【小説】汗ばむ理由(483字)
大量の汗が全身からふきだす。
理由は夏の暑さのせいじゃない。
梅雨のじめじめとした湿気もひどいがそれでもない。
今まさに、上司から告白を受けたのだ。
三歳上の美しい女性が、僕に付き合わないかと。
告白をした本人である彼女は、涼しい顔でよゆうの微笑だ。
対する僕は、スーツの中をまるでサウナのようにして、シャツを背中に貼りつかせている。
「別に深く考えることはないのだけれど」
自分から「付き合って欲しい」と言っておいて、彼女の態度はとてもドライ。
無理に付き合う必要は無いことや、断ったところでデメリットが無いことなど、まるでプレゼンでも聞いているような説明をしてくる。
「ぜひ、お付き合いしたいです」
彼女のコンパクトだが実によくまとまった話を聞き終わってから答えた。
僕自身も、ずっと彼女のことが好きだったのだ。
ただ、彼女の態度を見ると『本当に僕のことが好きなのか?』という疑問が湧いてくる。
「じゃあ、よろしくね」
彼女はまるで商談成立といったように握手を求めてきた。
反射的に手を差し出し、彼女の手に触れる。
そこには驚くぐらい、汗ばんだ彼女の手があった。
モノガタリードットコムのお題『汗ばむ理由』に投稿した作品です🐻