【エッセイ】サザエ先生ごめんなさい
~皆様、千里眼を持つ人に出会ったことはありますか?~
今回、私が言う
千里眼とは何かというと
その場にいないのに、遠くで起きた出来事を見通す能力のことです。
皆様も、そういう方と
出会ったことはありますか?
一緒に旅行に行ってない母から
「どうせあなた旅館で眠れなかったでしょ?」と聞かれて
「え!?なんでわかったの?」みたいな
やり取りをしたこととかありませんか?
そんな千里眼を持つ人のエピソードが
今回ありますので
どうか皆様聞いていただけないでしょうか?
小学生の頃です。
私の学校には
サザエ先生という
あだ名をつけられた先生がいました。
なぜ、サザエ先生かと言いますと
髪型がサザエさんみたいだったのと
よくサザエさんの歌を口ずさんでいたからです。
そんなサザエ先生が
私は、少々苦手でした。
なぜかというと
サザエ先生は、少しのことで怒ってくるからです。
ポケットに手を入れて歩いたり
ハンカチを忘れたりしたぐらいで
鬼のように怒ってきます。
だから、私は
弟にサザエ先生の愚痴を言って
通学路を歩いて帰っていました。
しかし、サザエ先生は
まるで千里眼があるかのように
サザエ先生の愚痴を言う度に
私にバチを当ててくるのです。
愚痴を言ってると
鳩のフンが頭に落ちてきたことがあったり
リコーダーをドブ板の隙間に落としたり
ランドセルが壊れて閉まらなくなったり
なぜかサザエ先生の愚痴を言う度に
悪いことが起こるのです。
人としての怖さというよりも
オカルトな怖さです。
そんなある日、
学校がお休みの日に弟と近所の神社で
虫取りをして遊んだ後、帰っていると
とんでもない腹痛に襲われました。
あまりの痛さに私は1歩も動けなくなります。
弟は、どうしようと
慌てて大人に助けを求めに行きました。
サザエ先生の家が近所にあったので
弟はサザエ先生に助けを求めました。
サザエ先生は高級車に乗って助けに来てくれました。
先生は「ウンチ?」と聞いてきました。
小学生でウンチはNGワードです。
私は痛みに耐えながら
「…わかりません」と答えました。
「病院行く?」と心配そうに先生は聞いてきましたが
私は「行かないです…家にあれば薬があるので大丈夫です…」とウソつきました。
本当は、薬ではなく
トイレに今すぐに行くことができれば腹痛から解放されます。
家まではもう歩くことはできませんが
野糞だけはしたくありません。
(過去の記事【にんげんっていいな】より)
サザエ先生は家まで送っていくと
高級車に乗せてくれて
かなり焦った感じで車を走らせてくれました。
私は、サザエ先生の愚痴を溢したことを
心の中で謝りました。
本当はサザエ先生は良い人だったんだ。
車を走らせていると
弟が「こっちの道のほうが近道です」と
私達がよく近道に使っている
舗装されていない山道を指差しました。
弟は、弟なりに兄である私のことを心配してくれたのでしょう。
でもこの道は普段
軽トラとか比較的小さめの車が通る道です。
この高級車では、車幅が
軽トラに比べると大きすぎます。
高級車がこの道を通るのは前代未聞です。
この道を切り開いた大昔の人も
まさか高級車が通れるようになどとは考えていません。
ここを通るのは無謀とも言えます。
サザエ先生は一瞬躊躇った後
私のお腹を抑える姿を見てから
ハンドルを思いっきり回して急旋回し
弟の指示した山道へとアクセルを踏んで
突き進みました。
私は、お腹が痛くて
ほぼ前を見ていなかったのですが
車内はガタガタと
ものすごい揺れを感じました。
快適さを求めた高級車が
これほど揺れることはないんじゃないかというほど、すごい勢いで揺れました。
私は揺れによって起きる
お腹への刺激にとにかく耐えていました。
チラッと弟を見ると
ロデオマシンに乗ってるかのように
体を180°揺らしていました。
突然、
ガリッ
っと嫌な音が車内に響きました。
伸びた枝に車体をひっかかれたのでしょう。
サザエ先生ごめんなさい。
私は月300円しかお小遣いをもらっていません。
傷ついた車の弁償はできません。
サザエ先生は、全く動じずに車を進ませます。
ガリガリッ
さっきより
もっと大きな音が聞こえました。
恐らくもっと大きな傷ができたことでしょう。
サザエ先生本当にごめんなさい。
私がウソをついたばかりに
こんなことになるなんて思ってもいませんでした。
やむを得ず、野糞をしますので
引き返しましょう。
サザエ先生は、
ハンドルをギューっと強く握りしめて
アクセルを踏み続けます。
サザエ先生の唇はプルプルと震えていて眉は八の字になっていました。
私よりも辛そうです…
ガリガリガリガリガガガガガー
うああああああああっ!!
先生もうやめてえええええ!!!
これ以上私のために
車を傷つけないでええええ!!!
サザエ先生は歯を食いしばって
目から血の涙が出ているんじゃないかと思えるほど複雑な顔をしていました。
サザエ先生が近道を走らせてくれたおかげで、私は漏らさずにトイレに行けました。
あとで、父と母が
先生の家に行き謝りに行きました。
サザエ先生は、
山道を通ったのは弟が指示したからとは
言わず「自分の判断でやったことですよ」と
言ってくれたそうです。
あれから大人になった今でも
日曜日にサザエさんを観るたびに
「サザエ先生あの時はありがとうございます」と拝むようにしています。