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さようなら、25

26歳が、迫っている。


25歳になった当初、とうとうアラサーと呼ばれる歳になったという事実に少しばかり辟易した記憶があり、そのインパクトはこの1年の間にも度々実感させられることとなった。10代〜20代は特に、歳を1つ重ねることに対して過敏になる傾向が強いから、誕生日が近づくにつれて、嬉しさと切なさが混じった感傷的な気持ちになってしまうのだろうけど、今年の私は、自分でも意外なほど冷静に、目前に迫る誕生日を迎えようとしている。



25という歳は私にとって、踠きに踠いた1年となった。


うつ病の診断を受けたのは、2023年8月24日。
当時、職場では喉が詰まって呼吸がしづらい感覚に陥ったり、簡単なことにも頭が働かなくなったり、冷や汗が止まらなかったり、家に帰ってもご飯がまともに食べられない、睡眠も十分にとれない、という状態が続いた。環境の変化とストレスに上手く適応することができなかった。
決して職場で過酷な労働を強いられていたわけではない。周りの人間関係に大きなトラブルがあったわけでもない。単に自分のメンタルの脆さが原因で、自分の自意識過剰が生み出したものに違いなかった。身体が回復してきた今振り返ってみても、そう思う。
そうして私は、当分の間、休職することとなった。


昔からそうだった。
小学校では、サッカー部のチームメイトやコーチの厳しさ、ピアノの発表会の本番の緊張感に度々涙を流して、逃げた。
中学校では、周りの人間から放たれる言葉や態度に悩まされ、人間不信に陥って、口数が減った。
高校では、クラスメイトの優しさを信じることができない自分が嫌になって、一時期は不登校にもなった。
大学では、アルバイトの空気感に馴染めず、1週間で辞めたバイトの後、新しく始めたバイトを3日で辞めた。
友達や先生には恵まれていたと思うし、思い出として残るような楽しい時間もたくさん経験できた。
しかし、人の視線を気にしながら生きるのが常で、自分の行動や思考、感情の中にある自分なりの正しさが、他人と違っていることの違和感に、苦しみ続けていた。自分の中にあるものと外にある世界を、たくさん疑ってきた。


休職し始めたばかりの頃は、やはりとても苦しかった。
本音を言うと、休職する前よりも精神的に辛かった。
  職場に迷惑をかけている自分。
  人と上手く関われない自分。
  些細なことも決断することができない自分。
  新しいことに怯えてばかりの自分。
  他人を妬むくせに大した努力ができない自分。
うつ病という診断を貰えて安心している自分もどこかにいて、でも、うつ病という言葉で(一般的に)イメージされる状態ほど自分は深刻でないということも分かっていて、要するにそれは甘えだと思えた。思いたくなかったけど、思えて仕方がなかった。
雑然とした部屋から出ることもできず、ただ黙々と過ぎる時間の中で、自分の心の脆さと甘さをこの上なく自覚させられた。
もう何も考えたくない。そんなふうに思っても、自分の弱さから目を背けることがどうしてもできなくて、気が狂うほど、頭と心を見つめていた。何も考えたくないのに、考えずにはいられなかった。


通院や復職支援を通して、心身共に回復してきている現在では、そういった考え方が全くなくなったわけではないけれど、自分のことを執拗に卑下することも減ったし、自分のことも他人のことも、許すことができるようになってきた。最近は、自分が諦めていた「なんとかなる」「気にしなくていい」という楽観も、少しずつ掴めてきている。自分がしんどい状況に陥ったときの心の持ち方も、25年間で初めて、少しだけ分かった気がする。きっと、社会で生き抜くために必要なこういった感覚は、困難に直面するたびに、少しずつ擦り減っていくものだと思う。ずっと楽観的でいられるわけではないことは分かっているし、誤魔化しが効かない時も来るはず。けれど、今はその可能性を想定できていることが大事で、それ自体が進歩でもある。




「どうしようもない」と「どうにでもなる」に挟まれて、「大丈夫」と「やっぱ無理」を繰り返して、「消えてしまいたい」と「まだ生きていける」を行ったり来たりした1年間。


怯えて、壊れて、苦しんで、それでも生き抜いた25の歳。


これからの人生の中で、この1年のことを思い出すときは来るのだろうか。
辛かった記憶は脳が抹消してしまうかもしれない。思い出したところで、役に立つことは何一つないかもしれない。
けれど、もし、そういう瞬間が来るのであれば、その時の私には笑っていてほしい。


さようなら、25。



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