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『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』 プレイ後感想(ネタバレあり)

本当はふせったーに書こうと思ったんだけど、結構長くなってしまったので、ここに。
しっかりネタバレしているので、プレイ中、もしくはこれからプレイする予定の方は後で見に来てください。


以下、ネタバレ防止の余白。






以下、本文


刑事が自殺死体に紙袋をかぶせて殺人を装ったというメインの真相は体験版の段階で想像できてしまい、そのあと第二の被害者が現れなかったり、ネクタイと遺書っぽい封筒が出てきたりと、「どうやら予想通りっぽいな」と読めてしまったことが少し残念だったんだけど、それでも最終章の展開には唖然とした。真相が明かされる急展開具合もさることながら、「そいつを殺っちまったのか……」という脱力感が個人的には大きい。

というのも、その少し前から、失踪前のミノルを雇って子供のようにかわいがっていた整備工場の夫婦が登場し、いままで得体の知れない有力容疑者の一人として描写されていたミノルが、いかにそのイメージとかけ離れた良い青年だったかを主人公とプレイヤーに刷り込ませてくるからだ。心やさしい夫婦はミノルが殺人犯ではないと硬く信じ、主人公に犯人扱いされたときは「あんたを信用できる人だと思っていたのに。俺には人を見る目がないんだな」と激昂までする。そして最終的に主人公は夫婦と和解し、ミノルを見つけたときは真っ先に連絡すると熱い約束を交わすのだ。かつてのファミコン探偵倶楽部をやっていると、「なるほど。終盤にきてこの展開となると、おそらくこれから他の犯人が浮上してきて、最終的には疑いも晴れて再会。爽やかな感動のエンディングなのだろう」と想像してしまう。

ところがさほど間を置かずにぬるっと次の章に入り、それが最終章と宣言される。まずここで「えっ、このタイミングで?」となる。そしてついにミノルが主人公の前に現れるのだが、それは血塗れの刑事のそばで頭を鉈で勝ち割られた死体の姿だ。そして誰もが思う。

「とてもじゃないけど、あの夫婦には報告できない」

いや、死体の顔が画面に映っていない。まだミノルではないという可能性も捨てきれない。そんな淡い期待を抱くも、すぐに話の流れはミノルに間違いないという展開になる。つまり十八年前の連続殺人の犯人は直球ど真ん中ストレートでミノルであり、今また刑事を襲い、その返り討ちにあって死んだのだ。

このやるせなさといったらない。あの優しい夫婦の人を見る目は本当に役立たずだったことになってしまうからだ。結局、彼らは人が良すぎるあまり、他人の外面だけを見てその人を理解した気になり、本質には何も気づかずに過ごしていた。そしてその盲信のあまり、ミノルを容疑者の一人として扱う警察に情報提供をしぶり、結果的にさらなる犠牲者を出したうえに未解決事件になる一端を担ってしまったのだ。この辛辣さ。

そしてその後のエピローグが後味の悪さに拍車をかける。誘拐された兄を見つけたいという欲望にかられて、たまたま見つけた中学生の自殺死体に紙袋をかぶせて捜査を攪乱した久世刑事が、大したお咎めもなかったのか自主退職したという手紙を送ってくる。兄も見つかり、部下と結婚して、新しい家族ができて良かった良かったのハッピーエンドだという。
無論、久世刑事も十八年前の事件の被害者であり、その不幸な過去は同情できるものではあるが、今回の彼女の偽装行為でどれだけの捜査官、教職員、生徒、保護者、近隣住民、ひいては世間にネガティブな影響を及ぼしたかを考えると、あまりにも能天気な結末に思える。特に死の直前にケンカをしたことを後悔していた同級生のめぐみは、実は他殺ではなく自分の言葉が直接のきっかけで自殺していたという事実を改めて突きつけられるわけで、間接的にかなり残酷なことをしていると私は思ってしまう。いったいどういう気持ちでめぐみの尋問していたのか。

公務員の立場で偽装に手を染めたが、誘拐された兄が生きていたことがわかり、再会し、そして幸福を手にした久世刑事。
人を信じて実直に生きているが、探していた家族は殺人鬼だと判明し、惨殺死体として発見された轟夫妻。

優しくて真面目な人に幸福が訪れるわけではないというこの残酷な対比を怒涛の急展開で突きつけられてしまうという点が、私が最終章で最も唖然とした理由だ。

ここで誤解してほしくないのは、私はこの展開がお粗末と言っているのでないということだこのようなシビアな視点を提示してくるシリーズだと思っていなかったため意表を突かれてしまったのだ。

ちなみに轟夫妻に真相を報告するシーンは描かれていない。そこまでやると、あまりに後味が悪すぎると思ったのかもしれない。個人的にも悪趣味がすぎると思うし、それで正解だと思う。どうせ各自で勝手に想像してしまうしね……。

クリア後に現れる隠しシナリオ『ミノル』についても触れておこう。
笑み男本編については、「プロモーションではホラー要素たっぷりの感じだったのに、遊んでみると『PART2うしろに立つ少女』よりもホラー感がかなり薄いな~」と思っていたが、ここにきて一気にホラー展開になる。それもPART2のオカルトチックな感じではなく、いわゆる『黒い家』のようなサイコパス系のヒトコワホラーである。
空木探偵が調査したミノルの生涯が語られるのだが、その前に「ここから先は凄惨でしんどいから心の準備ができたら進めてね」というような警告が出るのが面白いなと思った。そして実際のところ、本当にしんどい。語られるミノルの過去があまりにも重く、暗く、容赦がないのだ。黒い任天堂というネットスラングがあるが、それが示す類のソフトの中でもこれは上位ではないだろうか。私は寝る前にプレイしたのだが一気にメンタルを持っていかれてしまい、眠れなくなるのではないかと不安になったほどだ(実際はプレイ疲れで五分と経たずに夢の中にいた)。

正直な話、ストーリーにツッコミどころは多々ある。むしろ多いと言ってもいい。
直してほしいところもある。その最たるものは――同様の意見をたくさん見かけるが――隠しシナリオが中盤からアニメーションになる点だ。金もかかっており、確かに贅沢だが、「そこを本編で調査したかったのに!」とどうしても思ってしまう。なんとか空木探偵パートとして展開できなかったかなぁ(でもアニメ自体はとても良かった)。
しかしそれでもこのソフトを支持したい気持ちになるのは、ファミコン探偵倶楽部という物語の箱の広さをグッと押し広げた一本に感じるからだ。次はこの広さでさらにみっちり詰まった作品を読んでみたい。任天堂の偉い人、続編をよろしくお願いします。


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