうそくそれだけが単体でスポットライトを浴びることはなかったのです。

日が落ち、暗くなった茶室では、ろうそくによって障子の模様が浮かび上がり、襖に張られた凹凸のある金箔は乱反射をして、夜の闇に輝きを放ちます。下からの揺らめく炎は照らすものをより美しく魅せる役割を持っていました。

舞子さんの白塗りにせよ、仏像の彫りにせよ、和ろうそくに照らされたときにいちばん美しく映えるようにつくられていたのです。生け花も和ろうそくに照らされたときにどの角度から見ても綺麗に、床に落とされる影までも楽しんでいたといいます。

和ろうそくは表には出ない、日本文化の引き立て役でした。日本の文化は和ろうそくの灯りがあってこそ、ここにあるものをどう見せようかというところから生まれたものでしょう。」

 「近年、仏壇に供える和ろうそくはスイッチひとつで点けられるような電気ろうそくに変わっていき、京都の古い露地を照らす石灯ろうは、LED、あるいはライトアップで照らされ、本物の火の明かりが灯されるような場所はほとんどなくなってきています。どっちが悪いとは言わないが、和ろうそくの灯りを若い人にも体感してほしい。」と代表の田川さんは語る。


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伝統工芸品ではなく消耗品としての和ろうそく

 中村ローソクは、いままで寺社などに”日用品”としての和ろうそくを作り続けてきた。その想いは、買い手が私たち一個人になっても変わらない。伝統工芸品は「見せるもの」としてひとつの単価が上がってしまう。値段が上がると、その分買う人も減ってしまう恐れがある。田川さんが目指しているのは、見世物ではない、あくまでも消耗品として暮らしと密着させることである。

あなたの生活にも和ろうそくを

 普段は当たり前となっている蛍光灯の電気を消して、和ろうそくを灯したなら、そこには自分のための「非日常空間」が広がる。そこにはキャンドルとは違う、和ろうそくの良さがある。下から照らされることで普段とは違う友人の新たな表情に出会うだろう。

新時代の和ろうそくブランド

京ROUSOKU+」は新時代のろうそくの在り方を提案する。

時間ろうそく
忙しい現代人でも生活の中にろうそくを簡単に取り入れられるよう、5分・10分といった短い時間単位でデザインされたもの
香りろうそく
毎月、季節によってろうそくの香りも変化する。洋ろうそく、つまりキャンドルは石油が原料なので強い香りがつけやすいが、人によっては頭が痛くなってしまったり。でも和ろうそく植物性原料100%なので煙を吸っても気分が悪くなりません。
毎月の定期便
京ROUSOKU+ではろうそくの定期便(サブスク)を行っています。毎月届くろうそくは、その季節にぴったりな香りとやわらかな和の色彩で季節を楽しませてくれます。


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