普通のサラリーマンでも実現可能な資産形成の方法とは?
PCを打ったり本を読んだり、一人で過ごすのに喫茶店とは実にありがたい存在です。そして、そこでは隣に座っている人の会話が盗み聞きするつもりでなくとも聞こえてくるものです。場所にもよりますが、筆者が行く喫茶店は投資や保険や不動産の話が多いです。
明らかな営業や紹介手数料目当ての話も多いので思わずツッコミを入れたくもなりますが、会社の同僚とのフツーの会話で「どの商品が儲かるの?」とか「この株がいいよ」という「商品ありき」の話題が悪気なく進められている事もあります。
「投資を始めたいけど、どの商品に投資すれば良いのかわからない」、これが多くの方にとっての本音ではないでしょうか。具体的に「どの商品」がいいかという「結論」があれば話は早いですよね。そして、身近な人から(場合によっては営業マンから)背中を押してほしいと望んでいるのかも知れません。
しかし、マネーリテラシー総研では「商品ありき」ではなく「判断のものさし」の提供を主眼に置いています。一見遠回りなようでも、自分で考えることが最も有益だと確信しているからです。
そこで今回は「普通のサラリーマン」が「満足のいく資産形成」をするためにどうすれば良いのかをテーマにしていきます。
普通のサラリーマンが可能な資産形成の方法とは
お金持ちになるための資産形成に関するノウハウ本には、あっという間にひと財産築けるようなものもあり興味深いのですが、筆者を含めた普通の生活者にとって「再現性」に乏しいものが散見されます。
「普通のサラリーマン」でも実現可能な資産形成の方法とは、一体どのようなものなのでしょう。
「本多静六」という方をご存じでしょうか。日本の「公園の父」と言われている方で、明治神宮や日比谷公園を始め奈良公園や福岡の大濠公園など数多くの公園設計を手掛けた林学者の東大教授でした。その一方で巨額の富を形成した投資家でしたが、大学を定年退官した際に財産のほとんどを寄付したそうです。
これだけを聞くとなんとも豪気な人物のように思いますが、本多氏は起業して大企業にまで育て上げた「カリスマ経営者」などではありません。「俸給(給与)生活者」、つまり公務員やサラリーマンのカテゴリーに入る方なのです。
氏の名著『私の財産告白』では、どのように資産形成をしたのかを自慢する訳でもなく淡々と記されています。昭和25年に出版された古い本ですが、資産形成の「本質」を突いていて今読んでも非常に面白い(文庫本で500円程度なので是非オススメします)。
どのようにすれば「普通のサラリーマン」に納得のいく資産形成ができるのか。この名著を元に「判断のものさし」を一緒に検討していきましょう。
内容は至極「当たり前」の事ばかりなのですが、これを長期間貫き通せるかどうか、ご自身と照らし合わせながら考えていただければ幸いです。
「雪だるま」の芯を作ることの重要性
サラリーマンには額の大小はあれど、「毎月の定期収入」という大きな強みがあります。そして毎月「給与天引き」で決まった金額を積み立てていけば、いろいろ考えなくとも資産は自然と増えていきます。
「そんなこと当たり前じゃないか」と斜に構えず、この地道な作業を「社会人」になってから即「実行」するか否か。ここで資産形成の「スタートライン」に立てるかどうかが決まります。
本多氏は『四分の一天引き貯金法』と称して給与の四分の一はなかった事にして、「一時的」には苦しくとも「将来の貧乏脱出」を目指して残り四分の三で生活を始めたのです。
「貯蓄はもっと稼げるようになってから」と言っている限りは、スタートラインにすら立てません。
なので「俺は普通のサラリーマンじゃないぜ」と粋がって派手に金を使うのも結構ですが(その方がモテるかも知れませんので)、こっそり「四分の一貯金法」だけは続けましょう。「決まった月給」というサラリーマンのメリットは思ったより大きいものなのです。
その一方で本多氏は『人間一生の収入を積み上げても多寡が知れている』とも言っています。ある程度の資産は形成できても、「金融資産が数億円」というレベルにはサラリーマンの「給与天引きだけ」ではなかなか到達できないということです。
まず積立貯蓄で『雪だるまの芯』を作る。そしてこのあとどうするのかが『到富の本街道』だと述べられています。
では具体的に本多氏はどうしたのか。まず明治20年当時の日本においては、延伸を続けていた「幹線鉄道」が将来有望とみて株式を購入しています。結果株価は順調に上がり、相応の資産を築くことができたそうです。
そこから秩父の山奥の(精通している林学に関連した)山林を買っていったのです。当地は国内随一の天然美林でしたが当時は道路も鉄道もなく、山林の買い手もいない状況でした。安価で大きく買い進めていったところ日露戦争後の好景気が到来し、木材の値上がりで立木だけを売却、それだけで土地購入価格の70倍となったそうです。
「昔は国も成長していたから、今と違って誰でも簡単に儲けることができたんだろう」って?いえいえ、昔は戦争や幾度もの恐慌などで損失を被った投資家も多かったのです。
資産形成の鉄則
では、投資で成功する秘訣とは何か。本多氏は何事にも『時節を待つ』ことが大切だと強調しています。『焦らず、怠らず、時が来るのを待つ』という事です。
まず『勤倹貯蓄』が資産蓄積の基礎で、『工夫と研究を重ねた投資』がこれを倍加させる。しかも時勢は常に変化を繰り返すから、この動きを巧みに利用してさらに大を成さしめる努力を怠ってはならない。
言い換えると、『好景気、楽観時代は思い切った勤倹貯蓄』 『不景気、悲観時代は思い切った投資』が鉄則で、『利殖の根本をなすものは「物と金」※の適時交換の繰り返し』と結論づけています。
※ここでの「物」とは「株式・不動産・事業出資」などを指しています。
我々は好景気時にパッと散財したり投資話に乗ってしまったり、逆に不景気時には勤倹貯蓄をしてしまいがちです。なので本多氏も「鉄則」だと強調して戒めているのでしょう。
投資で成功できない人とは?
上記を元に恥ずかしながら筆者の財産告白をしたいと思います。
【1. 積立貯蓄について:自己評価 ○ 】
バブル期に入社し本多氏流の「四分の一」よりも大きい「三分の一」の天引きで生活をスタート。社会人一年目は月4万円、ボーナスは半年毎に20万円天引きし、2年目の途中で残高が100万円を突破。ちょっと前まで学生で10万円を大金と思っていたところ、いきなり100万円を手にして「毎月の天引き貯蓄」の効果を強く実感。その後紆余曲折あったものの、どうにか平均して「三分の一」天引きを維持してきた。
但し子供の学費など途中の積立金引き出しは必要に応じ発生したが、学費以外の引き出しルールを厳格にしていなかったため計画の七割程度しか積みあがらず、そこが大きな反省点。
【2. 不動産購入について:自己評価 ◎ 】
リーマンショックや東日本大震災後の不況下で、不動産が割安となった好機を捉え自宅を購入。今まで積み上げたお金の七割を頭金に入れてローン総額は抑えめで設定。その後不動産価格は順調に上がり、相応の含み益を持つに至る。
平成前期に焦って割高な家を購入せず、デフレ下で積立貯蓄を継続し「機を伺う」というスタンスは悪くはなかったと評価。今後はいつ売却して、狭い家に住み替えて益出しするのかが大きな課題。
【3. 株式等の投資について:自己評価 × 】
20数年前に「複数の投資信託を組み合わせた金融商品」の販売責任者となった際に、人に強く勧めるからには自分も加入すべきという考えで投資を開始。検討の結果、世界株式ファンドが信託報酬(手数料)も安く、顧客にも推奨していたので選択。当時はITバブル崩壊の頃で基準価格も割安で、結果として今や基準価格は三倍になっているが、筆者は元本を一割ほど割っているのが現状。
なぜか。リーマンショクやコロナショックなど下落の初期段階で、世界株式ファンドからリスクの小さい債券や無リスク資産(預金)へ移管を行なったからです。暴落局面を回避してひと安心したものの、その後いつの間にか上昇する局面に乗れず、結果として元本割れです。(追記:その後米国株の高騰と大幅な円安によりどうにか元本を上回りましたが、25年かけてこの程度か・・という結果となりました)
行動経済学の「プロスペクト理論」では、人には「損を避けたい」という本質的な行動原理があると定義されています。筆者はこの行動原理に乗っ取って何度も行動してしまい、見事に損失を被ってしまいました。
経済コラムニストの大江英樹氏は、『人間は誰でも損をするのが嫌いですが、問題は“あまりにも損をすることを嫌い過ぎる”ということです』と指摘されています。そして『「お金に執着の強い人」は投資で成功しない』と結論づけています。
耳が痛いハナシです。植木等も歌ってました。『わかっちゃいるけどやめられない』と。筆者はこの意味では「投資に向いていない」カテゴリーに入ると痛感しています。
投資に向いていない人は無理に投資する必要はない
投資で大事なのは「工夫と研究を重ねる」事で、人任せにせず「自分で考え抜く」必要があります。そこまでの覚悟や時間がなければ、無理に投資を始める必要はありません。普通のサラリーマンでも筆者のように天引きを1/4から1/3に引き上げれば、投資に頼らずともそれなりに資産は増やせます。この数十年のデフレ基調の中では、「無理」に投資せず預金で持っていて良かったとも言えるのです。
サラリーマンには厚生年金保険があるので、「年金の上乗せ」分を最低限積み立てておけば、そして細くとも長く働く決意があれば、投資をせずとも老後は相応にやっていけるのです。
投資には様々な手法があり、選択は人それぞれです。そして必ずもうかるという事もありません。他人の意見を参考にする事はあっても、最後は自分自身で考え抜いて判断しなくてはならない。「何に投資するのか、いつからどのように投資するのか」を人任せ・業者任せにしたい方は、無理に投資しないほうがいいでしょう。
とは言え、筆者は「投資はバクチみたいなもんだから絶対やるな」などという意見に与する気は全くありません。まずは「無理せず」小遣い程度の少額で、内容を理解している会社の株や投資信託を購入してみるのは良い事だと思います。そこで株価や基準価格が上下したらどんな気持ちになるのか、また配当が思ったより大きいことなどを実感いただいて、自分で考える機会を持っていただくことはお勧めします。
今一度本多氏の鉄則をベースに、判断のものさしを以下に定義しました。
■「積立貯蓄」の効果は大きい。まずは「雪だるまの芯」を作る。
■焦らずに景気の循環を観察して、好況時は「勤倹貯蓄」を、不況時は「思い切った投資」を、タイミングを逃さず巧みに繰り返す(しかし簡単ではない)。
■人任せにせず自分で考えぬいて、工夫と研究を重ねた投資を行うべき。「どの商品が儲かるのか」などと聞いて鵜呑みにするようでは失敗する。
参考資料:
・「私の財産告白」本多静六氏 (実業之日本社文庫)
・「あなたが投資で儲からない理由」 大江英樹氏(日経プレミアムシリーズ 新書)
・「お金に執着の強い人」が投資で成功しない理由 (大江英樹氏)
https://www.hokende.com/news/blog/entry/oehideki/001
・「本多静六 若者よ、人生に投資せよ」 北康利氏(実業之日本社)
・日本の「公園の父」で、しかも大投資家の本多静六の本がやたらとおもしろい(加藤貞顕氏)https://note.com/sadaaki/n/n6729cf6636ff
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