見出し画像

13.ボウリング →

 「将来なりたいもの」の一つがプロボウラーだった。気が多いため、「なりたいもの」は他にもたくさんあった。

 初めて「あれやりたい♡」となったのは幼稚園の年少頃、近所で見かけたゴミ屋さん(ごみ収集作業員)だ。そのヒトは収集場所を少しずつ移動していくパッカー車の後ろ、つまりパッカーと開いてゴミを入れていく部分の端っこに片足で乗っかって次の場所へ(ラクしながら)移動していたのだ。その姿がカッコよくて、オサナゴコロにグッと来たのである。
 あとは郵便配達、魔法使い。中学校時代になると天文学者、考古学者、科学者など学者関係に憧れるが、数学と英語がめっぽう苦手なため、秒であきらめた。他には物書きや占い師、フーゾク嬢、バーテンダーにもなりたいと思っていて、このあたりはおかげさまで曲がりなりにも叶っている。

 やってみたい職が多すぎるあまり「材木屋」と言われ、勝手に就職させるな、と思いつつ、「そうだ! 役者を目指したら全部の役ができるのでは」とも考えた。考えただけ。
 その後、社会現象になったテクノポップの影響でレコーディング・エンジニアを目指して、まじめにそっち系の専門学校を選んだものの、なぜか写植のオペレーターをやりたくなり、印刷所の門を叩く。本当に気が多い。

 プロボウラーになりたかったのはボウリングにハマっていた高校時代だが、初めてのプレーは幼稚園のイベントだった。

 ボウリングが日本に入ってきたのは江戸時代(文久元年)と言われている。その後ずいぶん経ってから一般に普及していき、1970年前後に須田開代子と中山律子の登場によって一大ブームが到来。

 ちょうどその頃、幼稚園の卒園イベントとして、親子ペアでのボウリング大会が行われた。
 「チキチキ!親子でッ ボウリングッ たいっかい〜!!」(CVイメージ:ハマちゃん)\ぱふぱふ/
 このイベントでは、たしか三等以内に入って、なにやら賞品をいただいた覚えがある。これに気を良くしたせいか、以降の人生「わし、ボウリングだいすき!」となったのかもしれない。逆トラウマか。

 アルバイトを資金源に、自由に遊べるおカネを持つようになると、友人たちとあちこち出かけた先でボウリング場を見つけては必ず何ゲームかやってみていた。そのうち、投げ方をはじめ、ふだんよく行くところの何番レーンはこの時間帯はつるつるだとか、ハウスボールにクセがあることなどがわかる。そして集中力のコントロールもできるようになっていった。
 こうして毎回、新しい発見があるので俄然おもしろくなってきた。本を買って研究したり、とうとう学校帰りに一人でボウリング場へ立ち寄るまでになる。もう少し懐に余裕があればマイシューズ、マイボールを作りたかった。凝り性なのである。

 なお、私がボウリングでいちばん好きなのは、気持ちよくストライクを出したときでも、スプリット(離れているピン)を取れたときでもない。もちろんそれも嬉しいことなのだが、いちばん好きと言えるのはアプローチ・エリアに立つ前、ボールを持った後にボールリターンの端っこにあるハンドドライヤーから出る風に、自分の指と手のひらを当てているときなのである。
 手指の汗を飛ばす目的ではあるが、同時に気持ちがリセットされ、タバコを一服するリズムのような「間(ま)」を置けるのがなんとも快適なのだ。

 ある日、行きつけのボウリング場の壁に「プロボウラー養成」のポスターが貼られていた。前から貼ってあったのかもしれないが、自分の意識がそっち方面へ向いて目にとまったのだろう。
 力強いプロの写真に、夢があってカッコいいキャッチコピーがスピード感を持たせた書体でズバッと印刷してあり心惹かれる。しかし、厳しく長い修行をがんばれるかどうかが問題だ。私はプライドが高く、自己肯定感が低い。ヒトにモノを教わるのが得意ではなかった。
 もしプロテストに合格しても、賞金を獲得できるほどうまくならないかもしれない。その前にカラダを壊したり、飽きてしまう可能性もある。そこまでしてなりたいか、というと、そうでもない。わざわざ厳しい世界に飛び込まなくても……。
 プロボウラーへの道を自ら閉ざしたが、趣味を本格的にやるというスタンスがちょうど良いだろう。それなら厳しい師匠もいないし、自分のペースで好きなように楽しめる。ツラい思いをして嫌いになることもなさそうだ。

 あるとき、先述の印刷所で忘年会が行われることになった。40〜50人ほどの小さな会社だったので部署ごとではなく、全社を挙げての「忘年ボウリング大会!」であった。
 女子社員には、女性というだけでハンディがいくつかもらえていた。私も一応、女子社員なのでハンディ付きだ。アマチュアだから申告しなくてもいいだろう、と気にしないでプレーしていたが、集計時のスコアにハンディを足したら、なんと優勝になってしまった。やべぇ。

 「おーまーえー、ボウリングやってただろぉ」
 「えへへ。少し」
 「少しどころじゃねぇだろぉ、この」
 「最高スコア213出したことあります(小声で)」
 「おいおい、先に言えよ〜」

 みんなして「笑いながら怒る人」になっていたが、一等賞の金一封で飲みに行くということで勘弁してもらった。

 そんなワケで、ボウリングには殊の外 思い入れがあるため「ボーリング」という表記を見ると発狂しそうになる。それもいわゆるブロガー的な立場のヒトが書いていたりすると大爆発なのである。おまえはミスタードリラーか! ホリ・ススムと呼んでやるわ!
 いっとき、Twitterのプロフィールで

「ボウリング」を「ボーリング」と書くな!

と怒っていたこともある。

じゃ、次!「ぐ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?