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18.痛打 →

 ヘッダー画像は某スーパーにいる豚の置物である。食料品を買いに行ってこの尻を見ても購買意欲には影響しないが、したたかに打ち据えたいスパンキング欲が湧いてきてしまう。

 私は精神的なものも肉体的にも、受ける苦痛は一生できるだけ避けて通りたいほうだが、わざわざそれを求めるヒトもいる。しかもおカネを払ってまで。世の中にはいろんなヒトがいるものだ。
 そんな特殊なニンゲンも苦痛だけが好きなわけではなく、たとえば自分が仕える女王様(あるいはご主人さま)から与えられる無理難題のようなものを受け止めたいのであって、それを乗り越えた先にある何か、達成感なのか解放感なのか、命令をこなせるか否かもわからないが、本音としてはご褒美的なものを渇望しているのだろうと思う。

 そうした歪んだ痛みとは別に、日常生活を送るうえで偶然や不注意による自打球的なものがときどき発生してしまうことがある。肉体的なものに限れば、有名どころではタンスの角に足の指をぶつけるとか、自分で閉めたドアに指を挟むなどが典型的だろう。

 生まれて初めての痛打は3歳くらいの頃だった(らしい)。大好きな伯母がウチに遊びに来たのが嬉しくて犬のようにはしゃぎ、家の中をかけずり回って何周かしたところ、畳の順目で足を滑らせておでこをタンスにゴン。不注意によるスライディングである。そこでようやく動きが止まったのだとか。
 ぶつけて切ったのは左眉の中で、ものすごい大出血だったという。当の本人は、まぁ、そのぉ、記憶にないのであります。
 目の近くを強打して流血したため、大人たちは失明を危惧。さらに女児だから「顔は(跡が残ると)ヤバイよ」もあって、慌てて押さえたり冷やしたりで止血してくれた。おかげで大事には至らなかったが、Y字に刻まれた傷跡には未だ毛が生えてこない。
 ときおり、チョイ悪ストリート小僧たちが眉毛にラインを刻んでいるのを見かけると、若気の至りによる天然のアートメイクを施した私は一方的に「だいたいトモダチ」と思ったり、こちとら手がかからなくて良かったわい、と思ったりする。デザインが変更できないのはデメリットか。

 いちばん新しい痛打は約9年前。その頃、原因不明の微熱が2、3ヶ月続いて全身がだるく、だいぶ朦朧としているときだったのでこまかい状況は忘れたが、洗面所でガラガラうがいをして水を吐き出すときに目測を誤り、というより空間認識能力の低下によって、洗面台の前壁に設置してある陶器の棚(下の画像、赤矢印部分)におでこをガツンッとやってしまったのだ。
 想像してみてほしい。真上を向いた うがいのあと、頭を真下に向ける勢いを。ぼけたパートナーでさえ、そんなことはやらかさなかったのに。

ウチの洗面台ではないが、位置関係の参考として
(画像引用:東京R不動産)

 その後まもなく入院してシラミツブシに検査をしたら、発熱の原因はサイトメガロウイルス感染症。症状も検査も人生の中でイチニを争うくらいのキツさだった。
 
 サイトメガロウイルスというのはそこら中にあるもので免疫力が低下していなければ脅威ではないが、私のように指定難病の治療のため長年にわたり免疫抑制剤を何種類か投与しているカラダの場合、免疫の数値が下がったときにウィルスが体内に侵入しているとアウトとなる。
 感染源は歯科治療での器具だったもよう。肺や脊髄なら致命的になる場合があるが、口の中だけ(かなりひどい難治性口内炎)で済んでまだ良かった。なお、担当歯科医は難病科のエライ人からこっぴどく叱られたとか。

 そして今度は昨春、原因不明の急性硬膜下血腫で救急搬送される。救急外来では「最近、どこかに頭をぶつけた記憶は?」と、警察の尋問のように何度も繰り返し聞かれたが残念ながら思い当たらなかった。
 出血元は額(ひたい)の内側と聞いて、さらにX線画像も見て、まさか8年前のアレが今になって内出血して後頭部へ広がっている!? なんてことはないのだろうが、あまりに時間がかかりすぎた伏線回収だとしたら、当時ネタを仕込んだ自分に拍手を贈りたい。これぞまさに命を削っての執筆だが、二度と御免だ。

 じゃ、次!「だ」


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