【異郷日記】19/9/24 30分の運転の時空旅行
真夜中に目が覚めた。なんとなく眠れないらしい。とても眠いが、なんとなくまたスマホを見て眠くなるのを待った。
ゆっくり起きて、朝食後、エクササイズをする。ゴミ回収の準備、花びらの掃き掃除、今夜の職場でのラーメンづくりのための足りない材料を買いに行った。家人の友人の大きな四駆車を運転していく。大学在学中に運転免許を取ったはいいが、実践の機会はなかなかなかった。父の車に乗ると、必ず助手席に乗ってこちらが拒否するほど一から十まで指導してくる。母は自分の恐怖の感情を唱え続けるし事故が怖いと自分の車を差し出すのを拒否した。快く練習させてくれたのは祖父だけで、祖父のカローラで高速を運転していろんなところへ行き、県外まで行ったりした。その祖父が鬼籍に入ってからは、運転の機会はもうなかった。というより、両親の対応から、自信を無くしトラウマになって、意欲がなくなっていた。しかし、必要にかられたとはいえ、こちらでできた友人と練習し、こうして異国でこんなに大きな車を運転できるようになったことをとても誇らしく思いながら。
仕事へ行ってラーメンの仕込み。人生でラーメンスープを作ったことはない。うまくいくかわからなかったが、なんとなくまとまった。今夜は、クライアントを里親候補の家庭に家庭訪問に連れて行くので、忙しい。細かな仕事をし、ラーメンをかきこみ、バタバタと出発。
クライアントは自身と同じ出身国の家庭であることを喜んでいたが、前回の初顔合わせで、人当たりのよいリラックスしたコミュニケーションの底にある、厳格さや、出身国や宗教的背景からの家庭文化や慣習などを感じ取っていた。そして私も同じ感想を持っていた。ゲートで仕切られ、守られたストリートに建っている複数軒のうちの一つ。大歓迎で迎えられた。奥に通されると、そこはだだっ広いリビングルームで、ソファや大きな椅子が壁に沿って並べられていた。キッチンが端にあり、ダイニングテーブルはあるが、そこにある椅子は二脚。住んでいるのは10人。よく話す父親、クライアント、私、母親の順で隣に座って話すが、クライアントは一切父親の方を見ない。文化的なものなのか、個人の感情的なものなのかわからなかった。フレンドリーな世間話から始まったが、家事の分担やキッチンや調理のルールなどを質問する。母の妹と年長の姉の二人が調理を請け負っているそうで、メニューや自由な調理などの選択肢はあまりないようだ。家事は男子は免除、女子が順番に行っているそうだ。食後の食器洗いは一週間ごとに交代で、7日間連続でするのだと言う。その後三週間は休めるのだそうだ。大人数で住んでいるだけあり、かなり家族のルールが細かいようだ。
ご飯が炊けるのを時間がかかると言って、かなり長い間待っていた。その間、テレビに映し出された家族の出身国の音楽が流れていた。なぜかみんな100%ジーザスというTシャツを着ていて、教会のものなのかわからないが、すごく不思議だった。夕食ができた時には結局8時をまわっていた。夕食は鶏肉の煮込み、山羊肉の煮込み、豆の煮込み、野菜の煮込み、ごはんだった。見た目はごはん以外すべて茶色だった。味は意外と言ったら失礼だが美味しかった。しかし、すでに寿司、ラーメン、タコスなど現地に加えインターナショナルなメニューを楽しんでいるクライアントにはすでにきつそうだった。しかも、夕食は各自セルフでよそい、だだっ広いリビングのソファ、椅子、ダイニングテーブルの椅子、キッチンのカウンターバーの椅子、とてんでバラバラだった。夕食は団欒の場所はなかった。だだっ広い空間にぽんと投げ出され、どこか心許なく漂流する気持ちになった。私にくっついていたクライアントが、年の近い子と話し出したので、私は母親の隣に戻った。
クライアントにあてがわれる部屋を見たかったが、クライアントだけが案内されていた。私は、あまり話しかけてこないが、こちらが尋ねれば話す母親に、男女交際、化粧、服装など家庭のルールやラインを確認した。やはり宗教的な理由からか、本人の裁量と言いつつも厳しいのが見て取れた。24歳を筆頭にほぼ2歳おきに子どもがいるが、誰も化粧や男女交際に興味がないのだという。明るく冗談めかした口調で年頃の子にはこっそり相手がいるかもしれませんよと言ってみたが、いやうちの子達は正直だからとの回答だった。母親に伝えたが、おそらく家長の父親に聞いてないのでそのことを確認すると母親が父親に伝えてくれるとのことで、お願いした。
なんとなく雲を掴むような気持ちになりながら、時計を見ると9時をまわっていた。お暇することにした。歓迎して次回を楽しみにくれている父親に、直接質問していないが母親に伝えたのでと言うかどうか迷ったが、母親に任せたので、そのままにした。このあたりの文化的なニュアンスがつかみきれなかった。車に乗って、運転席に座ったら、どっと緊張がゆるんだ。真っ暗な夜道を運転しながら、クライアントと感想を話し合う。嫌だがこれしか選択肢がないと言う。嫌なら辞めて良いことを伝えたが、この本人の切迫感、あとがない感覚はわかるつもりだが、本人にしかない重みがある。必要以上に後ろ向きにしたり心配になるようなことを言いたくはないが、非現実的な見当違いの励ましもしたくない。あまり追い詰めたくもなくて、切り上げてリラックスするように言う。職場に着いたら、どっと心身が緩んだ。どこか時空を超えた場所に行ってきた気がした。ポロリと言ったらクライアントも激しく同意していた。なんだか気持ちがいつもの場所にないような感覚。同僚に共有して、少し楽になるが、その同僚は私より感情的に反応していて、それを反射的にケアして、またさらに疲れた。
帰宅しても心の位置は戻らない。なんとなくざわざわとおさまらないが、翌朝のヨガに備えて就寝した。
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