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体重計に文句言うデブ-Europa-
あるところに、デブがいました。
身体中の至る所についた贅肉は彼の自堕落な生活の産物です。
デブは、ふと体重計に乗ると、たちまち顔を真っ赤にし、叫びます。
「俺が130kgのわけがねぇ! この体重計壊れてやがる!」
果たして壊れているのは体重計なのか……
──エウロパ
今は東暦213年。西暦に直すと2513年。
昔、西洋が世界をリードしていたが中国やインドを筆頭にアジアが徐々に台頭し、やがて西洋と軋轢を生み戦争になった。
戦争と言っても武力は使わず、技術力を競ったものだ。
結果的にそれは月、火星への進出と繋がり、それに大きくアジアが貢献したためにアジアが発言権を強め、西暦から東歴が採用された。
やがて、大量の水が存在する木星の衛星エウロパに人々は関心を寄せた。
生命の存在、それと新たな移住先に期待して人々はエウロパへ進出した。
いや、まさにこれから進出する。
「エウロパか……しかしもし宇宙人がいるとしてあの挨拶でいいのだろうか……知能を持ってるとも限らんが初の異文化交流なんてそんな物か……」
そう独り言を漏らすのはリョウ。エウロパへの調査員に選ばれた。
その挨拶は、手のひら大サイズのマイクロコンピュータのホログラム映像から流れる地球の環境、文化を見せてこちらに敵意がないことや地球について理解してもらうと言うもの。
「まあいい。そろそろ着くし調査の準備をしなければ」
降り立った先に広がるのは黄土色の土と海。
太陽も月もない、暗い海だった。
海が何色なのかもわからない。
その時だった。
「そこの方」
人型の女性に何故か日本語で話しかけられた。
「戸惑わせたならすみません。私はユーリア。あなたの心に直接話しかけています」
脳内に直接アクセス出来るというのか……!
知能は? 敵意は? 戦闘力は?
リョウはマイクロコンピューターと繋がっている、コンタクトレンズに移るモニターに計算式を表示し、高速で分析を試みる。
ユーリアは宇宙人だが外観は人間と変わりなく、その容姿は銀髪に赤い目の単なる少女だった。
「あなたも私に伝えたいことがあったら頭に浮かべてください。それを汲み取ります」
この女の言うことなど信頼ならない、コンピューターの解析が先だ。
しかしどうやら敵意はないとコンピューターは判断し、モニターに緑色で安全とうかぶ。
SAFEなどというくだらない英語は百年前には廃れた。
リョウはホログラムを見せる。
「これは我が星の文明です、素晴らしいでしょう」
そこに移るのは空を飛び交う車。
ロボットが代わりに労働をしている横で、豪勢な料理を食べる人々。
人間は食事が終わるとベッドに横たわり、ロボットにマッサージさせている。
そのような贅沢な様子が延々と再生されている
「どうです、我が星の文明は」
「一瞬、やや太い棒に緑色の何かが覆い被さっているのが見えましたがあれはなんですか?」
「あぁ、あれは木という取るに足らない生命ですよ。それより我々の文明、気に入って頂けましたか?」
「その木はとても気に入りました。この世のものとは思えない美しさだった……」
木? あんなくだらない物が素晴らしいというのか? 我々の文明より?
この女は感性が死んでいるのか。
リョウはそう気の毒に思う。
「この星も我々の星に何らかのメリットをもたらしてくれるなら我々の素晴らしい文明を共有しますが」
リョウはすっかり見下し、高圧的な態度を取った。
「いえ、いりません。木はこの星では育たないでしょうし」
まだ木がどうこう言うのか。あまりにエウロパの文明のレベルが低すぎて地球の素晴らしさが理解できなかったのかもしれない。
リョウが次に考えたのはこの星の利用だった。労働力はロボットがあるから十分だが、それは地球内のみ。
これから外の惑星へ進出するにあたって不足が懸念される。
つまりこいつらを飼い慣らし、繁殖させ、服従させたい。
「あなたは、何故そこまで対外進出に躍起になっているのですか?」
あぁ、そういえばこいつは思考が読めるんだった、面倒臭い。
「決まってるでしょう、我が星の文明を伝えるため、そしてより発展させるためです」
「おもちゃが代わりに労働しているくらいで満足してる文明が?」
それを聞き耳を疑う。おもちゃ? 我々の偉大な成果が?
「星の豊かさが個人の豊かさに繋がるとは限りません。木のような素晴らしい生命に感動する心がない時点でその精神性の飢えが見えます。あなたたちは驕っているだけです」
「ふ、ふざけるな!」
リョウはたまらずユーリアに殴りかかるも、空振りする。実体がなかった。
「私達は水中に住んでおり、陸地にバーチャルでホログラムのアバターを送る仮想生活をしています。はっきり言ってあなた方の星の文明は私が見てきた中でも最低レベルです」
それは地球の技術では未だに再現できない物だった。
そう言えばユーリアは異星人と出会ったと言うのに落ち着き払っていた。慣れているのだろう。
リョウはエウロパを、ユーリアを低レベルな劣ったものだと見下していたが、実際に劣っているのは自分だった。
「ただ、木は素晴らしいので大切になさる事をオススメします」
「なあ、俺たちが欠けてるのはなんなんだ?」
「心の豊かさ、でしょう。多くの異星人と関わり、それを満たすといいでしょう」
それからユーリアの紹介で、地球には地球外生命が来るようになった。
彼らは皆素晴らしい文明を持っていた。
どんな病も一瞬で直す薬、壊れた物を時間を巻き戻して直す装置。読んでも読んでも永遠に終わらない漫画。
しかしそれ以上に素晴らしいのは彼らの人のために発明を役立てようという心だった。
「木、増えましたね。地球は素晴らしい星です」
「あなたのおかげです。我々は素直さや謙虚さまでも失っていました」
人間は驕り高ぶっていたが、ここから本当の意味で成長する。
──
あるところに、デブがいました。
デブは体重計に文句を言うも、優しい人に言われました。
「体重計は間違っていないよ。間違っているのは君だよ」
「そうか、俺は間違っていたのか……じゃあダイエットしないとな」
それからデブは素直に自分の過ちを認め、自分の体重と向き合い、少しだけスリムになりました。