ブルーライトの女
付き合っていたのか、いなかったのかよくわからない関係の男の話。
彼は私より十歳年上で、自分がさほど若くない年齢だったので、そこから十も上となると、逆に随分と年上に感じた。
私は年上が好きだ。
よほどの性格でなければ、年下、ということで無条件に甘やかせてくれるから。自分が大してズバ抜けた容姿でなくても「可愛い」と言って私の自尊心を高めてくれるから。経済的にも大体、余裕があるから。
何より、女性の扱いがうまいから。
相手にとっても、私が得だ、と思うように、年下の相手というのは都合が良いんだと思う。
年の功である経験と経済力で、優位に立ち易い。もし、ちょっと口が立つ相手であっても、大目にみれる。逆にある程度の容姿は年齢だから仕方ないと大目にみてもらえる。
そして何より自分の年代より歳の若い女の子、というフレッシュさ。
男であれ女であれ、同年代であれば厳しくなるジャッジが、年齢という距離で緩くなる傾向にある。
とにかく、私と彼は利害が一致したWin-Winな関係、ということだ。
彼はこまめに連絡をくれて、週末にはいつも違うお店に連れってくれた。珍しい食べ物や、普段食べれない高級食材とか、とにかく美味しい物を食べさせてくれた。
その席で色んなお喋りをしたけど、彼から出る話題は大体、
「”元彼女”が・・・」の話。
しかも、その”モトカノ”はどうやらどれも同一人物。
(どんだけその元カノエピソードあるんだよ)と思いつつも、「可愛い可愛い」と必ず自分をいっぱい褒めてくれるから、悪い気はしなかった。
そんな彼が、たまに不思議なことを言うことがあった。
一番最初に言われて記憶に残っているのが、
「クリスマスはイヴも両方、仕事で一緒には過ごせないから」
というもの。
関係が始まったのが夏の終わりで、まだまだ先の話なのに突然「仕事だから毎年、絶対に無理」って・・・毎年?絶対?
でもその時は、「仕事なら仕方ないね」ってぐらいでしか受け止めてなかった。お互い社会人なら、イベント当日に予定を合わせるって難しさはわかっているし、だから当日にこだわる必要もないと思っていたから。
一聴しただけではさほど気にもならないことがちょこちょこあった。けど、細かいことは忘れてしまった。
でも、次に覚えている言葉は、忘れられない。
「俺、ブルーライトで寝れなくなるから、夜11時以降は携帯見ないから」
って。この時も、年上と付き合うことが多かった私は、甘えるのと同時に、年上の彼に負担をかけないよう察することも慣れていたので、(ああ、それ以降に連絡してくるなってことね)と素直に受け止め、「わかった」とだけ返事をした。
ただ、(あー歳だから影響受けちゃうんだ)なんてちょっとディスるぐらいにしか思ってなかった。
だって、連絡の返信は必ずくれていたから、返せないよって意味で言ってくれてるとさえ思っていたから。
私は良い子で、彼の言うことをずっと守っていた。
いつも良い気分にさせてくれるから、あまり気にしなかった・・・というのは嘘で、見ないフリをしていたんだよな。
そうしている間、私たちの関係はうまくいってた・・・と思わされていたんだよね。
―本当のことは、実は知らない。
けど、
彼の”元彼女”は、きっと”元”じゃない。
じゃなきゃ、あこまで次から次へと話題が出てくるわけがない。きっと日々更新されていっているネタを、”過去形”で話されていただけってこと。
イベントは”モトカノ”というあだ名のついた”本命”と過ごす、から無理だったんだってこと。
防ぎたいのはブルーライトじゃなく、私。
目に入るライトの悪影響を防ぐ為じゃなく、私が彼のプライベート空間(時間)に入って来ないように防いでたんだってこと。
もしかして”元”じゃない”元彼女”さんと同棲していたのかもしれない。
・・・もしかしたら、結婚していたのかもしれない。
そう、事実は分からないけど、大まかなことは当たっているに違いない。
私たちの関係は終わった。
彼がもし、私を何かに例えるとしたら・・・私なんかよりもずっと昭和臭い年齢の人だから、付けるあだ名もきっと古臭いに違いない。
まぁ相手をディスってるのか、自分をディスってるのか分からなくなるけど、そうだな・・・歌謡曲のタイトルみたいな、、、そう、
”ブルーライトの女。”
それが彼にとっての私、だった。