10.プードル →
何年か前、古いオーブンレンジの操作パネルが押せなくなった。少し前からあやしかったのは、特に多用する、温め機能を指定する部分だ。
[0分0秒]が凹んだまま、これ以上押せない状態。仕方ないので[自動あたため]+指定時間をセットしたキッチンタイマーの同時押し、という荒技を繰り出してだましだまし使っていたところ、とうとうこっちも凹んで戻らなくなってしまった。
壊れた家電を分解して基板を撮ったり取っておいたりするのが趣味なので、捨てる前に開いたら見事に金属疲労していた。
初めて一人暮らしをするときにアキハバラで購入した電子レンジ。どのくらいの古さかというと、パナソニックがまだナショナルだった時代のものだ。
20年ぶりに新調したオーブンレンジは、シルバーで四角くてカッコイイのが決め手となったバルミューダ。それほど凝ったものを作るわけではないので、見目麗しく、適当に温まって、ピザやキッシュが焼ければ良い。
ところが甘党の故ウチノヒトから生前、リクエストされたのは
「おお、あなたっぽいレンジでカッコイイじゃないか。おいしいものができそうですね♪ ケーキなんかも焼けるのかい? もし気が向いたらでいいんだけど……(期待の眼差し)」
お菓子作りは面倒だと思う。故人の好物、レアチーズケーキとホットケーキは何度も作っていて慣れているが、クッキーやスポンジケーキなどは精密な計量が必要だろうし、道具も多くて、袋から絞り出したり(?)と作業も難しいイメージを持っていた。いちばんの問題は途中で味を見て調整することができない、一発勝負な点だ。
そんな理由から、生まれてこの方 敬遠してきたお菓子作り。しかし、人使いのうまさにノセられてしまったからには、作るしかあるまい。
とりあえずはレシピがないと何も始まらないので100円ショップへ。
なにゆえ100円本か。こんな無知な自分が書店に行ったところで、棚に並ぶ膨大な本に圧倒されて的確なレシピ本を選べるわけがない。
お菓子用語は恥ずかしながらほとんど存じ上げず、わかるのは「キャラメリゼ」くらい。「アラザン」を「アザラシ」に見間違えるタイプなのである。
購入した110円(税込み)レシピ本はパウンドケーキだけをフィーチャーしたもので、「少ない材料で」「簡単につくれる」とうたっている。ケーキ1種類を見開きで紹介した、総ページ数32Pほどの気楽さが気に入った。
初めての物事を知るのはわくわくする。本をペラペラめくってみると写真が多く、わかりやすい。基本をつかめば、いろんな味で応用できそうだ。計量も惣菜レベルのざっくり加減でいける。ウチの”はかり”はアメリカンな、これ↑しかないので。
パウンドケーキ型はポチったし、あと必要な材料は……
はて。プードルが、登場したな……。え? プードル!? まさか、犬の……。
いやいや、よしんば東南アジアの屋台で食べる謎肉じゃあるまいし。でも犬種はプードル限定。それもトイプードルではなくアマンドという。。。
これは、ググるしかない。
[ アマンドプードル とは ]🔍
フランス語だった。……でしょうね。
アマンドはアーモンドで、プードルは粉という意味。ああ、たしかにスペルを見れば似ているのでなんとなくわかる。
仏:アマンド=Amande
英:アーモンド=Almond
仏:プードル=Poudre
英:パウダー=Powder
うむ、納得。
製菓用品のコーナーに行ってみると「ナッツパウダー」のくくりがあった。アーモンドパウダーは皮付き、皮なし、ロースト各種。その他にはピスタチオプードル、くるみパウダーも揃っている。
それからというもの、凝り性の私はココアを使ったもの、オレンジを入れたものなどを焼いた。また、分量のバランスを変えたりと各種パウンドケーキの研究にいそしんだのである。
話は変わるが、かつて私はネコを迎えるために「愛玩動物飼養管理士」の1級を取得した。国家資格ではない。ペットを飼うために絶対必要なものでもない。
愛玩動物全般(イヌやネコ、鳥類など)いわゆるペットの生態、育て方や関連する法律をひと通り学ぶもので、ペット関連の業界にいるなら持っていても良いかもしれないが、あまり実用的とは言えない。
当のネコが2つとも他界した今、引き出しの肥やしにしかなっていないが、そんなものを持ち腐れていながら犬についてもあまり詳しくないので、間違い御免で先へ進むことにする。
なじみのあるプードルといえばトイプードルだろう。もこもこ、ちょこまか散歩している姿をよく見るが、プードルはサイズ(体高)によって6つの呼び名があるそうだ。「そうめん」と「ひやむぎ」と「うどん」の違いみたいな。
もともとプードルは水鳥猟の回収犬として活躍していて、ドイツ語で「泳ぎ上手」や「水たまり」を意味する「Pudel(プデル)」が名前の由来とされている。その後、16 世紀にフランスへ渡り、小型化したのが「フレンチ・プードル」だそうだ。粉にするのが得意なフランス(粉ではない)。
トイプードルを標準のプードルだと思っていた私が初めてスタンダード・プードルを見たのは、犬OKカフェのオープンエア席であった。
遊歩道をぶらぶらしていたら遠目にカフェが見えてきて、その店先の床にはプードルが長々と伏せていた。
遠目にプードルだと判っているのだが、「え、プードル!? でか!!」と二度見、三度見しているうちに椅子やテーブルの比率まで錯覚する始末。25分の1のスケールで造られた世界遺産のある、東武ワールドスクウェアかと思った。
話には聞いていたが、これが元祖(?)プードルか。近くで見てリアルで腰を抜かしそうになった。ますます脳の処理が追いつかない。混乱してラクダかと思うほどだ(ラクダの体高は標準2m)。
ペットは小さいほうがかわいいと思うニンゲンの都合で悪気もなく、犬種をいろいろ交配し回し、小さいものやヘンなものが作られることもある。
最近では実際にクローンが作られていたり、北極のそり犬として最古といわれる大型犬のアラスカン・マラミュートと、小型犬で知られるチワワのミックスが一部 界隈で作られ、もてはやされていると聞いた。
喜んで飼うヒトたちがいるからなのだが、体高60cmの犬と体高20cmの犬、その差がありすぎだ。無理のある交配の話を聞いたとき、ヒトに対する怒りと動物への悲しみが同時に湧き上がった。
感情的な話だけではなく、双方のカラダの大きさが違うとどうなるか。現状は交尾ができたとしても、世代を重ねれば重ねるほど子のサイズが大きい種に戻っていく(先祖返りする)らしい。そのため、何代目かになったとき、母体が小型犬であった場合は出産できずに母子ともに死亡するおそれがあるのだ。
これは神の領域にふれることだと思う。ニンゲンのエゴだけで生き物の命を無秩序に、もてあそぶようなことはやってはいけない。
珍獣としてありがたがるヒトがいてニーズがあるからといって、作るほうはおカネになるからといって安易に供給していいことではない。激おこ!
いじくりまわされて、どんどん小さくされたら遺伝子はプードルプードル(粉々)。ティーカッププードルに飽き足らず、ナノプードルでも作って顕微鏡で愛でるつもりか!? そんなに小さいのが好きならミジンコを飼え!
じゃ、次!「る」