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デザイン専門学校での通訳の仕事 大阪にて

先日、大阪にあるとある専門学校で通訳(日仏)の仕事をした。マンガ学科同士で交流している大阪とパリの学校がワークショップを共催し、パリから60名近い学生と先生が大阪へやってきた。

2006年に精華大学にマンガ学部が設置された時「学校でマンガを習うなんて」と衝撃をうけたが、今や海外の教育機関でもマンガやアニメを教えていると初めて知って驚いていた。
もともとフランスではベルギーのタンタンシリーズに代表されるようBD(ベーデー)と呼ばれるマンガのジャンルが浸透しているのに加え、今や日本に次ぐ世界二位のマンガ消費国(!)なのだそう。


3日間のプログラムでは日仏の学生が数人のグループに分かれ、テーマに添った戦隊モノのキャラ作りと、ヒーローが集合しているビジュアルの制作する。

マンガといえば紙とペン、なんてのは今は昔。紙とペンでの作画のことを、フランス人の先生が「クラッシックテクニック」と言っていた。学生らは下書き〜仕上げまでタブレットを用い、キャラ作りのための情報収集はもちろんネット、日仏間のコミュニケーションはアプリを使って行う。

フランス側のカリキュラムではマンガ技術だけでなく、日本語の習得も必須になっているので、レベルにばらつきはあるものの、日本人学生と日本語でやりとりする場面も。日本人学生も英語を交えて奮闘するほか、絵で説明したり、ネットの画像を見せたりして、コミュニケーションは概ね順調!


それでもアイディアが煮詰まるとか、方向性がまとまらないときは、先生の出番。学生はどこで行き詰まっているのかを先生に伝え、日仏の先生たちはアドバイスや提案を行って、生徒らのディスカッションをうながす。通訳はそのやりとりをサポートする。

どちらの学校の先生も生徒の自主性を重んじつつ、グループとしてキャラや作品に統一感を持たせるように助言する。
一年生同士の交流ということもあり、それぞれの個性を活かしたアドバイスと共に、必要に応じて作画等の手助けをする。
そうして一日、二日と時間が経つにつれ、クループのメンバー達は自然とうちとけ、教室の雰囲気も一体感が出始める。

先生は日本側から二人、フランス側から二人。どの先生も若く、自身もマンガや絵を描くのが大好きで、生徒との距離が近い。
フランス人の男性の先生が、ポケットにゲームボーイポケットを忍ばせていたので「お、ゲームボーイだね」と声をかけると、キランと目を輝かせる。「なんで持ってきたかわかる?ポケモンの緑はフランスで販売されたことがなくて、昨日難波で中古カセットをみつけたんだ」と得意げ。すると、それを聞きつけたフランスのオタク男子達が「見せて見せて」と寄ってくる。各テーブルを巡回する時は、教室の隅で見つけたスターウォーズのライトセイバーを振り回したりと、茶目っ気がたっぷり。

フランス人の先生についてテーブルを回っていると、スケバンや暴走族のキャラを描いているフランス人が何人かいて、面白かった。日本のこういう文化まで浸透しているんだ、マンガの伝播力ってすごいな、と思った。


さて、みな真面目にやっているが、お国柄か世代なのか全体的にのんびりしている。
最終日の前日、明日の朝には印刷に回せるよう本日中に仕上げておくようにとアナウンスがあったのに、翌朝教室に行ったらどのグループも全然終わっておらず、黙々と作業している。
午後からプレゼンがあるというのに、誰も慌てておらず、時間を逆算した仕上げにとりかからない(先生もあまりそこを教えない)。
当然、発表の直前は印刷室に長蛇の列ができる。時間が押してあたふたしているのは日本側の先生とスタッフのみで、本来学生が行う印刷やパネル貼りをものすごい手際のよさで代行しはじめる。フランス人は慣れない日本語でのプリンタ操作で、トラブルが続出。すると作業を早く終えた学生(日本校にいる中国やインドネシからの留学生ら)が、リーダーのようになって次々と印刷をさばいていく。アジアのパワーを見せてもらった。
辺りがせわしい雰囲気になり始めると、つられるように真面目な日本人学生たちが焦りだすのだが、当のフランス人たちはエラーがでても刷り直しになっても、涼しい顔をしている。こういう時イライラしないところが、すごくフランスらしい。

チームは十組あり、プレゼンを最後の方に回してもらった作業の終わらないチームは、延々と制作を続けている。彼らは焦らず、いらいらせず、最後まで丁寧に作業をして、最終的にすごくいい作品に仕上がった。時間を守ることは大事だけれど、それとは違う価値観(ひいてはこれからの時代の働き方や生き方なのかも)を見た気がした。

三名の通訳が交代で発表を受け持つ。他の人が担当している間に、屋上へ飲み物を買いにいくと、発表待ちのフランス人男子たちが、スマホでヒップホップをがんがんかけてタバコを吸っている。どこまでも呑気で、プレゼンの慌ただしい雰囲気に気圧されていたので、その姿にほっと和まされた。


今回通訳をしてよかったことは、それぞれの学生たちの世界観を知れたこと。技術的な面にはばらつきがあり、まだ絵が未熟な学生も、与えられた課題に対して向きあい、テーマをどうキャラクターに落とし込んだかを、プレゼンでしっかり伝えていた。絵柄だけ見て「なんだろう?」と思っていたキャラも、こんな考えで生まれたのかと、日本語、フランス語に訳しながら感心させられた。教師の側も相対評価でなく、個々のそいうった姿勢、努力を評価する。

以前も専門学校で通訳したことがあるが、学生のクリエイティブなパワーに触れられる経験は素晴らしい。3日間、短いけれど中身の詰まった充実した時間だった。



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