本は好きだが、読書は苦手
家に本がたくさんある。読書が好きなんですね、といわれるがそれは違う。読書は苦手だ。読むのが遅いし、すぐ飽きる。スキゾ(分裂)体質というのか、本を読んでいると連想が広がって、そっちに気が行ってしまうのだ。
じゃあ、なんで本を買うかといえば、本という物体に魅せられているからだ。本は他のメディアと違って規格が統一されていない。CDもDVDも基本的に同じ形だが、本はバラバラだ。紙質、製本、加工、装丁も加わって物体としては百花繚乱の楽しさだ。
長年、印刷に関わる仕事をしてきたので、印刷物としての本には格別の想いがある。デジタル時代に印刷はアナログというよりアナクロ(時代錯誤)かもしれない。しかし印刷の歴史は永く(木版から数えると1,300年にもなる)、その技術の多くが今も継承されている。その一端に、私たちは本を手にすることによって触れることができるのだ。本気で作り込まれた本は美術品の一種と考えていい。それを数千円で入手できる。その上、読める(本末転倒?)。重いし場所を取るけど、お気に入りの本を身近に置いて眺めるというのは悪くない趣味だと思う。
出版社でいうと、昔から晶文社や筑摩書房の本が好きだ。装丁や仕上がりのきれいな本が多いからだ。
そう思っていたら、20年くらい前に晶文社から「印刷に恋して」という本が出た。
筑摩書房で編集者をされている松田哲夫さんが、私の大好きな内澤旬子さんのイラスト付きで印刷の現場を取材した本だ。
印刷の本は専門的なものばかりだが、これは印刷の現場と印刷に対する想いが分かりやすく描かれていて貴重だし、なにより面白い。
今、印刷物をめぐる環境は厳しい。仕事をしていても印刷の質や技術を問われることがとても減った。この仕事についた頃は印刷・製版現場の方々も怖かったが、発注されるお客様も厳しい方が多くて、真っ赤に書き込まれた色校正紙を前に途方に暮れたこともあった。
これから先、印刷は減り書籍のデジタル化が進むだろう。仕事で読む本は確かにデジタルの方が楽だ。しかし、どんな形をした本もすべて同じ判型で読むことになる。精密に組み上げた割付もここでは無視される。
私の視点でいえば、本は消えて読書だけが残ったことになる。
だからkindleは仕事専用なのだが、ここに入れられる本は、本ではないと宣告したようなものだ。ちょっと悲しい。
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