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【2分小説】君と手を繋いで



僕は、モテない。


めちゃくちゃモテない。


彼女ができても、すぐフラれる。


努力をしてこなかったわけではない。


経済力がある男がモテると聞いて
意中の人を高級ディナーに連れていったことがある。


でも、なぜかお会計時
僕の財布を見た途端にフラれた。


グルメな男はモテると聞いて
女性を、座敷タイプの美味しい居酒屋に連れて行ったことがある。

でも、僕が靴を脱いだ瞬間に居酒屋から一目散に出ていって連絡が取れなくなった。


オシャレな男がモテると聞いて
美容院でカッコいい髪型にして
マッチングアプリで知り合った女性と
待ち合わせをしたことがある。

でも
なぜか、待ち合わせには現れず
会う前からフラれた。


世の中、みんなウソつきだらけだ。


モテるバイブルを書いてる奴も。
僕のこと好きだとか言ってくる奴も。


信用できない。


僕は、世の中に対する
文句ばかりを考えて
マッチングアプリで知り合った158人目の女性と夜の駅前で待ち合わせをしていた。


「今回の人がダメなら、僕は恋愛を諦めよう…」


そう、心の中で決めながら待っていた。


でも、1時間待っても約束した相手は現れなかった。


またもや僕はウソをつかれたようだ…


諦めて帰ることにした。


「レオナルド・ディカプリプリオさーん!!いますかー!?」


突然、僕のマッチングアプリ用のニックネームを叫ぶ女性がいた。



「あ、え、え、えーと。
ディカプリプリオは僕のことです」

たくさんの通行人がディカプリプリオこと僕をチラチラ見てきて恥ずかしかった。


「遅くなってしまい申し訳ございません!私がアイです!」


彼女は、目をギュッと閉じて
満面の笑顔で挨拶をした。


なんて素敵な笑顔なんだ…
一瞬で心を撃ち抜かれた。


僕は一通り簡単な自己紹介を終えて
早速用意していた高級オシャレデートプランを案内しようとした。


「はじめましてですけど、今日は私の行きたい所があります!
連れていってくれませんか?」


「…えええ?」


彼女の思いがけない提案によりお店の予約をキャンセルしなくてはいけなくなった。

でも、こんなに素敵な笑顔の方だ。

行きたい場所もきっと素敵な場所なのだろう。


「わかりました。

えっと、どこに行きたいのですか?」


「名前は知らないのですが…
私が案内しますので、私の手を繋いで今から言う場所に連れて行ってください!」



え?


え?



えええええ!!!?


初対面で、早速手を繋ぐなんて
アイさん!なんて大胆なんだ!


僕は、ドキドキしながら
アイさんの案内する場所へ
言われた通り手を繋いで向かった。



いったい、どんな所なんだろう…

僕はクレジットカードが万が一使えない場所でも良いようにお財布の中身を確認しておいた。









「…アイさん、行きたい場所って
本当にここでいいんですか?」



辿り着いた場所は廃駅だった。

当然、誰もいない。

真夜中だし、不気味な雰囲気だった。

なんだか恐ろしい、早く帰りたい。


「素敵な場所だと思いませんか?」

アイさんは、無邪気な笑顔で言った。


「…そ、そうですね」

僕は、アイさんの笑顔につられて
ついウソをついてしまった。


「空を見てください」

僕はアイさんに言われた通り、空を見た。

満天の星空だった。


「長い星空の旅を終えた鉄道が
今日ここにやってくるんです。

ほら!こっちに向かって走ってきました!」


アイさんが空に向かって指を指すけど
星空の旅を終えた鉄道なんて来てなかった。


「たくさんの方達が、長い旅を終えてここで満足げな顔をして降りるんです。

子どもの頃、私はそれを見るのが好きで、母とよく見に来ていました」


この廃駅に宇宙旅行を終えた人など1人もいない。いるのは僕らだけだ。


それでも、アイさんの楽しそうに話す姿が
素敵で、ただただ僕は見えてるフリをして
話を聞いていた。





それから、次の日もそのまた次の日も
アイさんと毎晩デートをした。

デート場所は毎回アイさんが案内をした。




ある日は、墓地に行った。

アイさんは、「幽霊とガイコツとゾンビがダンスをしてて楽しい」と言った。

当然、僕には何も見えなかった。



また、ある日は沼地を見に行った。

アイさんは、「カエルのお姫様と親指王子が静かに暮らしているのを見ていると私までロマンチックな気持ちになれるんです」と言った。

もちろん、実際には何もいなかった。



アイさんには、何がどのように見えているのか、正直わからなかったが
毎晩アイさんの話を聞くことが
僕にとって1日の楽しみになっていた。





ある日、アイさんが
「私の家に招待してもいいですか?」
と言った。


もちろん、答えはOKだった。
好きな人からそんなことを言われて断る男はいない。


いつも通り手を繋ぎ、アイさんが案内する所に向かった。



「…ここがアイさんの家ですか?」


「びっくりしました?私の家はお城なんですよ!」


彼女は、変わらず無邪気な笑顔で言った。


お城なんかじゃない…

ボロボロの廃ホテルだ。




「お城には、オモチャの兵隊さんが住んでるんです!」



アイさんがそう言うと
廃ホテルから見るからに悪そうな男が数人出てきた。


「アイ様、彼がディカプリプリオ様ですね?
少し、彼とお話があるので中でお待ちください」


悪そうな男がそう言って
アイさんを廃ホテルに向かわせた。


そして、男達はニヤニヤしながら僕を囲んだ。




…信じた僕がバカだった。

…やっぱり世の中ウソつきばっかだ。




「ご苦労様、アホヅラくん。
言いたいことわかるか?

金を渡せば何もしないで、帰らせてやるよ」


いつもの僕なら迷わず、財布を渡して帰る。
ただ、1つだけ聞きたいことがあった。



「アイさんは、お前らが悪者だって知ってるのか?」



「知るわけないだろ?

あのマヌケ女は生まれつき目がほとんど見えないんだ。
俺らのことをオモチャの兵隊だと思い込んでやがる。笑えるよな?

それに俺らのことを悪者だなんて失礼だなぁ?

あの女の家族が事故で死んで、身寄りが無くなったところを優しい俺らが使い道を与えてやったんだぜ。

むしろ善者だろ?」





良かった。



彼女はウソなんてついてなかったんだ。


あの不思議な世界も
僕には見えなかっただけで
彼女の目からは、本当に見えていたんだ。


恋は盲目とよく言ったものだ。
彼女の目が見えなかったことに全く気づかなかった。



「それに、あの女が目が見えねぇもんだから、気持ち悪いマッチングアプリのやり取りをやってやったり、くだらねぇデートのために毎回駅までは送ってってやったんだぜ。

感謝してほしいくらいだぜ。

まぁ、それもあの女をエサにモテないアホな金づるを連れてきてもらうためだけどな」


リーダー格の男がダルそうに言った。



「…このクズ共め、許さん。
僕がお前達の根性を叩き直してやるよ」





僕は、アイさんを助けたくて
柄にもなく思いっきりカッコつけて立ち向かった。






勝てるはずがなかった。


ボコボコに殴られた。


全身が痛かったけど、アイさんとこのままお別れをすることを考えたら
心の奥がもっと痛かった。



「おい、こいつの靴!
最新モデルのスニーカーじゃねぇか!」


僕は地面に倒されて買ったばかりのオシャレな靴を脱がされてしまった。




ちくしょう。

アイさんごめんなさい。
僕はあなたを助けだせなかった…





「うおおおおおええええ!!
こいつの足臭すぎる!!」


突然、靴を奪った数人の男が鼻を抑えてえずき始めた。


…え?僕の足ってそんなに臭いの?


なんとも気まずい空気が流れる。



「モテない男奥義!

激臭靴下スモーキング!!!」


僕は足が臭いことを指摘された恥ずかしさで、とっさに情けない技名を叫んだ。


その隙に、小銭の量が限界突破した長財布を取り出して、男達を財布で殴り付けた。


「モテない男究極奥義!

小銭パンパン長財布ブレイド!!!」


僕はまたも情けない技名を叫んだ。

そして、男達をバンバン倒していった。




すると、リーダー格の男が後ろから
バットで頭を殴りかかってきた。


バイーーン!


「モテない男超究極奥義!

もふもふアフロガード!!!」


強力な僕のアフロヘアーの弾力で
バットが跳ね返って顔面に当り男は倒れた。




「モテない男、舐めんじゃねええ!!」


僕は、全員を倒して
今度こそ本当にカッコいい決めゼリフを叫んだ。


悲しいが今まで女性達にフラれた理由で
ピンチを切り抜けられた。






悪者達が吠え面をかきながら
カッコ悪いセリフを叫びながら逃げていくのを見送った後、

フラつきながら廃ホテルに入り
アイさんを探した。






アイさんは、月明かりに照らされながら
しゃがみこんでいた。



アイさんの足は傷だらけだった。



「外の声が聞こえて来て、全てを理解しました。

急いで、助けに行きたかったけど、ごめんなさい。

私の目では辿り着けませんでした…」


アイさんに、いつもの笑顔はなかった。


「目が見えないこと黙ってて、ごめんなさい…」


悲しい声だけが廃ホテルに響いた。


「私、この前。


誰かにウソつきだって言われたんです。

人を騙してる最低女だって。


なぜそう言われたのかわかりませんでした。

目が見えないことを黙っていたことでそう言われてしまったと思っていました。

でも今日ようやくわかりました。



私はウソつきでした。最低な女でした。




お母さんとお父さんが、よく読んでくれた本の世界と私の生きる世界は全くの別物でした。



…どうか、私をお母さんとお父さんのいる世界に連れて行ってくれませんか?


私のこの目では、どこにも行けません。


このお城の屋上に連れていって落としてくれませんか…?」


アイさんは、手を震わせながら差し出して来た。




僕は、アイさんの手を力強く握った。


「確かに。

僕の汚れた目で見える世界では、あなたは大ウソつきです!


あなたの話すことは
僕からしたらデタラメばかりでした。





でも、あなたの目から見えてる世界は、とても、とても、とても美しいと思いました!


寂れた廃駅があんなに幸せが溢れる場所だなんて知りませんでした!


不気味な墓地があんなに賑やかで楽しい場所だなんて知りませんでした!


濁った沼地があんなにロマンチックな場所だなんて知りませんでした!


高級ホテルから見える夜景だとか、
高いお金を払ったオシャレな服だとか、
見えてる物だけでしか美しいものがなんなのかわからない僕にとって、全てが衝撃でした!




…そして、アイさんの美しいウソつきな世界で僕は生きていたいと思いました。



どうか、僕とこれからも

この汚れた世界から美しい世界へと案内してくれませんか?」



アイさんは、涙をぼろぼろとこぼして
いつもの笑顔で僕の手をギュッと握り返してきた。


「…はい!喜んで。


いつでも私のウソつきな世界に連れていきますね!

ディカプリプリオさん!」





「じゃあ、明日の夜はどこへ行きますか?」




「明日は、2丁目にある小学校の屋上から
オーロラと天の川が交錯するのが見えるんです!

しかも校庭ではウサギのサーカス団がパレードを開いてくれるんです!

とってもとっても楽しいんですよ!」




次の日の夜、僕たちはいつものように手を繋ぎながらボロボロに壊れ果てた廃校に向かった。


そして、いつまでもデタラメで素敵な世界を楽しんだ。









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