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短編小説:『君が見た光』

まえがき

光――それは誰もが当たり前のように感じるものですが、その本質を意識することは少ないかもしれません。この物語『君が見た光』では、主人公たちが「光」という象徴を通じて、自分自身や他者とのつながりを見つめ直していきます。

人が放つ「光」は、笑顔や優しさ、温もりといった形で表れることがあります。それを感じられるかどうかは、自分の心の在り方次第なのかもしれません。この物語を通して、あなた自身の中にある「光」を再発見するきっかけになれば幸いです。

心に灯る小さな光が、あなたの人生を照らしてくれますように。


1. 幼き日の記憶

「光が見えるの?」

小学生の頃、翔太が初めて千尋にそう言ったとき、彼女は驚いたように目を丸くした。そしてすぐに笑って答えた。

「うん、見えるよ。色んなところにね。」

翔太にはその意味がさっぱりわからなかった。「光なんて普通に見えるだろ?」と言うと、千尋は首を振った。

「違うの。私の見える光は、みんなの気持ちが形になったみたいなもの。嬉しいときは金色、悲しいときは青っぽいの。」

その説明を聞いても、翔太は「ふーん」としか返せなかった。けれど、それが彼女の「特別な力」であることを、なんとなく感じていた。


2. 二人の再会

時は流れ、二人は大人になった。翔太は東京で仕事に追われる日々を過ごし、地元にはほとんど帰らなくなっていた。そんな中、母親から届いた一通の手紙が、翔太を実家へと引き戻した。

「千尋ちゃん、最近元気ないみたいだよ。」

彼女は、翔太が幼い頃から一緒に遊んでいた幼馴染だ。彼女の家は実家の近所にあり、翔太の母とは家族ぐるみの付き合いが続いていた。久しぶりに地元に戻った翔太は、千尋の家を訪ねることにした。

インターホンを鳴らすと、少し疲れた表情の千尋が出てきた。彼女は以前と変わらない優しい笑顔を見せたが、その目には何か沈んだ光が宿っているように見えた。


3. 消えた光

「最近、光が見えなくなったの。」

喫茶店で話すうちに、千尋はぽつりと漏らした。幼い頃から「光」が見えると言っていた彼女は、それを頼りに人の気持ちを察し、周りを幸せにしてきた。けれど、ここ数年、自分の中のその光が徐々に消えつつあることを感じているのだと言う。

「光が見えないと、誰かの気持ちを分かってあげられない気がして怖い。だから最近、あんまり人に会いたくないんだ。」

千尋の言葉に、翔太はどう答えるべきか迷った。彼女の特別な力を翔太は信じていたし、それが彼女の心の拠り所だったことも知っていた。


4. 翔太の提案

「俺と少し散歩しないか?」

翔太は思いつきでそう提案した。千尋は少し戸惑いながらも頷いた。二人で幼い頃によく遊んだ川沿いの道を歩く。夕陽が川面に反射して輝き、周囲がオレンジ色に染まる。

「昔、この道で走り回ってたよな。」
翔太の言葉に、千尋は少し笑みを浮かべた。

「覚えてる。翔太が転んで川に落ちたことも。」
「おい、それは言うなよ。」

二人の会話は自然と昔話に花を咲かせた。千尋の表情は少しずつ柔らかくなり、その瞳にも微かに光が戻ってきたように見えた。


5. 光の正体

日が沈み、夜になった。星が輝く空を見上げながら、千尋が小さな声で呟いた。

「光って、私が勝手に作ってたのかもしれない。」

「どういうことだ?」

「誰かの笑顔を見たり、優しい言葉を聞いたりすると、私の心が勝手にその人の気持ちを光に変えてたんだと思う。でも、私が元気をなくしたら、その光も消えちゃった。」

翔太は立ち止まり、千尋を真っ直ぐ見つめた。

「それなら、また作ればいいさ。お前の光はお前自身が作るもんだろ?」
その言葉に、千尋は目を丸くした。そして、涙を浮かべながら微笑んだ。

「ありがとう、翔太。君の光、ちゃんと見えたよ。」


6. 新しい一歩

その日を境に、千尋は少しずつ外に出るようになった。彼女の笑顔が周りを照らし、光を取り戻していく様子を、翔太はそばで見守り続けた。

そして彼自身もまた、千尋の存在が自分の光になっていることを改めて実感した。

「君が見た光は、きっとみんなの中にもあるんだよな。」
翔太はそう呟きながら、千尋と並んで歩く道を、これからも一緒に進んでいくと心に決めた。


−完−



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