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短編小説:『気づけば40歳』

まえがき

40歳という節目に、私たちは過去を振り返り、未来を見据え、時にはその狭間で立ち止まります。若い頃に抱いた夢や希望は、日々の忙しさの中で薄れてしまうことがありますが、それでも心のどこかに燻り続けるものです。

短編小説『気づけば40歳』は、日々の仕事に追われ、自分の夢を忘れかけていた主人公が、過去の記憶や出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す物語です。この物語を通して、どんな年齢でも遅すぎることはないというメッセージが、読者の心に届けば幸いです。

40歳という年齢は、終わりではなく、まだまだ未来へのスタート地点になり得る。そのことを感じ取っていただけたら嬉しいです。


1. 忙しさの中で消えた時間

「もう40歳なのか……」

陽介は朝の洗面所で鏡を見つめながら、深くため息をついた。目元の小じわ、くすんだ肌、ところどころ白髪が混じる髪。20代の頃に抱いていた「40歳の自分」は、もっと成功していて、もっと輝いているはずだった。

振り返れば、30代は目の前の仕事に追われるばかりだった。小さな広告代理店で営業として働き、ノルマに追われ、クライアントの無理難題に対応する日々。気づけば友人との飲み会や趣味の時間も減り、休日はただ疲れを癒すだけの時間になっていた。

「こんなはずじゃなかったのに……」


2. 昔の夢と今の現実

20代の頃、陽介には大きな夢があった。独立して、自分の広告会社を立ち上げること。創造力を武器に、世界にインパクトを与える仕事をすること。

だけど、現実はそんなに甘くなかった。夢を語る時間があれば、目の前のタスクを片付ける方が大事だった。気づけば、自分の夢を「現実的ではない」と心の奥底にしまい込み、安定した収入のために働き続けていた。

その結果がこれだ。40歳の誕生日を迎えた今、手元には安定した給料と多少の貯金があるものの、心にはぽっかりと空いた穴が残っていた。


3. 思い出の中の彼女

仕事の帰り道、陽介はふと立ち寄ったカフェで、一人の女性を見かけた。柔らかい髪、清楚な雰囲気。目が合った瞬間、陽介は驚いた。

「……美咲?」

それは大学時代の彼女、美咲だった。10年以上会っていなかったが、彼女は当時のままの面影を残していた。少し驚いたような顔をして、彼女も陽介に微笑んだ。

「久しぶり、陽介くん。」


4. 過去と向き合う時間

二人はカフェで話し込んだ。美咲は結婚しておらず、仕事で忙しい日々を送っているという。二人とも「仕事に追われる人生」という点では同じだったが、彼女にはどこか生き生きとした雰囲気があった。

「陽介くんは、昔『広告の革命家になる』って言ってたよね。あれ、どうなったの?」

その一言が、陽介の胸を強く刺した。自分が追い求めていたはずの夢を思い出し、それを放棄してきた自分を、初めて直視した。

「……結局、普通の会社員だよ。まあ、それなりに安定してるけどね。」

美咲は微笑んだまま、ただ一言こう言った。

「まだ遅くないんじゃない?」


5. 小さな決意

それから数日間、陽介は自分の人生について考え続けた。確かに、40歳という数字は若くない。しかし、まだ「遅すぎる」と言い切るには早い年齢だ。

会社に行くたび、周囲の同僚や上司を観察した。彼らはみんな、仕事に追われる生活に満足しているように見えたが、陽介にはそれが心地よいものには思えなかった。

「このままで本当にいいのか?」

その問いが、陽介の胸を締め付けた。そしてある日、彼は行動を起こした。まずは休日に、小さなフリーランスの仕事を始めてみることにした。ずっとやりたかったデザインの仕事だ。実績もスキルも足りないが、やらないよりはマシだ。


6. 気づけば新しい未来へ

半年が過ぎた頃、陽介の生活は少しずつ変わり始めていた。仕事の合間を縫って、自分のプロジェクトを進める時間を作るようになった。新しいクライアントを得て、小さな成功を積み重ねた。

その結果、仕事に対する熱意が蘇り、毎日の生活に活力が戻ってきた。40歳という年齢に怯えることなく、「今」を大切にするようになった。

ある日、美咲に連絡を取ってみた。彼女との再会が、陽介に新たな道を示してくれたのだから。

「ありがとう、美咲。君のおかげで、やっと動き出せたよ。」

電話の向こうで、美咲の優しい声が響いた。

「お互い、まだまだこれからだね。」


−完−


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