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16.朽ち葉 →

 これを書いているのは10月1日。ことしは夏からずっと気温が高く湿気もあって、まだ9月のような季節感だ。そろそろキンモクセイの香りが漂ってきてもおかしくない時期なのに、この暑さのせいで開花がだいぶ遅れるらしい。おそらく紅葉もまだ先になるだろう。

 さて今回のタイトルとなった「朽葉(くちば)」とは、枯れ落ち葉のこと。

枯れ落ちた葉。落ちて腐った葉。落ち葉。《 冬》「水底の—にありぬ鯉の影/三鬼
朽葉色」の略。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

 私の好きな季節は秋から冬にかけて。乾いた空気に落ち葉がカサカサと音を立てたり、木の実や樹木の皮がどこかで弾ける音がしたりする。また、朝露から立ち上る土のニオイも好きである。
 土のニオイの正体は微生物が分解した朽葉や、ミミズの排泄物だそうだ。ミミズは地中を縦横無尽に動き回るため土の中にほどよく空気が入り、ちょうど畑を耕している状態になる。すなわち良い土が出来上がるのだ。

 今から約35年前、印刷所勤務でスーパーやホームセンターのチラシを担当していたのだが、あるホームセンターのチラシに掲載する商品群の中に「コンポスター」なるものがあった。コンポストとは堆肥のことで、コンポスターは生ごみを分解処理して堆肥を作る装置である。初めて見るものだった。
  制作物の間違い探しをする仕事のため原稿の説明書きをよくよく読むと、「毎日ご家庭で出る生ゴミを入れると数日で分解して堆肥ができます! 電気も使わず生ゴミ、臭わせない!  地球にやさしい!」みたいなことが書いてある。これは画期的だ。
 当時の住まいは木造の平屋建てでネコのヒタイほどの庭があり、ふき、みょうが、山椒の木、ぼけなどが生えていた。家庭菜園はやっていなかったが新しモノ好きなので、うちにもぜひ欲しい! というのが第一印象。
 さらにスペック表でサイズや容量などを確認する。具体的な数値はさすがに失念したが、エプロンをかけて微笑む女性モデルと並ぶには不釣り合いなコンポスターは、かなりの大きさだった。郊外の一戸建ての広い庭に設置することを想定しているので、それなりである。しかも、置けばたちまち景観が悪くなるような真っ黄色。うへぇ、いらない。

 エコなものがもてはやされる今の時代、あれから少しコンパクトになり、見た目もやや良くなったさまざまなコンポスターが売られているが、一つ前の住まいは集合住宅でディスポーザーを付けていたので生ゴミの心配はなかった。ベランダ菜園もやっていたが腐葉土は買ったほうが早いので、結局コンポスターは導入していない。

 落ち葉がすべて朽ちるかというと、中にはイチョウのように腐りにくいものもある。東京都のシンボルマークになるほどポピュラーで、全国的にも街路樹として多用されている。
  イチョウの木には性別があり、ツガイで植えるとギンナンの実がなるがキョーレツに臭いので街路樹には不向きである。そのためどちらか片方しか採用していないはずだ。たまに間違ったのか、ギンナンをぼたぼた落としている通りもあるが、男女そろって「匂わせ」どころの話ではない。

 ある晩秋の日、代々木上原の自宅から渋谷神南の事務所まで自転車通勤していたときのこと。NHK西門のあたりのイチョウ並木を通ると、大量の落ち葉に昨夜降った雨が混ざって濡れていた。
  車道から歩道に移るため段差で自転車のハンドルを切った途端、タイヤがイチョウの落ち葉でずるっと滑った。派手に転倒して厚手のパンツ越しにヒザを少し擦りむいたのだ。油断ならない。
  バナナの皮を踏むと本当に滑るのか、若い頃に実験したことがあるのだが、水分を含んだイチョウの葉の滑りやすさもバナナの皮とほぼ同レベルだ。どちらにも気をつけよう。

 じゃ、次!「ば」


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