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Clémentine Sandnerの2020年展示によせて

フランス人デザイナー クレモンティーヌ・サンドネール 作品展
Réincarnation- Upcyclung Story by Clémentine Sandner

バッグを中心に着物をアップサイクルしたアクセサリーのブランド<Mikan>の創始者でデザイナーのクレモンティーヌ・サンドネールの、作品展のレポート。展示風景と共に展示に至った経緯、クレモンティーヌの着物やアップサイクルに対する思いなどをご紹介しています。

*記事は敬称略で執筆しています

四方有紀がクレモンティース・サンドネールの製品と出会ったのは、京都市内のとあるイベント会場だった。着物生地が使われたブラウスを手にした時、「こんな服があるのか」と衝撃を受けた。自身でも着物を着るためか、それまで高級な着物を仕立て直した洋服にあまり心を動かされたことがなかった。京都・伏見桃山にある生家の敷地内でギャラリー「同時代の茶室 La neige」を運営する彼女は、着物を始めとする日本の伝統に触れながら育った。その一方、幼少期は洋服を誂える母の元へ、生地屋や仕立て屋が出入りし、質のいい生地や縫製を間近で目にする機会にも恵まれていた。

手に取ったブラウスは、シルクのような薄い生地の、半袖のロングシャツで、黒の身ごろが途中で切り替わり、赤い花を基調とする鮮やかな着物生地が使われていた。彼女が興味を引かれたのは、単に着物の生地がリメイクで使われていたからだけではない。よく見ると、端の処理にはスポーツウェアーに用いられるようなメッシュ生地で丁寧にパイピングが施されている。腰の回りのウェストの調節するのも、アウトドアウェアのフードについているような細いコード。背中を見ると、ヨークと境の後ろ身ごろに細かいギャザーが入れられている。

「これは、単に着物生地を再利用しただけの服ではない。服の構造をきちんと理解した、洋服に造形のある人が、更に着物の生地の特性や布の美しさを理解して、作った服だ」
自分でこの服を着ることになるかどうかは分からない。でも…「着物の新しい可能性を示してくれる、この服をみなに見せてみたい」そんな思いに駆られ、その場でブラウスを購入した。それがフランス人デザイナー、クレモンティーヌ・サンドネールと出会いのきっかけだった。

3年後の2020年、四方のギャラリーでクレモンティーヌの服作りの歴史を紐解く本展示が実現する。人々の思い込みを取り払うこと、日本の伝統を積極的に発信することを指針とする四方にとって、クレモンティーヌとの出会いは喜ばしいものだった。彼女は日本の伝統である着物の生地を積極的に活用するだけでなく、日本人が無意識に抱く着物への既成概念をいとも簡単にひょいと乗り越えて、新しい見方を提示してくれる。
本展では、クレモンティーヌがキャリアをスタートさせる原点となった専門学校時代の卒業コレクションからスタートする。常にリサイクルや環境問題と結びつけて行われてきた、創作の進化の過程が紹介されている。

クレモンティーヌ・サンドネールは1990年生まれのフランス人女性デザイナー。2014年に来日し、着物生地を用いたスポーツテイストの洋服、アクセサリーの製作・販売を行っている。着物を使う外国人デザイナーとしてキャリア初期から注目されてきたが、彼女の仕事を読み解く上でもう一つ重要なのが、環境問題への意識の高さだ。卒業制作の作品が展示されたのも、ドレスを含む十着以上の生地がすべて解体した古着から手作されているからだ。

ただしこの時点での動機は環境問題ではなかった。学生時代、彼女は日常的に路上生活者の支援団体が販売する古着を購入していた。それらは二束三文で購入できた上、古い服は今日のものより生地の質がよく、作りも丁寧だった。彼女は捨てられる運命にあった、上質なカシミヤやウールを切り刻み、縫い合わせ、新たな布地を再構成した。

一年かけて制作した卒業制作は卒業後、香港で開催されたREDRESS AWARD 2013にノミネートされた。コンテストに参加したことで、彼女の意識はある重要な方向へ転換される。REDRESSはファッション産業におけるサスティナブルを普及させる団体で、量産可能なリサイクルの手法とデザインについて考えを巡らせるようになった。卒業制作は服の手法もスタイルもオート・クチュールよりだったが、リサイクルされた洋服がより多くの人に行き渡るためには、より効率的な生産システムと現代的なデザインが必要だ。また当時は今程サスティナブルが叫ばれておらず、流行や高級を至上価値とするファッション業界において「再利用」のイメージは必ずしもポジティブでなかった。単なるリサイクルでなく、デザインの付加価値を高めて「アップサイクル」しなければ。それが現在の、着物のアップサイクル・デザインへと繋がっていく。
 
フランスで学校を卒業した彼女は、若手デザイナーへ向けた一年間のプログラムに参加するため2014年に来日する。そこで再び一年かけてコレクションを製作することとなるのだが、これが着物との出会いとなる。現地ではローカルのものを調達するのが一番と考えたからだ。また香港の経験を踏まえ、デザインの方向性は今に通じるスポーツテイストへと舵が切られ、後にリサイクルされることを見越した生地や縫製で設計されるようになった。

彼女は足繁く蚤の市に通い、安価な着物生地を買って買って、買いまくった。洋の東西を問わず、もともと古いものに心惹かれる性質であったが、着物に表現された日本人の四季や自然に対する感性の細やかさや、伝統的でありながら最高にモダンな図案に、たちまち魅せられた。着るのが目的ならはじかれてしまうような、虫食いやしみも気にならなかった。ゴミ箱行きになってしまうような古びた生地こそ、自分がレスキューするのだと、使命感を燃やしていた。

若い人が着物に興味を持つだけでも珍しいのに、ましてやフランス人だ。彼女の製作は初期から人々の目をひき、ビンテージ着物を扱う呉服屋や布地の生産者などから賛同や支援の声がかかるようになる。実際、本展の会期中も一度会場を訪れた婦人が「これなら我が家の着物を託すことができる」と、両親から受継いだという着物を風呂敷包み一杯に携えて戻ってきた。そのやりとりを側で見ていると、彼女の織りや染めに関する知識に驚かされた。文化や言葉が違っても問題にならないようだ。

着物との出会い、環境問題への意識の高まり、様々な試行錯誤を経、2016年に帽子やかばんなどのアクセサリーに特化したブランド “Mikan”を立ち上げる。デザイナーとして名声を得ようとファッション界のメインストリームに近づくほど、彼女が意図する方向性からは外れてしまう。彼女はもはやシーズン毎にトレンドを反映した服を生産し続けることに興味を抱けなくなっていた。アイテムをアクセサリーに絞ったのも、衣服より流行のサイクルも製品の使用年数も長いからだ。もともとバックパックには定評があり、そこから機能性やデザインを進化させ、アイテムを増やしてきた。

ファッションが地球環境を最も汚染する産業のひとつであっても、彼女はデザイナーであり続ける。矛盾した状況の中にいるからこそ、素材の選定や縫製の手法、流通の配慮に至るまで、彼女は真摯に考え続ける。そしてそれらは手に取りたくなるような、使い勝手やデザインでなければならない。キャリアの初期から色々なところで注目されてきたが、製作にはもちろん大変な面もあった。材料の確保、デザイン、制作を一人で行い、常に時間との戦いだった。一点一点柄の異なる着物の、どこを切り取るかを慎重に選び、それに合わせる生地やパーツを組み合わせる、ほとんどオーダーメイドの作業だ。ポップアップへの出店やクリスマス時期の受注で製作が立て込むと、夜通しミシンに向かい続けた。しかし、彼女は頭で小難しく考えるより行動するタイプなのだ。「期限が迫って何を考えられず、反射的に布を選んでひたすら手を動かし続けた方が、思いもよらないいいモノができたりするものよ」重労働のピークの後で、そんな風にあっけらかんと話すのだった。

自らのブランドに並々ならぬ情熱を注ぐ彼女は、難しい状況にあっても有無を言わず、縫って縫って、縫いまくった。その結果、この一年足らずでデザインは驚くべき洗練を遂げた。バッグはサイズ感が考え抜かれ、ギャザーや切り替え等のテクニックが細部に用いり、より立体的な作りへと進化した。豪華な帯の生地を用いながらも、メッシュや廃材のシートベルト、バックル等を組み合わせ、常にスポーツテイストと両立している。
 
来日して六年、ブランドを立ち上げて四年足らず。彼女が過ごしてきた年月の濃密さと、進化の早さには驚かされる。しかしそれはファッションという、移り変わって消えて行く、嵐のような怒濤の時間に振り回されるのとは違う。彼女はこの華やかでもありやかましくもある業界に身を置きながらも、緩やかな自分の時間を生きている。その豊かな時間の中で彼女は自分にとっての最良の道を模索し、常にベストを尽くすことで、デザインの手法や態度を熟成させてきた。そしてそれが更なる製作への飛躍や人との出会いへと繋がり、また新たなステージがすぐそこまで迫っている。

私が同展で見たのはそういうものだ。ファスト産業におけるスローファッション。それこそがクレモンティーヌ・サンドネールの物作りなのだ。

Info:
フランス人デザイナー クレモンティーヌ・サンドネール作品展
Réincarnation- Upcyclung Story by Clémentine Sandner

Place:同時代の茶室 La neige
Date: 2020/02/05~2020/03/01

Mikan HP:https://www.mikanbags.com


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